失敗が賞賛される企業風土では、事業撤退経験が価値であり強みとなった | キャリコネニュース - Page 2
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失敗が賞賛される企業風土では、事業撤退経験が価値であり強みとなった

パーソルイノベーションのR&D統括部インキュベーション推進部事業企画室に在籍する、越智 聖人。シリアルイントレプレナーとして、新規事業の創出における、企画立案・実行を担っています。2019年から約3年にわたり走り続けた、越智が起案したサービス「omochi」の事業運営と撤退経験について紐解きます。【talentbookで読む】

撤退間際に盛り上がる?「若者が検索しない」ことをヒントに生まれた「omochi」

24個の質問に答えると、回答者は「さくらもち」「きなこもち」などの8タイプのomochi(おもち)キャラクターに分類され、それぞれのタイプに合ったアルバイト情報やインターン情報がレコメンドされるサービス。それが、「omochi」です。

2020年6月に正式ローンチしたこの一風変わった求人サービスは、10~20代の若者に支えられ、2021年12月時点で累計利用者数が33万人を突破するまでに成長しました。

越智 「それまでのアルバイト求人サービスは、歴史の経過とともにユーザー層も高齢化し、若者のシェアが競合と比べ低い状況にありました。そこで、ユーザーインタビューを実施。見えてきたのが、UX(ユーザーエクスペリエンス)における課題でした」

UXにおける課題──それは、「探し方が分からない」という若者の声でした。

越智 「現代の若者たちにとって、情報取得の場はSNSです。SNSの特性上、ユーザーは、タイムラインに流れてくる情報やレコメンドされた情報を受動的に得ることが多くなります。

そのため、そもそも自分の欲求を要件として言語化することに慣れにくい状況があるのです。そこから気がついたのが『若者の検索離れ』でした。また、仮に検索したとしても、インターネットでは、紙の求人誌よりもはるかに情報量が多いため、 “自分に合ったものが探せない“という状況もありました」

そこで越智は考えます。求人情報をいきなり検索してもらうのではなく、情報の探し方をガイドする指標をこちらから示せばいいのではないか──。

この構想を実現するため、越智は、2018年にパーソルグループが実施している新規事業創出プログラム「Drit(ドリット)」(当時の名称は「0to1(ゼロトゥワン)」)に「omochi」の企画案を提出。社内の審査を通過し、念願の新規事業を立ち上げることになりました。

越智 「これまでは求人マッチング事業は法人ビジネスであるために、スポンサーとなる法人のニーズや満足度ばかりに目が行ってしまい、ユーザー(求職者)のニーズや満足度にフォーカスされていませんでした。その“ふつう”を疑い、ユーザー視点から新規事業はスタートしました。

構想を具体的なものにするためにまず考えたのは、事前サーベイで求職者の特徴を把握し、マッチ度により情報に優先度をつける仕組み。そして、求職者が自分に合った情報だと思えれば、求人情報は決して多くなくても良いという仮説を立て、検証しました。

すると、都内の一部地域に限定して行ったテスト版における成果が上々だったんです。求人の情報量が少なくても、サーベイとマッチ度に促されて応募する人が一定数いることがわかりました」

順調な滑り出しに見えたサービスでしたが、2020年6月のローンチから約1年10カ月で、事業撤退することになります。

失敗から学んだ「ふつうを疑う」だけでなく、「それは最後の答えか」と自問する大切さ

スタートアップ企業さながらのスピード感で運営した「omochi」は、2022年3月で終わりを迎えました。どういった課題から、こうした結末に至ったのでしょうか。

越智 「まず、集客と同じペースでコンバージョンが増えていきませんでした。診断コンテンツのエンターテインメント性が強すぎたことで、アルバイト検索体験へのブリッジがスムーズにいかなかったんです。

データについては、特徴量を抽出しながらさまざまな検証を行うことができましたが、ここには当初想定していなかったコストの問題が大きくのしかかってきました。

多くの技術的可能性があるなかで、効用の大きそうな技術を選定し、さらには精度の高いユーザー仮説を作って検証を省力化していくことが、開発組織上の課題としても残りました」

パーソルイノベーションのバリュー(※)でもある「ふつうを疑う」ことからスタートしたプロジェクト。しかし、疑うことで導き出された仮説にこだわりすぎてしまったのではないかと、越智は振り返ります。

越智 「たとえば、『omochi』ではキャラクター診断が若者を中心に大いに受けました。これは、企業側に寄り添うこれまでの“ふつう”を疑い、ユーザーに寄り添うサービスとしての仮説から生まれたものでした。

しかし、『今バイトを探したい求職者』とは距離があり、『今バイトを探している求職者』に対してお金を払う市場原理と少し離れてしまいました。今となっては、もう少し企業に寄り添っても良かったと反省しています」

「ふつうを疑う」という批判的な態度は、科学的かつ進歩的でとてもワクワクするもの。しかし、疑って得た仮説に固執すると、確証バイアスが働きやすくなる。そのことを、越智は身をもって体感したのです。

越智 「この事態を避けるためには、『それは最後の答えか』の問いに対して、事前に回答できるくらいシナリオを考えておくことが必要だと感じています。

新規事業は『リーンにやってなんぼ』なところがあり、かつ新規事業オーナーであれば拙速に検証したくなる気持ちが強いと思います。しかし、すでに多くのアイデアはあまたのスタートアップや新規事業部門によって試しつくされています。

