“やってみなはれ”精神を胸に──生活に、新しい価値を。美大卒、元代理店社員の「挑戦」 | キャリコネニュース
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“やってみなはれ”精神を胸に──生活に、新しい価値を。美大卒、元代理店社員の「挑戦」

サントリー創業者の言葉“やってみなはれ”。失敗を恐れず挑戦せよ、というその想いを胸に、社員は日々業務を遂行しています。そのような中、新ブランド「GOROCHA(ゴロチャ)」を立ち上げたのは、イノベーション開発部所属の白石 文香。やってみなはれ精神で挑戦する裏で感じた苦悩や、意識の変化を語ります。【talentbookで読む】

社員一人ひとり“やってみなはれ”の解釈は異なる。それでも根底にある「共通意識」

“やってみなはれ”は、サントリーが手がける事業の原動力となる大切な価値観。ただ白石は、“やってみなはれ”の意味するものについて「解釈は社員一人ひとり異なる」と言います。

白石「今ある業務を改善することも、全く新しいことに取り組むことも、どちらも“やってみなはれ”の体現です。

ただし、社員全員の共通意識は、〈失敗を恐れることなく新しいことにチャレンジするDNA〉がベースにあるということ。〈新しいこと〉とは、今ある“条件”を集めて“答え”を出すものではなく、現状に甘んじない姿勢で生み出すものです。そしてイメージするゴールに向かって、妥協せずに、既存の価値観を越えていくことが“やってみなはれ”の根底にあるものだと考えます」

とはいえ、“やってみなはれ”には責任も伴います。“やってみる”ことが負担になることはないのでしょうか。

白石「〈新しい〉ということは正解がないということでもあるので、模索する日々です。でも、『失敗するかも』『できないかも』などとネガティブな未来ばかり考えていては、仕事が楽しくありません。

むしろ『こんな商品があったら、世の中の人々にこんな幸せをお届けすることができるな』と、わくわくしたビジョンを思い描くようにしています。そのほうが、途中困難があっても、できる方法を考えて、突き進むことができるからです」

新ブランドの立ち上げという挑戦と、“やってみなはれ”ゆえに味わった苦悩

▲白石が立ち上げた新ブランド「GOROCHA(ゴロチャ)」

白石は紅茶飲料の密封包装商品の開発に携わりました。その名も「GOROCHA」。飲料といえば缶やペットボトルといった容器が主流の中、白石が採用したのは透明スタンディングパウチ。中には、大きな果実も取り入れました。

前例のないことに取り組む際の姿勢について、白石はこう語ります。

白石「最初に機動費を申請し、その予算内でまず自分でプロトタイプを作り、関連部署との打ち合わせに臨みました。プロトタイプが手元にあるとリアリティが出て、商品イメージを伝えやすくなりますし、他部署とも認識が揃い、話も弾みやすくなるからです」

しかし、包材も中身も新しいチャレンジ。開発の過程で、高いハードルがいくつもあったといいます。

白石「最も苦労したのは、大きな果肉を入れることでした。サントリーでは、3~5cmもの大きさの果肉を入れた商品は、それまでありませんでした。たとえば既存飲料ブランドから新しい味を出すといったものであれば、生産実現性がある程度見える中で進めることができますが、今回はすべてやったことがないものばかり。狙いの品質を実現するために、考えなければならないことがたくさんありました」

白石にとっては実現したいイメージが明確でも、その実現に向けては社内に知見がなく、まさに手探り状態だったそうです。

白石「実現に向けて、さまざまなハードルが明らかになり始めたとき、上司から『できないで終わらせるのではなく、できるようになるにはどうしたらよいかを考えよ』と言われたのです。その言葉が胸に刺さりました」

それこそが“やってみなはれ”。白石の本当の奮闘は、そこからでした。

白石「まず、実現するための案を自分なりにいくつか考えました。そして、上司に“壁打ち”相手になってもらって、何度も何度もディスカッション。

〈道は必ずある〉という前提で、一緒に取り組んでもらえたのは心強かったです。サントリーのもう一つの社風として、“間違っていてもいいから、まず自分の意見を言ってみよう”を大切にするカルチャーがあったからこそだと思います」

“やってみなはれ”の精神でイメージを具現化する過程で、身についたスキルもありました。

白石「与えられた仕事をこなすだけではなく、オーナーシップを持って自らがビジョンを持ち、定めた目標に向かって積極的に進んでいけるようになったと思います。ベンチャー企業の経営者のような感覚で動けるようになりました」

