現在の会長である正垣泰彦氏が1968年に千葉県市川市で洋食店として開店したサイゼリヤだが、その道のりは順風満帆であったわけではない。開店1年足らずに店舗が全焼。再建後にイタリア料理専門店に転換するが、客足が伸びずに思い切って全メニューの価格を3割下げたところ、行列ができるほどの人気店になったというのは有名な話だ。
その後、1973年に法人化、1977年より他店舗展開を開始した。1993年にはワインの直輸入をはじめたほか、パスタやオリーブオイル、生ハム、チーズといったイタリア料理で欠かせない食材を輸入し、「低価格で美味しいイタリアンが食べることができる店」というイメージが定着。1995年に100店舗だったところから、2001年には500号店を出店するなど急拡大を果たした。
現在では国内1089店舗、海外428店舗(2020年8月期)を展開しているサイゼリヤだが、本八幡の1号店は2000年に閉店をしている。現在でも千葉県中小企業家同友会によって「サイゼリヤ1号店教育記念館」として非営利で当時の面影を残したまま保存されており、同友会に連絡をすれば見学も可能になっている。
こうした開店から発展までの歴史と、正垣氏の低価格の信念はしばしばネットでも話題になる。他のファミレスチェーンとは一線を画する存在といえるだろう。
デートでサイゼはあり? 常にネットで話題になるコスパのよさ
サイゼリヤはイタリアンレストランの概念を価格で変えた。それ故に、「最初のデートでサイザリヤはアリかナシか」という論争がネット上でしばしば繰り広げられることになった。
当初は女性の側が「サイゼに連れて行く男性はNG」とツイッターに投稿して波紋を呼ぶケースが多かったが、付き合い始めたら女性をあえてサイゼリヤに連れていき反応を見てみる、と勧める声も出て注目を集めた。
他のファミレスチェーンやラーメン、中華料理といった業態でなく、たびたびサイゼリヤが話題になるのは、イタリア料理というデートでも使えるようなオシャレなイメージなのにも関わらず、美味しくコスパが良いという事を、多くの人が認めていることを意味する。
2019年にとあるユーザーによって、サイゼリヤのメニューを1000円以内でランダムに選ぶという「サイゼリヤ1000円ガチャ」が生み出されたのも、どんなシーンでも気軽に入ることができ、メニューが豊富だという積み重ねの賜物といえるだろう。
「応援しよう」という気にさせる存在が政治を動かした?
この「どんなシーンでも」というのは、「おひとりさま」でも躊躇なく入れるという事を意味する。現に堀埜社長の発言があった後、ツイッターでは「俺たちのサイゼリヤを潰してはいけない」という声が上がり、「ぼっち飯」でランチに行くという人が多数観測できた。
新型コロナ流行後に、サイゼリヤはテイクアウトを拡充させ、飲食時の会話で飛沫が飛ばないようにする「しゃべれるくん」を2020年8月に考案するなど、さまざまな施策を講じていた。それを知っている層がサイゼリヤを「応援しよう」となっている事は、共感を生むビジネスの事例としても興味深い。
小池百合子東京都知事は1月18日、飲食店などに要請している営業時間短縮の協力金を中小事業者や個人事業主に限定していたが、大手企業も対象にする考えを示した。これは堀埜社長の「ふざけるなよ」が効いたと見て間違いないだろう。苦境に立たされている飲食業界と、新型コロナ禍の中での行動変容の間では、日頃からのサービスやブランドメッセージが大事だということを、サイゼリヤが教えてくれているのではないだろうか。