「建設業っておもしろい!」──未経験から施工管理に挑戦した私が伝えたいこと
コロナ禍が転機となり、飲食業から建設業へと転職を果たした中島 美和子。未経験でも躊躇なく飛び込めたのは、前職で培ったコミュニケーション能力と、造船業で働いていた父親の姿を見ていたから。建設業のおもしろさをもっと多くの人に知ってほしいという彼女が、現場のリアルを語ります。【talentbookで読む】
女性も多く活躍する現場で、仲間と協力しながら楽しく働ける
私は2022年8月現在、新築マンションの建設現場で設備の施工管理を担当しています。今は工事がスタートして間もなく、基礎工事の段取りとして図面から配管の個所をチェックするなどの準備段階。現場が忙しく動き出すのが待ち遠しくてたまりません。
実は大学では栄養学を専攻していたので、建築はまったくの専門外。1年ほど前にアーキ・ジャパンに入社し、未経験で施工管理の道に入りました。研修後に設備工事のプロジェクトに着任となり、現在の現場が3カ所目です。
アーキ・ジャパンから同じ設備会社に配属されているスタッフは4名いて、全員女性。年齢や職歴はまちまちで、普段は持ち場も別々なのですが、わからないことがあればLINEで聞き合ったり、応援対応に行ったときに情報交換したりします。
建設現場は男性が多いというイメージがありましたが、これまでのプロジェクトも含めて、女性スタッフもたくさんいるんだなという印象。女性の現場監督も珍しくないですし、女性の方で左官や塗装の職人さんとして活躍している方も見かけます。
男性も女性も関係なく、仲間として協力し合う環境なので、尻込みすることなく楽しく働けていますね。
コロナ禍で大きな影響を受けた飲食業からの転身。安定性を求めて建設業界へ
私が大学を卒業したのは2019年。複数の飲食店を経営する会社に新卒入社しました。栄養学を専攻していたので、本社でメニュー開発に携わりたいと思っていたのですが、1年目は店舗に配属され、ホールとキッチン業務を担当しました。
希望した職種ではなかったけれど、店舗には活気があって、やりがいもありました。初めて迎えた年末年始には、目標としていた売り上げを超えることができ、忙しくてもそれ以上に仕事のおもしろさを感じられ、手ごたえのある日々でした。
しかし、2020年の年始を過ぎた頃からコロナウイルスという言葉を聞くようになり、じわじわとお客様が減り始めて……。私の勤めていた店舗が、当時「夜の街」として避けられた歌舞伎町に近かったことも影響して、緊急事態宣言が出た後は本当にお客様が来なくなってしまいました。
母体が大きな会社だったことから休業も難しく、来客がなくてもお店を開けざるをえない状況が続きました。自分はやりたいことに向かっていたはずなのに、ずるずると時間だけが食いつぶされていくような感覚になって、本当に落ち込みましたね。
そして25歳の誕生日を迎えたのを機に、会社を辞める決心をしました。目標としていた飲食業を諦めて、次に何をしたらいいのか全くわからず悩みました。そこで、私にはどんな職業が向いているのか、客観的な意見を聞きたいと思い、友人や家族に聞いて回りました。
その結果、「モノを作るのが好きなんじゃない?」といわれたときに、驚くほどすとん、と腑に落ちたのです。たしかに料理に限らず、もともと何かを作ることやその様子を見ることが好き。それを就職エージェントに伝え、いくつかの業種に絞っていきました。
そして、転職でどうしてもこだわりたかったのは、やはり仕事の安定性。コロナ禍で飲食業は経営が難しくなってしまったので、次に働くならどんなことがあっても仕事がなくならないような業界にしたいと考えていました。
そうして辿り着いたのが建設業。どれだけテクノロジーが進歩しても、建設現場では人の手が必要なはず。また、天災などで一時的に仕事がストップしたとしても、復興に必要不可欠なのもまた建設業だと思いました。
1カ月の研修中に2つの資格を取得し、厳しくもやりがいのある現場へ
建設現場に出て、作業着を着るとかヘルメットを被るということに抵抗がなかったのは、父親が造船業に携わっていたからかもしれません。造船所で作業員が歩き回っているのを小さな頃から眺めていましたし、作業着を着て出かけていく父親に「行ってらっしゃい」と手を振っていたことも、よく覚えています。
