100年後の未来のために、社会にインパクトを。創造性溢れるキャンペーナーという仕事 | キャリコネニュース - Page 2
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100年後の未来のために、社会にインパクトを。創造性溢れるキャンペーナーという仕事

▲グリーンピース・ジャパン プログラム部長の高田

世界55以上の国と地域で活動し、グローバルで連携して環境問題解決を目指す国際環境NGOグリーンピース。その日本支部、グリーンピース・ジャパンで、活動の根幹であるキャンペーンを統括しているのが高田 久代です。グリーンピースで働いてきた高田が、この仕事の魅力、そして働き方の多様性について、自身の考えを語ります。【talentbookで読む】

キャンペーンの考案は、クリエイティビティ溢れる仕事

国際環境NGO・グリーンピースの日本支部として、1989年に設立されたグリーンピース・ジャパン。「地球の恵みを、100年先の子どもたちに届ける」ことをビジョンに掲げ、55の国と地域に広がるグリーンピースの各支部と連携しながら、地球規模の環境問題の解決に向けて活動しています。

そんなグリーンピース・ジャパンの柱となる活動が「キャンペーン」です。高田は、2019年1月からキャンペーンを統括するプログラム部長に就任し、先頭に立って、グリーンピース・ジャパンの活動を引っ張ってきました。

高田 「私たちの行うキャンペーンは、問題を社会に訴え、解決の一歩を踏み出すために起こすアクションなんです。国際環境NGOのキャンペーンと聞くと、座り込みや署名活動をイメージするかもしれませんが、それは一側面に過ぎません。問題を解決するために、今、だれに、何を、どんな方法で訴えるのか?行政や企業の動きをキャッチし、世論を読みながら活動をデザインしていく、とてもクリエイティブな仕事がキャンペーンの企画です」

いつもワクワクしながら仕事をしていると語る高田。国際NGOのグリーンピースだからこその環境も、とても刺激的だといいます。

高田 「世界中の仲間が、国際会議に参加し、最新の情報を得て帰ってきます。世界中の仲間が、情報をもとに、より良い方法はなんだろう?といつも自分たち自身の考えに挑戦しているんです。夢物語のような、こうなってほしい!という未来を真剣に考えて、現実とその夢とのギャップを、真剣に埋めていく。私も一員としてこの活動に参加して、一緒にその仕事ができること自体がすごく楽しいんです」

2011年~2020年まで取り組んだ「デトックス・キャンペーン」は、高田が関わった中でもっとも成功したキャンペーンのひとつです。大手スポーツ用品メーカーや、衣料品メーカーに対し、工場から出る化学物質による水汚染をなくすことを求めるもので、ナイキ、アディダス、プーマやH&Mなど衣料品関連企業に対し、各国のグリーンピースオフィスが働きかけを行いました。結果、80社が2020年までに有害な化学物質のデトックスを宣言。それらの企業のうち80%が、代表的な有害物質であるフッ素化合物(PFCs)を完全に排除し、残り20%の企業も排除に向けて動き出す状況を作りました。

高田は、キャンペーナーとして、対象となった日本企業であるファーストリテイリングとの対話に参加。同社は2013年という早い段階から、情報開示や目標の設定、全廃計画の発表を進め、使用制限物質のリストを公表するなど世界中の企業を牽引するリーダー的役割を果たしました。

高田 「世界中で連携して、大きな企業に働きかけて新しいスタンダードを作ることができたキャンペーンでした。実際に自分が動き、ファーストリテイリングさんとお話を重ねていったので、とても印象に残っています」

「グリーンピースで働いて、嫌だったことは1つもない!」

▲外国人記者クラブにて、東電福島第一原発事故から3年を受けて記者会見する高田らNGO(2014年)

キャンペーンの仕事は、風当たりが強い仕事のようにも思えます。しかし、高田は「全然大丈夫なんです。私、今までグリーンピースで働いてきて、嫌だと思った仕事は1つもないんですよ!」とあっけらかんと笑います。

