若者の生きづらさに寄り添う NPO「サンカクシャ」の仕事とは?
コロナ禍を経て、今もより深刻さを増しているのが「若者の貧困問題」である。そのような若者たちの生きづらさに寄り添い、居場所を提供し自立の支援を行っているNPO団体「サンカクシャ」の仕事とは? 今回は代表理事の荒井佑介さんにお話を伺った――。
15歳、18歳で支援が途切れがちな若者たちをサポート
――サンカクシャについて教えてください。
サンカクシャは、親からの虐待などさまざまな事情により親を頼れず、社会になじめず孤立しやすい若者をサポートしている特定非営利活動法人(NPO法人)です。東京都豊島区を中心に活動しており、15歳から25歳の若者を対象に支援しています。
私が子どもの貧困問題に関心を抱き始めたのは2011年で、「勉強を教えてほしい」という生活保護世帯の中学3年生の学習支援に携わることになりました。その頃、勉強を教えていた東京都豊島区や足立区で生活困窮や不登校、非行などの課題を抱える子どもたちとの関わりは、その後も続いています。
その後、人材派遣会社の株式会社パソナに就職し、販売や営業職の派遣営業に従事しまして、2014年には新事業開発室で、ニートフリーターの就労支援新事業の立ち上げに加わります。
ところが、かつて学習支援でかかわってきた子供たちが無事高校進学したものの、中退、妊娠出産、就職など、さまざまな問題で躓いていることがわかりまして、このままではいけないと思い、新たに「若者の貧困」を支援する団体として2019年にサンカクシャを立ち上げることになったのです。
――なぜ、支援の対象年齢を15歳から25歳までとしているのですか?
支援対象の15歳から25歳の若者たちは、15歳、18歳で次々に公的支援や民間支援の対象外となり、「子どもの貧困」から抜けきれないまま大人になっていくという問題を抱えており、一番支援が足りない年齢層です。
私たちの活動拠点のある東京都の例でいうと、中学校までは豊島区や北区などの区が管轄しているのですが、高校になると東京都の管轄となります。中学校までの支援が、高校には引き継がれないケースが多く、支援が途切れやすいことがあげられます。
彼らは生きる基盤が未完成の状態で、安心できる大人たちと出会えないまま学校や社会から孤立し、生きる気力、何かに取り組もうとする意欲を失っていきます。年齢が上がればあがるほど生きづらさは増し、「居場所」がなくなっていきます。
子どもたちの学習支援や居場所を提供する団体は全国各地で増えていますが、中学卒業後も通える場所は、ごく一部で限られているのが現状です。
サンカクシャでは、このような若者たちへ丁寧に伴走し、若者が社会との繋がりを得て、安定した生活を送り、自分らしく生きていくことができるようサポートをしていきます。
――どのような支援を行っているのでしょうか?
具体的には「居場所づくり」「仕事のサポート」「住まいのサポート」の3つの支援を行っています。どの支援も人が生きていく上で必要不可欠な生活基盤となるものです。
支援をする若者は、行政、団体からの依頼が約6割です。また最近ではネットやメディアを見た若者が直接相談してくるケースも増加しています。今日の寝床がありませんという子もいます。基本的には居場所を使いたい、住まいがないので使いたいというニーズがほとんどです。
若者たちは1人ひとりまったく違うバックグラウンドを抱えていますが、孤立している状態から社会に出て働き暮らしていけるまでのサポートを手厚く行っていきます。1人の若者が自立するまでは大体3年ほどかかります。
2019年に団体を設立し4年半経ちますが、300名近くの若者をサポートしてきました。
活動資金の8割が助成金
――サンカクシャはどのように運営されていますか? また、課題はありますか?
若者の居場所1拠点からスタートしましたが、今では居場所の他にも、シェアハウス4拠点、個室シェルター7部屋を運営しています。
スタッフは24名(うち正職員6名)、連携企業は42社、予算規模は8000万円に拡大しています。
現在、サンカクシャの収入の8割は、助成金を活用していますが、助成金は単年で終わることが多く、次年度の見通しがなかなか立ちません。持続的な支援活動を維持するためには、今後は寄付の比率を増やしていく必要があります。
幸い、厳しい状況の中でもサンカクシャの取り組みを知ってくださり賛同いただいた方や企業に寄付をいただき、何とかここまで規模を拡大してきましたが、寄付をこの先もどんどん増やしていく必要があります。
私たちの活動では、受益者である若者からお金をもらうことはできません。
ビジネスの世界なら、クライアントからお金をもらってサービスを提供するという話になるかと思いますが、私たちの活動はお金を払えない若者たちに向き合っていかなくてはならず、それができません。
若者たちを支援しながら、応援者の獲得もしていかなければならない点が、この事業の難しさだと思います。
例えばシェアハウスの事業ですと、支援対象の若者は光熱費込み月4万5000円で利用することができますが、実際は1人を支援するために年間110万円ほどのコストがかかっており、寄付や助成金で賄っています。
シェアハウスに入居することになった子たちの中でも、最初の数か月は家賃を免除しなくてはならないことが多くあります。家賃収入には頼らず、物件をいかに安く調達するかということにかかっています。
――支援はどのように獲得しているのでしょうか?