建設業界で仕事を探す上で必須条件としたのは、未経験OKで、かつプロジェクト先の調整を柔軟に対応してくれる会社であることでした。業界未経験の私には、建設プロジェクトがどんなところかわからない。ですから、人間関係などのミスマッチがあっても、別のプロジェクト先を探してもらえる会社なら心強いと思ったんです。
いくつかの派遣会社の中からアーキ・ジャパンを選んだ決め手は、事前に1カ月の研修があり、そこで資格も取らせてくれると聞いたこと。未経験の新入社員にも、資格取得の後押しという形でしっかり投資してくれる会社なのだなと感じ、入社を決意しました。
研修では、建設現場についての基本的な知識から始まり、CADの基礎的な操作やレベル出しの作業などを学びました。また、現場に出るために必要な、職長・安全衛生責任者とフルハーネスという2つの資格も取得できました。
研修後に初めて着任したのは、未経験の女性スタッフを受け入れてくれる設備会社でした。プロジェクトによっては、お手洗いや更衣室が男女でわかれていないケースもまだまだ多いようですが、ここはしっかり整っていて、働きやすい環境にホッとしました。そうした点も考慮して配属先を決めてくれるのが、とてもありがたいですね。
最初の現場は、大学の空調設備の改修工事。研修で業務の基礎的なことは学んだものの、やはり実際にやってみるとわからないことだらけで、最初の2カ月くらいは毎日のように怒られていましたね(笑)。「怒られる」というと悪いイメージかもしれませんが、現場では非常に大切なことなんです。
たとえば、職人さんに危険な作業をお願いしなければならないのに、管理者の認識が甘ければ、誰かにケガをさせてしまうかもしれません。また、工事現場では「モノを落とす」という誰もが起こし得るミスが、大事故につながりかねません。そうした危険を防ぐために、現場では厳しく指導されるのです。怒られた意味をしっかりと理解し、同じことを繰り返さない──これをいつも心掛けています。
私たちの生活に欠かせない建設業。その大切さやおもしろさを伝えたい
今の現場は新築工事なので、設備担当として空調だけでなく、上下水道などの衛生工事にも携わる予定です。空調については前の現場で経験がありますが、衛生の知識はまだまだ勉強中。工事についても、改修と新築では気を配る視点が異なるので、気を引き締めて臨みたいですね。
現場でのコミュニケーションという点では、前職の経験が役に立っています。飲食店では、お客様だけでなくアルバイトを含めたスタッフや仕入れ先の方など、相手に合わせたコミュニケーションが求められました。
建設業界の場合も、クライアントや施工会社、他の協力業者、職人さん、運搬会社など、本当にさまざまな立場の方と関係性を築く必要があります。
実は私、学生時代まではどちらかというと人見知りで、自分から人に話しかけるのが苦手でした。しかし飲食店で働くうちに、いつの間にかそれが苦ではなくなったんです。その経験がなかったら、今のように現場で職人さんに気軽に話しかけることもできなかったかもしれません。
また、建設業という新しい世界に飛び込んで、自分の視野が広がったように感じています。たとえば、飲食店に入ると、これまではメニューばかり気になっていましたが、今ではすぐに店内を見回すようになりました。天井が露出していて空調の配管がむき出しになっていたりすると、もう目が離せません(笑)。こんなにおもしろいものが今まで目に入らなかったなんて、むしろ不思議なくらいですね。
建設業に転職したというと友人からは驚かれますが、今の私からすると、みんなにもっともっとこの業界のおもしろさを知ってほしい。もちろん、現場に行けば汚れることもあるし、ヘルメットで髪がぺちゃんこになることもあるけれど、建設業がなければガスも水も出ず、家に住むこともできないですよね。「私たちの生活に建設業は欠かせないし、楽しいんだ!」と叫びたい気持ちです。
特に建物が作られていく過程を見るのが好きなので、現場に出るのが楽しくて、どちらかというと事務作業は苦手。でも、今後のキャリアプランを考えれば、事務作業や図面を描くことも覚えていきたいですね。図面に名前が残って、それがずっと保存されていたら、自分の仕事の痕跡が残せるのではないかな、と。上司からは「野望がでかい」と笑われましたが(笑)。この世界に飛び込んだからにはもっともっと欲張って、たくさんの仕事を覚えていきたいと思っています。