高田 「もちろん、『なんでこの話をわかってもらえないんだろう!』など、瞬間瞬間でフラストレーションがたまることはありました。でも3日以上持続するようなネガティブな感情になったことはないんです。こんなに楽しくて、お給料もらっていいのかなと思うくらい。唯一大変だと思うのは、やりたいことがあり過ぎることですね(笑)。やりたいこと・お給料・人間関係、その3つのピースがすべてピッタリとはまっていて、だから、こんなに長く働いているんでしょうね」

NGOやNPO業界は、一般的には流動性の高い職場といわれます。しかし、高田はグリーンピース・ジャパンで働いて20年以上になります。その間には、二度の出産・産休も経験しました。二児の母となった今も、1日8時間のフルタイム勤務を続けています。子どもを迎えに行く16時以降は仕事に時間を割けないため、朝7時から始業し、早朝勤務スタイルで勤務しています。

高田 「子育てしながら働くのは、やっぱり大変ではあります。でも、フレキシブルで多様な働き方を認めてくれる職場なので、やっていけています。産休育休もどうぞいってらっしゃい!と送り出してもらい、休みが明けてからも普通に受け入れてくれて、昇級もさせてもらいました。子どもが熱を出して急遽休む時も、上司・チームのみんなが、『良いよ良いよ』と言ってくれます。あたたかくて良い職場だなあとありがたく思っています」

出産前は、仕事が楽しく「いくらでも働きたい」と思っていたという高田ですが、今は一定時間の中でいかに成果を出すかを重視するように、気持ちと働き方が変化したそうです。

高田 「たとえるなら、今は安定運転モード。同じ人でも、ガンガン働きたい時期もあれば、安定運転したいときもある。家庭環境や健康状態など背景が変われば、それに合わせて働き方も変えていくのは当たり前だと思います。毎日短時間働いたり、週の半分だけ働いたり、私自身これからも、気持ちや状況に合わせ、みんなと相談しながら働き方を変化させることにも関心を持っています」

「環境問題を仕事にしたい」子どものころから貫いた想い

▲ニュージーランドのNGO団体「ZERO WASTE NEW ZEALAND TRUST」に勤めていた時の高田。日本からの視察の方を迎えた時の写真

高田にとっての原点は、「自然が好き」というシンプルな想いです。週末は両親と共にハイキングやアウトドアを楽しみ、夏休みには、新潟で米農家を営んでいた祖父母の家に滞在して里山を駆け回って遊んでいました。環境問題への強い関心が芽生えたのは、小学4年生の時。スタジオジブリのアニメ映画「風の谷のナウシカ」を見た時に受けた衝撃が大きかったと話します。

高田 「中学生になるころには、環境問題をどうにかする仕事をしたい、とはっきり考えていました。でも、それってどういう職種になるのか全然わからなくて……森林を再生させるには植林かな、と林業を調べたり、きっと国際的な仕事だろうと英語の勉強を頑張ったり、アマゾンの熱帯雨林に出かけたら危険もあるかもしれない、と空手を習ってみたり。環境問題の解決のためにはやっぱりお金の流れを理解することも大事だろうからと大学は経済学部を選びました」

環境問題を解決する仕事をしたいという気持ちによって、学び、行動し続けてきた高田。しかし長い間、「グリーンピース・ジャパンで働く」ことを思いつくことはありませんでした。団体の存在自体は知っていたものの、接点がなく、活動内容は知らなかったのだといいます。グリーンピース・ジャパンの出会いは、高田が大学生の時に訪れます。グリーンピース・ジャパンが翻訳した本『ゴミポリシ──燃やさないごみ政策「ゼロ・ウェイスト」ハンドブック』を読んだことがきっかけでした。

高田 「ちょうどニュージーランドにワーキングホリデーに行こうとしていたタイミングでした。その本の中で、ニュージーランドのゴミ問題に取り組む団体が紹介されていたんです。ぜひ訪れてみたいと思い、詳しくお話を聞かせてくださいという旨のメールを送ったところ、『良いですよ』と返信があり、事務所を訪問することなりました」

そして、初めてグリーンピース・ジャパンの事務所を訪れた高田は、「ここの人たち、環境問題をなんとかするために働いている!」と、職員たちを見て感動したのだと言います。