想定と違った現実に直面することで、柔軟な考え方も身についたようです。

白石「お客様の声を集めることを目的に、コンビニ、スーパー、ECといったさまざまな接点の中で小規模で販売しました。約300円という高価格帯の商品にも関わらず、想定よりも売れる店舗もありましたし、当初のターゲット層は女性でしたが、男性の方にも購入いただけました。

想定と現実が違うことは多々あります。スピード感をもってローンチさせ、お客様の反応を見ながらブラッシュアップしていく、という開発スタイルを取ることも有効だと学びました」

課題解決に向かう馬力が養われた「美大」と「広告代理店」

▲検討初期のデザイン案。BOSSブランドやGokuriブランドでの商品化も検討していた

難題に立ち向かう馬力は、どこから来るのか。秘密は、美大出身という白石の経歴にありました。

白石「大学では、グラフィックデザインやソーシャルデザインを学んでいました。課題に対し、具体的にモノを提示して応える習慣は、美大生ならではかもしれません。今、何かアイデアを思いついた時、プロトタイプの絵を自分で描いて提案できるのは、そうした美大時代の経験が活きていると思います」

では、どのようにしてそのアイデアは生まれるのでしょうか。

白石「身近な社会課題から考え始めることが多いかもしれません。たとえばGOROCHAの場合、コロナ禍により外出機会が減ったぶん、家で飲食する機会が増えたという背景がありました。在宅時間の中で寛ごうとするとき、コーヒーか紅茶、あるいはジュースといった選択肢がありますが、それだけだと変化がない。行動が限定される状況下でも、イエナカで“新体験”を感じられる飲料があれば、少し豊かな時間を過ごせるのではないかと考えました。でも、面倒な手間がかかるのは避けたい。

そこで思いついたのが、注ぐだけのワンアクションでカフェ気分を味わえる本格的な果肉入りフルーツティーだったのです。

そのうえで、イエナカの生活スタイルでは、容器がペットボトルである必要はないと考えました。省スペースでストックしやすく、また飲用後も捨てやすいものとして、カップ型や缶詰めタイプも最初は検討しました」

スタンディングパウチの採用に至るまでには、「足」も使いました。白石は、理想の容器を探し求めて、道具街で有名な浅草・かっぱ橋に何度も出向いたと振り返ります。

白石「実際に何パターンかのサンプルを買ってサイズ感を確認するなど、試行錯誤しました。自分の頭の中にあるものは、バイアスがかかっていることが“前提”。アイデアにも限りがあります。そのため、広くアンテナを張り、足を使って情報を取りに行くようにしています」

そんな白石は、実は経験者採用。前職は広告代理店のクリエイティブ局で、アートディレクターをしていました。今とは仕事の進め方が「真逆」だと言いますが、「無駄な経験はない」と振り返ります。

白石「ポスターやCMなどを制作する専門職では、“どんな世界にしたいのか”というゴールのイメージからブレイクダウンして提案資料を作っていきます。

今はゴールに対して、ボトムアップというイメージで一つ一つ積み重ねてゆく。思考の流れは真逆ですが、当時の経験があるからこそ、大きなビジョンを持った姿勢でものごとに取り組めていると思います」

新しい生活文化を創りたい。「現状に甘んじない」白石が目指す姿

▲製造工場まで行き、GOROCHAの製造第1箱目と

GOROCHA発売後、白石の元には「家での時間が楽しくなった」という声が多く届きました。今後の展望について、白石はこう話します。

白石「GOROCHAが存在することで、お客様の時間が豊かになっていただければ何よりも嬉しいです。今は、来年のGOROCHAの戦略を考えている最中。より多くの方に体験していただき、新しい生活文化を創りたいですね」

“やってみなはれ”の社風の中で成長しつづける白石。自身の将来像について、こう語ります。

白石「やはりサントリーであることを活かし、社会課題を解決するCSV(Creating Shared Value)の案件に取り組みたいです。社会のニーズや問題に積極的に取り組み、社会に対しても事業としても価値のある “三方よし”の新しいイノベーションを創造したいです」

美大、広告代理店、そしてサントリー。すべてを糧にしながら、白石の“やってみなはれ”は、まだまだ続きます。

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