肩書きに「女性」と付ける必要はない。ひとりの技術者として歩むスペシャリストへの道 | キャリコネニュース - Page 2
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肩書きに「女性」と付ける必要はない。ひとりの技術者として歩むスペシャリストへの道

技術者として新しい舗装材料の研究開発に携わる芹田 美佳。2001年の入社以来、研究だけでなく現場での勤務、そして現場と子育ての両立もこなしながら、働く女性のロールモデルとなってきました。「仕事に性別は関係ない」と話す芹田が、自身のこれまでのキャリアを振り返りつつ、今後の目標を語ります。【talentbookで読む】

舗装材料の開発に注力し、チームメンバーをリード

技術本部 技術研究所 先進技術開発室の課長代理を務める芹田。若いチームメンバーをまとめながら、新しい舗装材料の研究開発に携わっています。

「私が携わっているのは、再生アスファルト混合物の品質向上に関する研究です。アスファルトは、紙やペットボトルのようにリサイクルすれば元通りの品質に戻るわけではなく、何度もリサイクルしていくうちに品質が低下していきます。劣化が進んだリサイクル材の性状をいかに回復させてアスファルト舗装の品質を確保するか、業界全体が注力しているテーマです」

芹田が率いるチームのメンバーは4名。その全員が20代でまだ経験が浅いことから、芹田が中心となってチームを引っ張ってきました。

「若いメンバーとのチームは新鮮ですが、親心にも似たような心境でつい口を出したくなってしまうので、それをこらえるのに必死なときもあります(笑)。こちらからヒントを出しながら、メンバーが力を発揮できるよう心がけています」

研究開発からキャリアをスタート。現場での試練、出産を経て再び研究開発へ

▲現在のチームメンバーと

2001年に前田道路に入社した芹田が最初に配属されたのは本店の技術研究所でした。8年間そこに在籍した後、1年間の本社勤務を経て東京支店の合材工場へ。その経緯をこう振り返ります。

「『スペシャリストになるには、現場を知っておいたほうがいい』ということは、入社当初から先輩から常々言われていたんです。現場でやっていけるだろうかと不安もありましたが、修行のつもりで本社から合材工場に異動することになりました」

最初は1年間だけのつもりが、気がつけば7年間にわたり現場で品質管理を担当した芹田。徐々に現場勤務に慣れていきました。

「複数のプラントを渡り歩きながらさまざまな事象に出くわし、その都度トライして乗り越え、経験値を積んでいきました。最初は早く戻りたいとばかり考えていましたが、やればできるものだなと思ったのを覚えています」

工場現場に勤務していたさなかに、芹田は出産も経験しています。

「現場に配属になって1年ほどして子どもができました。しばらくは現場試験にも行っていましたが、次第に体力的に厳しくなってきて。品質管理担当者がふたり体制となるプラントに異動させてもらいました」

その後、産休育休を経て復帰し、時短勤務を活用しながら現場を勤め上げた芹田。子どもが6歳になるころには再び研究所へ、そして2020年には道路の調査や受託試験などを行う子会社のアールテックコンサルタントに出向しました。

「『子どもが小学校を卒業するくらいまでは内勤で落ち着いて仕事をすればいい』と上司に言われ、研究所に戻ることになりました。ところが、同じ上司から間もなく『アールテックに行ってほしいのだけど』と言われることに(笑)。同社ではパート社員の方と一緒に業務を進めていくのですが、それを仕切る社員として私が適任だと思われたようです」

出向中、芹田は受託試験業務を担当。主に社内のプラントや社外の民間企業、国交省の土木研究所などから依頼を受け、同社の設備でなければできない試験や、混合物の配合設計などを行っていました。

「振り返ってみれば、研究所の業務に比べると出張や1日がかりの外仕事はほぼなく、ずっと同じ事務所で仕事ができていました。当時の子どもの年齢からして、私にとってとても働きやすい環境だったと感じます」

当時、芹田が任されていたのは、試験費用の見積もりや工程の組み立て、メンバーへの仕事の割り振りなど。彼女にとってメンバーを仕切る経験はこのときが初めてだったこともあり、精神的にとても鍛えられたと言います。

「出向時は係長でしたが、半年でいきなり課長に。責任を持ってメンバーをマネジメントする立場になりました。非常に大きなプレッシャーがありましたが、周囲と力を合わせて業務を進めていくこを学び、仕事に対する意識が自分でも驚くほど変わったと思います」

初めてマネジメント業務を担当することになった芹田。最もプレッシャーを感じていたのが、メンバーの安全を守ることでした。

「とにかく事故や怪我なく仕事をしてもらいたいという気持ちが強かったです。また、メンバー全員がコンプライアンスを遵守しているかどうかにも目を光らせなければなりませんでしたし、メンバーの個性はさまざまなので、適材適所を考えるのにも最初は苦労しました」

入社当初から技術のスペシャリストを志していたことから、自身が管理職になるビジョンは持っていなかったと話す芹田。実際にマネジメントを経験したことで、キャリアプランの方向性にも変化があったと話します。

