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研究開発の最前線に立つ誇りを胸に。「3/1000」の可能性を追い求める

産業への応用が期待される「酵素」。この分野について研究開発を重ねているのが、バイオプロダクツ研究室の宅見 高史です。世界の最先端に立ち、製品化までの長く地道な道のりを根気強く歩む日々。世の中のニーズを的確にとらえ、幅広い視野でプロジェクトに取り組む彼が見据えている未来とは。【talentbookで読む】

10年、20年。長い目で見たニーズを捉え、新規事業に結びつける

宅見が所属しているバイオプロダクツ研究室は、バイオ技術を利用したさまざまな素材の開発を行う部署。酵素、菌体、培養などの多角的なアプローチで新規事業立ち上げをめざし、池田糖化グループの継続的発展に貢献します。

「私がこれまで専門的に取り組んできたのは、主に酵素の分野。現在は4つのチームを掛け持ちしていて、メインのチームではリーダーを務めています。リーダーの仕事は、チーム内での実験の割り振りや進捗管理、実験立案など。おもに前日までの実験結果を踏まえながら、今日は誰がどんな実験をするのかを決めていきます」

社内で行う実験を統率するかたわら、外部から来る問い合わせにも対応します。当社では他社にはない、希少な特長を持つ酵素も取り扱っており、これを求めて「売ってほしい」「どんな特性なのか」などの連絡が多数寄せられています。

「お客様からの酵素に関するお問い合わせでよくあるパターンは2つあります。ひとつは、酵素を臨床診断や測定に役立てたいという医薬、臨床系の方からのご連絡。もうひとつは、バイオ燃料電池や研究開発に利用できないかという、企業や大学の先生方などからのお声かけです」

お客様の問い合わせを受けて共同開発を行うこともあります。「こういう酵素がほしい」という先方のニーズに合わせて、いっしょに取り組んでいく場合もあります。

「お客様の声をもとに、酵素製品の特性をカスタマイズする会社は、めずらしいと思いますね。当社はもともと食品会社として、お客様の要望を聞いて製品を作ってきました。それが根底にあるから、研究においてもお客様ごとにカスタマイズする姿勢があるのだと思います。協働することで、お客様の業界が抱える課題は何か、今どんな機能にニーズが高まっているのか。これらがわかるのは、研究開発において大きなメリットだと思います」

5年後、10年後、もっと言えば20年後。長いスパンで物事を見据え、何が求められて、技術がどうなっていくかを予想し、そして「こういう酵素や技術があれば需要があるのではないか」と、自社での研究開発テーマを考えていきたいと思っています。

「世の中の変化を踏まえて、どれだけ早く種まきをできるかが勝負だと考えています。だからお客様が持っているニーズ以前のアイデアや、他愛もない思いつきまで聞いて、潜在的に何が求められているのかをもっと拾っていきたいです」

AIや革新的な技術の台頭によりスピード感が増す現場。周囲を巻き込み積極的に動く

▲室長との打ち合わせの様子

大学では生物資源科学研究科に所属していた宅見。もともと生物に興味関心が強かったことから、生物全般を総合的に学びたいと思い、生物化学を専攻に選びました。就職で池田糖化を選んだのには、ふたつの理由があったと言います。

「ひとつは研究の延長で、バイオテクノロジー関連の仕事に携わりたいと思っていたからです。もうひとつは、池田糖化の評判が良かったから。私は大学時代に池田糖化という会社の名前は知らなかったのですが、大学の同期や知り合いが『あの会社は古くからあるしっかりした会社だよ』というので、優良企業なら受けてみようと思ったのです。

実際に面接を受けてみた印象は、とても明るく、コミュニケーションが活発な会社だということでした。1次面接でも2次面接でも、面接官の方がテンポよくたくさん質問してくださり、好奇心旺盛な人が多かった記憶があります」

こうして2010年に入社。働いてみると、想像していた以上に幅広い業務を行っていることに驚いたと言います。

「私は入社以来、ずっとバイオプロダクツの分野に10年以上従事してきました。この間にも世の中の状況や研究の環境は大きく変わりましたね。とくにここ数年は、AIの進歩が顕著に進み、技術動向の進展や実験の進め方、データ解析などのスピードが一気に上がった印象です。

たとえば、微生物を用いて酵素や物質を生産する場合、微生物を培養する必要がありますが、その最適な培養条件は、いろいろな条件が組み合わさった複雑なものです。

温度や時間、培地の組成など、さまざまな項目を細かく調整、検討する必要がある。それをこれまでは過去の経験、知識などをもとに手探りでやっていましたが、今はAIがビックデータをもとに理想の条件を教えてくれる技術もでてきています。人ができないところまで、AIが考えてくれるようになってきたと感じています」

便利になった反面、早く結果を出すことが求められるように。これまでは基本的に自分たちのリソースを中心に取り組み方を計画していた宅見ですが、今ではAIやIT技術の導入を検討しつつ、さらに社外専門家や他部署の社内メンバーの知見も積極的にもらいながら、スピードに乗り遅れないように奔走しています。