こういう状況だからこそ、『最後の答えか』という質問に自分はこたえられるだろうか、と自問し続けることが大切だと感じました。『速さを武器に』と両立するのは難しい部分だと思いますが、二律背反を埋める行動がイノベーションにつながるはずです。『最後の答えか』という問いはとても大事だと、今は思います」

※パーソルイノベーションのミッション遂行において大事にしているバリュー(1. ふつうを疑う、2. 速さを武器に、3. それは最後の答えか)

「omochi」が撤退したなかでのアワード受賞。会社に根づく、失敗を賞賛する文化

「omochi」が撤退したとはいえ、越智はその成果や、力量を認められて、パーソルグループの全社員から優秀な社員を選ぶアワードで賞を獲得。さらには撤退から学びを得て、失敗を糧にしています。

越智 「最終的に『omochi』は、サーベイ受診者が50万人を超えましたし、月のユニークユーザー数も15万人にまで成長。あくまで推計ですが、求職者へのリーチコストの点でも、競合と比較した場合に優位に立ててもいました。

診断コンテンツは利用者を集めることへ大きく貢献していましたし、コンテンツを用いた集客の可能性も感じられた経験だったと思います。また、診断結果がSNSに投稿されることで、機能に対する具体的な評価が見えたことも良かった点です。

診断というエンターテインメント的な要素が、認知を広めると同時に、ユーザーの生の声を拾うことにも役立つことも、学んだことのひとつでした」

「omochi」を撤退してから半年は、事業企画室にて新規事業領域の探索や、アドバイザーとして既存サービスの支援に携わっている越智。デジタル領域出身として、このポジションにいる意味を次のように語ります。

越智 「労働人口が減るなかで、新しいはたらく形や仕事との出会いの場が必要になってきます。

テクノロジーを活用して、その課題の解決方法を見つけることはもちろん、それをパーソルイノベーションとして提供できるように、アイデアを実現できる環境を作っていくことが、今の自分の存在意義だと思っています。そのためには、既存のビジネススタイルにとらわれない自由な発想が必要です。

また、サービス運営を経て、新規事業での探索の重要さも実感しています。イノベーションを起こすためには、さまざまな視点を持ち続けることが必要なんです」

アドバイザーの立場を選んだのには、もう一つ理由がありました。それは、omochiを支えてくれたメンバーや会社にお返ししたいという気持ちがあったこと。

今は、パーソルイノベーションで急成長している副業マッチングサービス「lotsful(ロッツフル)」が業界に一石を投じようと始めた調査にも、越智は協力しています。

越智 「既存事業のアップデートも、新規事業につながるものです。先日、リリースを発表した『lotsful』は、ほぼ毎月の頻度で調査を実施しています。事業サイド、広報、自分と横断的なプロジェクトでどんな調査であれば、世の中にも有益なものであるかを考え、分析をしています」

今の目標は、良質な事業の多産多死のための仕組みや環境を作っていくこと

2022年12月現在、越智は事業企画業務の合間を縫って、平日夜・休日に大学院へと通っています。

越智 「これまで、経営などの勉強などはしてきたものの、社会のことについては全然理解できていないと感じていました。企業が社会課題などにどう取り組むかを考えたときに、どうしてもビジネス発想になっていたんです。

そこにギャップを感じ、自分の視野を広げるためにも、公共政策などを学ぶ大学院に通い始めました。最近では、お世話になっている教授が大学内に作った研究所の客員研究員として、学会で事例発表なども行っています」

趣味は食べ歩きで、パン屋、もつ焼き屋、クラフトビール店にもよく通う越智。人が一堂に会することが少なくなった今、飲みの場はイノベーションの観点からも大事だと言います。

越智 「飲みの場は、非連続な考えやアイデアを生むためにも必要ですし、普通の会議からは生まれない話もできると実感しています。テレワークは効率的ではありますが、単調にもなりがち。長期で見ると生産性などの課題もあります。今後はオフライン交流も意識して、新たなイノベーションを生み出すヒントを得たいですね」

今後は、より多くの人に価値提供をしていきたいと語る越智。今後も多くの事業を生み出していく方針を掲げる「Drit」とも重なるビジョンです。

越智 「パーソルイノベーションの新規事業開発においては、多産多死モデルを取り入れていますが、より良質な多産多死を実現できる環境づくりをしていくことが今後の目標です。事業を潰すことは簡単。生み出すことはとても難しいです。そんななかで、たくさんの事業を生み出す際にネックとなるのが、『情報』。

というのも、新規事業立ち上げの際、うまくいかない要因のほとんどは、顧客からのニーズがないことなんです。情報環境が整備されているか、誰もが取り組める検証プロセスがあることで、その事態は回避できると思っています。誰もがチャレンジできる環境を作っていきたいですね」

自分の強みを理解しながら力強く前に進んでいる越智の話は、事業をたたむ貴重な体験をした者にしかわからない強さがありました。

今後も越智は、omochiで得た、ユーザー視点のサービス開発のノウハウを別の事業でも活かしながら、パーソルイノベーションで生まれる新規事業を支えていってくれるはずです。

パーソルイノベーション株式会社

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