「スペシャリストをめざして引き続き成長していきたいと考える一方、若い人たちを自分以上の人材に育てていく使命もあると感じるようになりました。後輩に追い越されるようではいけません。自分も負けじと技術に磨きをかけていくつもりです」

視点を切り替え仕事観が変化したことが、壁を乗り越えるきっかけに

▲オフの日の一枚

これまでのキャリアの中で芹田がもっとも苦労したと話すのが、子育てをしながら現場勤めをしていた期間。当時のことをこう思い起こします。

「時短勤務を取り入れ、周囲からもいろいろ配慮してもらってはいましたが、子育てと現場の両立は簡単ではありませんでした。また、子どもを連れての転勤はなかなかに困難です。周囲からは『工場勤務で転勤ができない状況であれば総合職から一般職に変更すべきでは』という声も正直、聞こえていました」

そうした圧力に押しつぶされそうになり、仕事を辞めようかと思ったこともあったと話す芹田。しかし、自らの視点を変えたことが、壁を乗り越える力になりました。

「子どもはある一定期間を経れば成長しますから。苦しい状況がいつまでも続くわけではありません。総合職としてもっと成長し、先輩たちのようにさまざまな仕事ができるようになりたいという気持ちは変わらず思っていますが、ひとまず、いまは会社の制度や配慮に甘えさせてもらい、子どもが手を離れてから存分に恩返ししようと考えるように視点を転換したんです。すると迷いがなくって、腹が据わった感覚がありました」

良い製品を開発して世に送り出し、それによってたくさんの人を幸せにしたい──入社からこれまで、芹田は一貫してその願いを持ち続けてきました。

「もっと人の役に立ちたい、会社に利益をもたらせる存在でありたいと思ってきました。そこは私にとって譲れない部分。いまもそう思い続けています」

まだまだ活躍する女性の数が少ない建設業界かもしれませんし、当時、女性技術職が時短勤務を活用し子育てしながら現場に勤める前例は社内にありませんでした。それだけに、現場で奮闘する芹田に対する上司の期待も大きかったと言います。そして、芹田が産休育休を取得してから約10年。時代の流れと共に、社内の環境は大きく改善されてきました。

「望むと望まざるにかかわらず、お前がトップランナーだということはよく言われていました(笑)。

以前と現在を比べても、時短勤務を選べるのは、子どもが3歳までの期間だったのに対し、現在は小学4年生までに引き上げられました。また、社内には時短勤務を当たり前に受け入れ、全員が業務の効率化を図る風土が根づいてきていると感じます」

一方、後輩の女性社員から相談を受けることが増えたと話す芹田。キャリアの不安をかかえる女性にこんな言葉を送ります。

「技術職でも女性の方が増えてきたことで、『夜勤が体力的にきつい』『仕事をなかなか覚えられない』といった声をよく耳にするようになりました。でも、そうした不安や悩みは何も女性に限ったことではなく、男性にも同じくあることだと考えていますからそちらも同じく解消すべきですよね。

もちろん妊娠出産のように女性にしか担えないイベントもありますが、それ以外のことについては性別はあまり関係なく課題として認識して改善していくべきというのが私の意見です。女性だから建設業に入るのが不安だと考えている人がいるとしたら、あまり怖がらずに挑戦してほしいと思っています」

やってみなければ何も始まらないし、わからない。それは、芹田自身が経験してきたことにほかなりません。

「思い切って飛び込めば、それをきちんと受け止め配慮してくれるのが前田道路。子育てにかかる十何年かのあいだ会社に配慮してもらったとすれば、その後に恩返しすればいい。長い会社人生ですから、そのくらいの気持ちでいることがうまく乗り越えていく上で必要なのかもしれません」

ひとりの技術者としてめざす新たな地平。技術と情熱が交わる場所へ

▲舗装材料の劣化状況を測定中

今後も技術の向上に努めたいと話す芹田。自身の成長、そしてその先にある人々の幸せを追い求めて走り続けていくつもりです。

「20年以上続けていても、まだまだ知らないことだらけ。この仕事を続けていくからには、必ずこの道のスペシャリストになりたいと考えています。自分が開発に携わった舗装技術で誰かが喜んでいる姿を見るまでは、絶対に辞められないですね」

そうやって成長意欲を隠すことがないせいか、芹田の周囲ではこんな不思議なことがよく起こると言います。

「昔は、異動すると、『女性だから』『預かりものだから』といった感じで、最初、周囲から過保護と思えるほど大事に扱われるものでした(苦笑)。ところがしばらくすると、誰も私を女性だとは思わなくなったのか(笑)、特別扱いされることもなくなり、場内のいろいろなところから呼び出しがかかって走り回ってきました。

私以外の女性にもきっと同じことが起こるはず。女性で技術者を志望する人には、『女性だからと身構えられるのは最初だけだから心配しなくていい』と伝えたいですね。体力的にどうしようもない部分も、違うところでカバーすればいいわけですから」

性別は関係ない。持ち前の負けん気を武器に、芹田はこれからも成長し続けます。

インフロニア・ホールディングス株式会社

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