「スピーディーな研究開発のためにも、自分が持っていないものについては別のところから力をもらえばいいと感じています。ただし、いろいろな人を巻き込んでいっしょに取り組むことになるので、コミュニケーションには今まで以上に気を配りますね。一方的なお願いをして負荷をかけすぎたり、迷惑をかけたりしないように、良好な関係を続けるための心配りをしています」

あらゆる生物が保有している酵素。用途は無限で、ワクワクする可能性に満ちている

異なるジャンルの企業と共同研究をする場合には、壁にぶつかることもありました。

「過去に、電気化学系のお客様から酵素の相談を受けたことがありました。『電気化学に関する製品の課題を、酵素でなんとか解決できないか』ということで、多種多様な酵素について性能を模索していたのですが、当初は業界が大きく違うからか、コミュニケーションがうまくとれなかったんです。

バイオの視点と電気化学の視点が異なることから解釈や技術的常識に違いが生じていて、課題解決に向けてどうやってアプローチしたらいいのか難しさを感じました。

最終的に、おたがいが気になったことを何でも質問し合うことで解決に持っていくことができました。素直にディスカッションをして歩み寄ることで状況を打破できた経験は、自分にとって大きな学びになりましたね」

葛藤の中から得た学びは、今でも役に立っています。

「経験は、次につながっていくんですよね。そういえば最近も、それを実感しました。実は8年前くらいに自分たちが見つけた酵素に、新発見があったんです。当時は別の目的のために開発をしていて、その目的ではうまく使えなかった酵素なのですが、実は世界でも報告例が少ない、すごくユニークな酵素だったことが最近わかりました。後輩が調べて見つけてくれたのですが、新たな展開につながりそうで、非常に嬉しく、楽しみにしています」

長らく酵素を中心とした研究に没頭してきた宅見は、酵素開発のおもしろさをこう語ります。

「ひとつは、バリエーションが豊富にあることですね。たとえば、アミノ酸に作用する酵素ひとつとっても、ありとあらゆる生物が保有していて、それぞれ違う性能、特徴の酵素を持っています。それに現在は存在が知られていないような機能を持つ酵素であっても、世界の生物の中で誰かが保有しているかもしれない。そこを考えるのが非常に楽しいですね。

もうひとつは、使いみちのアウトプットが非常に多岐にわたる点。可能性が無限にあるので、考えるだけでワクワクするんです」

果てしない可能性を解き明かすように、さまざまなアイデアを試し続けています。

「思いがけず良い実験結果が出たり、想像を超えるようなものが出てきたりするとうれしいです。もちろん、良い結果が出てもぬか喜びになることもあるので、必ず確認して再現性をチェックするようにしていますが。無限の世界に踏み込んでいくおもしろさが、実験に向き合うモチベーションになっています」

「1000件あって3つ当たりが出たらいい」と言われる、製品化への険しい道のり

今後力を入れていきたいことやビジョンについて、宅見はこう語ります。

「新しい事業や新製品を未だに立ち上げられていないのが、自分の中での課題です。もっとアンテナを張り、情報収集を広く行い、とにもかくにも新しい製品事業の立ち上げをしたい。それが今の一番の目標です」

今後もリーダーとしてチームを巻き込みながら動いていきます。

「プロジェクトの管理って、非常に大変なんですよ。スケジュールがトラブルで遅れたときにどうするか、リカバリーの方法や技術が自分には足りてないなと痛感することが多々あります。これからも意識的に力を注いでいきたいと思うところです」

研究から製品化までの道のりは、険しいもの。「1000件あって3つ当たりが出たらいい」と言われるレベルです。

「3つの成功のために、997のトライが必要と言われています。すぐに結果につながらなくても、繰り返していくことが求められます。地道で根気ある作業が必要となるので大変ではありますが、誰も知らない、やったことがないことをやっているという気持ちが自分を支えてくれます。

それに、日々の実験の楽しさを見いだせること、個人的には遺伝子実験の解析結果をみるときのワクワク感や、微生物が順調に培養している様子を見るのが好きで、研究開発における自分なりのおもしろさがあるので続けられるんです」

簡単にへこたれない人、楽天的な人であれば楽しめる仕事だと宅見は言います。

「酵素は触媒としての可能性を非常に多く秘めていて、当然これからも世の中で広く使われていくものです。しかし、自分たちは酵素だけではなく、バイオ技術を活用した物質生産や独自素材、独自技術の開発など、新しい研究開発も積極的に推進しています。今後はむしろそちらのウエイトが上がっていくと思うので、興味のある学生の方がいればぜひ来てくれたらうれしいですね」

3/1000の可能性を追い求めてトライを重ねる日々。これからも「おもしろい」を原動力に、地道な研鑽を重ねていきます。

※ 記載内容は2023年11月時点のものです

池田糖化工業株式会社

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