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地方企業も「リモート採用」を進めるべき理由 首都圏企業は地方の優秀人材を狙っている

「やっと対面に戻れる」は要注意

「やっと対面に戻れる」は要注意

未曾有のコロナ禍は、世界経済に深刻な影響を与えました。日本もその例外ではありませんでしたが、予想に反して採用市場にはそれほど反映されていないのが現状です。

例えば2022年卒の新卒採用の求人倍率は1.50倍と底堅く推移していますし、有効求人倍率も1倍を維持しており、個人にとってそれほど就職難とはいえない状況が続いています。

リーマンショック後のような、採用する企業側が強い「買い手市場」を予測していた向きからは、意外だという声がしきりです。ただし、それは労働市場の状況を客観的な数字から見てみれば当然の結果だったかもしれません。(人材研究所代表・曽和利光)

進む「労働力人口の減少」と「東京一極集中」

日本の総人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じました。

その一方で、労働力人口は、近年の働き方改革などの努力を受けてか、2012年の6565万人から2019年の6886万人へとおよそ321万人も増加しています(総務省統計局「労働力調査」より)。このため、コロナ前の好況期においても、バブル期のような個人が強い「売り手市場」にはなりませんでした。

ところが2020年の後半からは、労働力人口もとうとう減少に転じました。この「売り手市場」は、おそらく当分の間、もしかすると20年ほどは変わらないかもしれません。

さらに追い討ちをかけるのが、コロナ禍でも変わらない東京一極集中です。マスコミなどで「コロナでテレワーク化し、東京脱出」という人の話も出ていますが、それがメジャーなトレンドになっているわけではありません。

総務省の都道府県別人口増減率を見ると、2015年から2020年の5年間で、東京都は人口が4%も増えています。直近の2021年3月期の人口移動を見ても、東京都は約2.8万人、首都圏全体では約5.8万人の流入超過です。東京や首都圏への一極集中は、結局変わっていないのです。

首都圏企業が「オンライン」で地方人材を採用

しかし、それでも東京は人が足りません。コロナが落ち着いてきた今、東京の有効求人倍率は全国平均よりも高くなっています。そこで注目されているのが、地方人材です。

実はコロナ前から、首都圏の企業が人材を求めて日本全国を行脚することは珍しくありませんでした。首都圏には人はいますが、企業も多いので採用競争が激しく、競合の少ない地方へと移っていたのです。

このところはコロナ禍で採用意欲が減って落ち着いていましたが、オンライン化が進んで地方採用が格段にやりやすくなったことと、ワクチン摂取が進み新規感染者も減って緊急事態宣言が一斉解除されたこともあり、地方人材採用への意欲は復活してきています。

ところが、地方企業の皆様はそのことをあまり意識していません。「ようやく対面での“普通の採用”に戻れるよ」という声をよく聞きますが、それはとても危険です。

アフターコロナでも、オンライン採用をやめようとする首都圏の企業は多くありません。なぜなら、首都圏の企業は「コロナで会えないから」ではなく、「遠距離の地方人材も採用ターゲットにしているから」オンライン採用をしているからなのです。

優秀な人材は効率的な採用プロセスを望む

「玄関開けたら2分でご飯」ではありませんが、オンライン採用ではパソコンを開けたら2分で面接を受けることも可能です。

一方、対面での面接は、準備や移動などを考えると数時間は必要になります。もし地元企業が対面しか採用プロセスを用意していなければ、首都圏企業のオンライン採用より高いハードルになり、負けてしまうかもしれません。

特に優秀な人材ほど忙しいものですから、受験の際のハードルの低さは魅力です。そのため、地方企業が気づかないうちに、地元の優秀な人材を首都圏企業に取られてしまうかもしれないのです。

就職みらい研究所の「大学キャンパス所在地から見た地域別就職先分布」調査によると、現在でも全国各地の新卒学生の2割前後が首都圏へと流れています。京阪神にある大学の学生でも、19.7%が首都圏の会社へ就職しています。北海道だと22.0%、北関東は34.5%もの学生が首都圏で就職しています。

一方、首都圏の大学の学生は、90%以上が首都圏に残っているのです。もし、オンライン化を地方企業が止めて、首都圏企業は継続ということになれば、この流れはさらに加速するのではないかと思います。

地方企業は人材採用の現状を理解して

私は、首都圏企業が地方人材を採用することが、悪いこととは思っていません。どうやったら優秀な人材を採用できるか一生懸命考えて、その結果、競争に勝って地方から人材を獲得できているというだけのことです。企業努力の賜物です。

しかし、個人的には、私は日本の地方の豊かさや魅力を知っていて、なくして欲しくないと思っています。

そのためには、地方企業の皆様に本稿のような人材採用の現状を理解していただいて、首都圏企業との人材獲得競争にぜひ勝っていただき、地域活性化を実現して欲しいと思ってやまないのです。

sowa_book【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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