「ウチの店の前で騒ぐな、邪魔なんだよ!」 居酒屋の「販促」を毛嫌いする薬局のおじさん
外食チェーンで働いていると、ビルのテナントに入っている店舗が職場になることがあります。そういうビルには飲食店に限らず色々な店が入っていますし、同じテナント同士でも本当にさまざまな人が働いています。
そういう店舗では、自分の店の同僚やお客様以外に、他のお店との近所付き合いも大切になります。ときには相性の悪い人に当たってしまって、トラブルに発展することも少なくありません。(文:ナイン)
中尾彬さん似のダンディな顔で「恫喝」
私が以前勤めていた店舗はビルの2階にあり、1階に薬局がありました。この薬局のおじさんが接しにくい人で、本当に閉口したことがありました。
多くの飲食店では、店の近くに従業員が立って通行人に割引券などを配る「販促」を行います。それによってお客様の入りが変わる大事な仕事なのですが、薬局のおじさんは、この販促に敏感に反応するのです。
店が2階なので、ビルの前の通りに降りて販促をすることになります。居酒屋ですから元気に「いらっしゃいませ!」「あっお兄さんたち! ビール一杯飲んでいきませんか?」という感じで声を掛けるのですが…。
すると5分もしないうちに、背後から恫喝するような声が響きました。振り返ると年は60歳前後、顔は俳優の中尾彬さん似のダンディな薬局のおじさんです。その表情は硬く、明らかに私を威圧しています。
「おい! お前ここでなにやってんだよ?! さっきからうるさいんだよ! お前! 誰に許可とってやってんだよ?! えぇ?!」
もちろん販促の件は、ビルの管理人さんにも許可を取っています。私が不意をつかれて答えられずにいると、「店長か。あいつ、何回言ったら分かるんだよ!」と吐き捨てるように言い放ち、2階へと上がっていきます。
店長は反論「ここでやりたいなら、いいですよ」
私はすぐに店長に無線でこのことを報告しましたが、おじさんは「おい! 店長いるか?!」と店に怒鳴りこみました。
「お前の店の奴が、ウチの店の前で騒いでんだよ! これじゃ、うちの店にお客さんが入って来れないだろ? 何回言ったら分かるんだよ! 邪魔なんだよ!!」
私はそのとき、薬局の目の前で販促を行っていたわけではありません。距離にして20メートルほど離れたところにいましたし、薬局の営業に悪影響があるとは思えませんでした。
しかしおじさんは、「お前の店もここで客引きされたら迷惑だろ!」と店の入り口を指差します。するとウチの店長は、おじさんの高圧的な態度に苛立ったのか、
「あぁ、別にここでやりたいなら、いいですよ。はいじゃあ、どうぞどうぞ!」
とあからさまに喧嘩腰の言い方をしたので、おじさんの表情も一気に強張りました。しかし他のお客様の目もありますし、何といっても店の入り口です。私はとりあえず薬局のおじさんに平謝りし、なんとかその場を納めました。
「あいつらのせい」と妄想を刺激したのか
店長によると、おじさんはウチの店や同じビルの他の飲食店だけでなく、他のビルの店とも同じような揉めごとを起こしているのだとか。ビルの管理人さんが仲裁して話し合いの場を持とうとしたものの、それにも応じないのだそうです。
まあ、閑古鳥の鳴く店の外から賑やかな声が聞こえてくれば、「自分の薬局に客が入らないのはあいつらのせいだ!」という妄想が刺激されるのかもしれません。結局この件は、トラブル回避のために「薬局が開店している間は販促には出ない」ということに決めました。
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