一般的には収入のない若者には部屋を貸してくれないため、理解のある大家さんを紹介してもらい相場より安い金額で貸してもらっています。
地元企業の近代産業株式会社の支援ケースでは、うちのボランティアの方と近代産業の社長がたまたまお酒を飲んでいた時にお話したのがきっかけで、サンカクシャのためにシェアハウス用の物件を新規に取得して貸し出してくださっています。
その他にも、シェアハウスで使う家具などの物品支給をしてくださっているイケアのような支援企業もあります。
また、外資系企業の社員の皆さんがシェアハウスの大掃除をボランティアで引き受けてくださったり、応援してくれる企業の数だけ、支援の内容もいろいろです。さまざまな関わりの輪が広がっていることを実感しています。
支援については私たちからお願いすることもあるのですが、「物件が足りません」「お米や食料が足りません」「若者が社会経験を積むための仕事を探しています」といった情報を常に発信するようにしています。情報を発信すると、サンカクシャが困っているらしいという話が広がり、それを聞きつけた企業が支援してくれるケースが多いです。
ファンドレイジングのプロになる
――ファンドレイジングについて教えてください。
「ファンドレイジング」という言葉を知っている人は少ないと思いますが、単なる資金調達を意味する言葉ではなく、解決したい社会課題、例えばサンカクシャなら、若者の貧困救済などの活動に一人でも多くの人に共感してもらい、活動に参加してやすい環境を作っていく取り組みと考えていただければわかりやすいと思います。
資金調達の方法は、寄付、クラウドファンディング、補助金、助成金などさまざまな方法が使われており、そういった手法や支援要請の知見を増やすことも必要です。
サンカクシャにも「認定ファンドレイザー」という資格を持ったスタッフがいますが、NPO団体として将来を見通し、どのような手法が必要なのか見極め、最も効果的な取り組みを実践していくプロ職業として、将来認知されてくることでしょう。
近いうちにサンカクシャでもファンドレイジングチームを立ち上げ寄付の拡大に注力していきたいと考えています。
働く仲間を募集中
――現在、サンカクシャで募集している法人営業職について教えてください。
サンカクシャでは体制を強化するために、法人営業担当職員などを新たに募集しています。
日本の多くの企業は、NPOを支援することや寄付に慣れていません。「寄付をしたい」というニーズはあるのだけど、「どのように寄付をすればよいかわからない」という企業が多いのが現状です。
法人営業担当は、そのような企業の担当者とコンタクトをとり、「寄付をしたい」というニーズをくみ上げ、「若者たちを支援してみませんか」と企業に協力を求め、どのような支援が可能か情報を発信していくことが仕事になっていきます。
企業へは、寄付の獲得だけではなく、物品寄付やボランティア、若者への簡単な仕事の提供、社内講演会の機会など多様な関わりのメニューを用意しています。
みんなが知っている大企業にももちろんアプローチしていくつもりですが、地元の企業ですとか、比較的決断が早くできるオーナー企業の経営者にも積極的にアプローチをしていきたいと考えています。
今は私が中心となり企業回りを行っていますが、一緒に開拓してくれる仲間を求めています。
――どんな人がサンカクシャの法人営業職に向いていると考えますか?
若者たちが抱える課題を企業に知っていただくことが大切な仕事なので、丁寧なコミュニケーションを図ることができる人を求めています。
社会経験があって、もともと営業をバリバリやっていましたという人だったら心強いのですが、やはり給与のこととなると、一般企業と比べ少なくなってしまいます。
そのような理由もあり、どちらかといえば、学生時代にボランティアやNPOで働いた経験があり、NPOにまた戻ってスキルを試したいと考えている人や、若者たちと同じような貧困体験があって、いつか若者支援に関わってみたいと考えている人にマッチする仕事かと思います。
また、法人営業は正職員または業務委託で募集していますが、必ずしもフルタイムでなくても、兼業で会社員をやりながら関わってくださる方も大歓迎です。
実際のところ、サンカクシャでは正職員でも週4日勤務の人が多いです。また、業務委託で週2日、3日で働いてもらっている方も多くいます。兼業しながら働いている人がほとんどです。
例えばNPOを掛け持ちしているとか、変わったところでいうと、元お笑い芸人で放送作家と、アート系の仕事をやりながら携わっている職員もいます。集まったスタッフがさまざまな仕事の知見を持っているのが強味です。
――サンカクシャの仕事でのやりがいはどのような点にあると考えますか?
若者の貧困に携わり15年経ちますが、貧困に直面し生きることも大変だった若者たちが、目の前でどんどん変わり成長していく姿を見届けることができることが、何よりのやりがいになっています。
しかし、みんながみんなきれいに成長していくわけではなく、中には突然失踪してしまったり、逮捕されてしまうなど、時に社会問題ゆえの生々しいトラブルも発生しますが、私はそういう状況にも寄り添い続けていく存在でいたいと考えます。
そんな中、私たちは家族の代わりを担うことが多いと感じています。
親と一緒に暮らしていたとしても、いつかは自立して実家をでなくてはいけないと思うのですが、サンカクシャを卒業した後も、何かあった時には実家のように帰って来れ、気軽に相談ができるそんな場所であり続けたいと思います。
――荒井さん、貴重なお話をありがとうございました。
特定非営利活動法人サンカクシャ
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