悪用厳禁! 転職面接で「前の会社の悪口」をキレイに言う方法
転職は、する方にとってはもちろん、採る方にとっても一大事です。特に、ミスマッチがあっても配置転換などで対処できる大企業と違い、中小・ベンチャー企業では基本的に1名の空きポジションを埋める中途採用が多く、ミスができません。
それゆえ、採用基準はどうしてもネガティブ・チェックに走りやすく、少しでも問題がありそうなら、よほど人に困っているところでなければ不採用にするところが大半です。特に、無能なだけならまだしも、組織に多大な悪影響を与えてしまうネガティブ思考の持ち主は嫌われるものです。(文:人材研究所代表・曽和利光)
「高い能力×ネガティブ思考」は最低評価
面接の場で転職動機を聞かれたとき、いくら真実であったとしても前の会社を否定することを言うと、採用担当者はどうしても「こんな人がうちに来たら、どんなことでもネガティブに捉えて悪い空気を撒き散らすのではないか」と思うものです。
一度そう思われると、能力がある人でも不採用になります。多くの組織では「高い能力×ネガティブ思考」というのが、最も忌み嫌われる最悪の組み合わせだからです。だから基本的には、以前の会社の悪口は言うものではありません。
そうは言っても、実際にひどい会社に勤めていて、「被害」とでも言うべき目にあったために転職をする人も一定数いらっしゃいます。それでも、少なくとも採用面接においては、それをことさら取り上げて話すことはしない方がよいと思います。
しかし、話さなければ転職理由の辻褄が合わなくなってしまうときには、不自然に隠さず、伝えておいた方が相手の不信感を払拭できる場合もあるでしょう。
転職先でも同じことが起きないように、たとえば「長時間労働は二度としたくない」など、むしろ話しておいてチェックしたい、話すことで落ちるとしてもそれでよいと考えるのであれば、リスク覚悟で話した方がいい場合もあるかもしれません。
不満より「客観的な事実」を冷静に語った方がいい
ただし、どんな場合でも、前の会社の批判を言うときには、なるべくネガティブ評価を受けないようにするべきでしょう。考えられる方法のひとつは、他人が聞いたらひどいと思いそうな「客観的な事実」を冷静に語ることです。
「前の会社はどんな会社だったのですか?」と聞かれたときに、自分の意見として「こういう風に最悪でした」と語るのではなく、例えば「月間の労働時間は300時間を下りませんでしたね」などと伝えるのです。
「私が言っているのではなく、私以外の人が言っている」とすることも考えられます。以前の会社がひどい会社であれば、自分以外の人もいろいろ批判をしていたことでしょう。
それを自分の意見として批判的に伝えず「私自身はなんとかやれましたが」などにとどめながら、「同僚には健康を害して辞めた人もいた」「やりがい搾取という不満はよく聞いた」など周囲は苦しんでいたと言うぐらいであれば、それほど悪い印象は与えないでしょう。
ただし、「ああ、この人は長時間労働でも不満に思わないのだな」という誤った印象を与えると逆効果になってしまいます。転職で譲れない条件については、あからさまに強く打ち出さないにしても、自分のホンネを偽らないようにしないと後が大変です。
ネットに書かれた「会社の悪口」をうまく使う
SNSや匿名掲示板など、インターネット上に書き込まれている会社の不評を利用する方法もあるかもしれません。ネットに書かれている会社の悪口の多くは、私の実感ですと、たいてい実情よりも悪く書かれているものです。
というのも、ネガティブ思考の人や、会社に恨みを持って辞めた人の方が、自分の思いを書きたいエネルギーが強く、そういった場所で発信しているのは彼らの方が多いからです。とはいえ、その会社の一面であることも少なくありません。
そこで、「SNSにはこんな風に書かれているのですが」と、いったん最悪の情報を伝えておき、「この部分はまあ真実とも言えるのですが」と前職の悪いところを一部認めることで、自分が言っておきたい情報を伝える方法もあります。
ただし、「でも、こういうところは事実無根ですし、こういういい所もたくさんありました」とフォローすることを忘れてはいけません。最後は称賛で終えることで「この人はポジティブ思考の人だな」という好感度を相手に与えることができるわけです。
「聞かれたから仕方なく言う」感を出す
そんな回りくどいことをするのではなく、自分の意見として直接言いたいのであれば、後は言い方を工夫するしかありません。
本当は前職の悪口など言うべきことではない。言うのは大人気ないし情けない。恥ずかしいことであるということを自分はしっかり分かっている。しかし面接担当者に聞かれたから、嘘を言うわけにもいけないので致し方なく話す、という感じを醸し出すとよいでしょう。
例えば、「どんなことが大変でしたか」というような質問の際に、少しモジモジして、
「え・・・、そ、それはですね・・・うーん、ちょっと言いにくいのですが・・・どうしようかな・・・まあ、言葉を選ばずに申し上げますと・・・」
というような枕詞を並べ、躊躇した感じを出してから意を決したように「実は・・・」と切り出します。少なくとも「前職を悪く言うことは大変恥ずかしいこと」という常識を持った人であるとは感じてもらえるかもしれません。
「愛のある忠告」で会社はよくなっていくもの
今回、小手先のテクニカルな話をしましたが、私自身は「会社に対する批判」のすべてが悪いと思っているわけではありません。結局、会社は周囲の批判を受けて、改善することでよくなっていくものと思うからです。
多くの人は、一度でも世話になった会社の悪口を、何か不満があるからといって言いふらすような人は信用できないと思うでしょう。しかし私は「愛のある忠告」としての批判はあってもよいと思います。
前職で陰口でなくきちんと発言し、改革をしようとして挫折した上での転職は、否定されるものではありません。「チェンジ・マネジメント」という研究領域があるぐらい、組織は内部から変革を行うのは極めて難しいもので、外圧によって変われる組織が多いのも残念ながら事実です。
ですから、以前の会社にとって改善が必要なところを発言したり、ネットの口コミサイトなどに書き込んだりしたものが、風の便りで前職の人々に届き、会社が良くなるきっかけになるのも完全否定はできないなと思います。
それでも、確信犯的に悪い部分を放置しているような会社は、それを「風評被害」だと言うのでしょう。そうなると、逆恨みをされて損をするのは発言者になってしまいます。揚げ足取りをされるリスクもあるので、少なくとも衝動的な怒りや恨みに任せて前職批判をするのは止めておいた方がよいでしょうね。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/