高田 「PCで海外のスタッフと森林のことを話していたり、国際会議でいかに世界に気候変動の危機を訴えるかホワイトボードの前で会議をしていたり。木を植えたり、ゴミ拾いをしているわけではないけれど、組織として職業として、環境問題を訴えているのだと、リアルになったんです」

ワーキングホリデーに行く前から、高田は、ボランティアやアルバイトとしてグリーンピース・ジャパンのキャンペーン活動をサポートするように。その後ニュージーランドに渡ってからも、前述の団体に勤めながら、オンラインでグリーンピースの活動にも参加し、帰国した後には、再びアルバイトを経て職員として働くことになりました。

未来を描き、そこに向かって自ら歩ける人を増やしたい

▲水産庁に南極海の保護を求める署名を提出(2018年)

「地球の恵みを、100年先の子どもたちに届ける」。

これは、グリーンピース・ジャパンが掲げるビジョンです。高田自身は、100年後の理想の未来の姿を、どのように描いているのでしょうか。

高田 「100年後というと、人生100年時代と仮定すると、娘も息子もまだ80代で生きているかもしれないんです。そう考えたら、すごく自分とつながっているなと思って、今、団体のやっていることの価値をいっそう実感しながら取り組んでいます。100年後には、やっぱり少しでも問題が解決されて、良い方向に向かっていってほしい。でも、おそらく環境問題が全部きれいさっぱり解決しているということはないんじゃないでしょうか」

意外にも、問題は解決していないという答えを口にした高田。単純に何かを減らせば良いのではなく、どうやってそこに辿り着くかが重要だといいます。大気中の二酸化炭素を減らすという目的であれば、世界中で開発されている二酸化炭素を吸い込んでしまう機械を使う方法もあります。肉は環境負荷が高いので代替肉を培養する方法もあります。それらの研究や開発も必要でしょう。

しかし、地球の環境の中で調和して循環する生態系の環から私たちの暮らしが大きくはみ出してしまっていることが環境問題の根本原因であることを考えれば、そうした先端技術に頼り切ることは、私たちをますます自然から切り離してしまうのではないでしょうか。そんな未来は、グリーンピースも、高田も目指している未来ではありません。将来世代に「地球の恵み」を届けることができていないからです。

高田 「二酸化炭素を減らすことが最終目的なのではなく、もっと包括的に、どんな社会を望むのかを考え、それを実現するために歩んでいくのが、私たちの活動です。未来と現実のギャップをどう埋めていけば良いのか。埋めていく活動を、仲間と一緒にやっていきたいと思っています。

そんなふうに辿り着いた100年後はきっと、問題が全部きれいに消えていなくても、問題あるねじゃあどうしようか、と考えられる人、動いていける人がたくさんいる未来。そしたら、問題はあっても、未来はきっとどんどん、良くなっていくはずです」

高田は今後、ポジティブに企業を巻き込みながら、日本の風土にあったオリジナルなキャンペーンを展開していきたいと語ります。想いを持った人が活動して、仲間を増やし、うねりを作っていくグリーンピース・ジャパン。高田の起こしたうねりは、問題に立ち向かい、望む未来を切り開く力になっていくに違いありません。

高田 久代
プログラム部長
大学卒業後、ニュージーランドに渡航し、2005年より現地NGOのZero Waste New Zealand Trustでスタッフとして勤務。2010?よりグリーンピース・ジャパンのキャンペーナーとなり、海洋生態系問題や有害物質問題に取り組み、2010年10月から2015年6月まで気候変動・エネルギー担当を務める。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、グリーンピースが定期的に実施する放射能汚染の実態調査や、関西電力大飯原発(福井県)および九州電力川内原発(鹿児島県)の再稼働に環境と住民保護の観点から反対する立場で活動に携わる。2014年7月から、グローバル・プロジェクトリーダーとして、自然エネルギー100%の日本を目指す国際プロジェクト「エネレボ」をドイツ、ベルギー、スイス、フランスの各グリーンピースとともに開始。2015年7月よりエネルギープロジェクトリーダーを務め、2019年1月より現職。2児の母でもあり、朝7時からの早朝勤務スタイルで子育て中。

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