ロシア兵と日本人看護婦の恋描く『ソローキンの見た桜』主演・阿部純子さんインタビュー「自分の選択に悩んでいる人に観てほしい」
日露戦争時代の史実から着想を得た映画「ソローキンの見た桜」が公開される。舞台は、ロシア兵の捕虜収容所があった愛媛県松山市。篤志看護婦である主人公の武田ゆい(阿部純子)とロシア兵ソローキン(ロデオン・ガリュチェンコ)の恋愛模様を描く。
「映画を通して様々な国の人とつながることができたことは、自分にとって大きな自信になった」と語るのは、主演を務める阿部純子さん(25)。撮影時の思い出や、映画を通して感じたことなどを聞いた。
「ゆいさんは実在したんじゃないかというアプローチで役作りをした」
物語の序盤、ソローキンは、ゆいの弟を戦死させ、兄の右足を奪った憎い敵としてゆいの前に現れる。ゆいは、捕虜収容所で意識を失い病院に運ばれてきたソローキンを懸命に看護する一方、ソローキンの首に手をかけようとしてはっとするシーンもある。やり場の無い怒りや悲しみと葛藤し、雨の中泣きじゃくる描写もあった。
とはいえゆいは、次第にソローキンに恋心を抱くようになる。この心境の変化について阿部さんは、「心の奥底から家族を愛しているゆいだからこそ、許せない気持ちはずっとあったはず」と考える。
「でもゆい自身は、国単位で人を見ていなくて。ひとりの人間としてソローキンさんと接していくうちに、こういう考え方、こういう世界もあるんだって、良い意味で価値観がどんどん崩れていく感覚を覚えたんじゃないかなと思っています」
代々ろうそく店を営むゆいの父は、うまくいかない店の経営のためにも、ゆいと銀行員との結婚を決める。ゆいは父に「勝手に決めんとって」とは言うが、その言葉は弱々しく、反抗というより独り言のように描写されている。
家長の判断が絶対で、意見することは許されない時代に生きるゆいにとって、自分を尊重して接してくれるソローキンとの交流は新鮮だったのだろう。ゆいの表情は家族といるシーンと比べ、ソローキンといる場面のほうが豊かになっている。ゆいにとって二人の時間は、しがらみや息苦しさから解放される瞬間だったようだ。
松山市内では、日本人とロシア兵の名前が刻まれた金貨が発見されている。2010年に松山市は、日本人はロシア人捕虜の看護にあたっていた女性看護師「竹場ナカ」さんである可能性が高いと発表した。1905年の新聞には、二人が恋愛関係にあったことをうかがわせる記述もあった。
阿部さんはその金貨の写真を見て「どんな気持ちで彫ったんだろうと考えると重みがあった」と語る。今回の映画はフィクションだが、「ゆいさんは実在したんじゃないかというアプローチで役作りをした」とも明かした。
「自分の価値観が日本人のものなんだと感じる現場だった」
撮影は「自分の価値観が日本人のものなんだなと、ひしひしと感じる現場だった」という。今回の映画は日露合作で、多くのロシア人俳優が参加している。日本人とロシア人、それぞれで台本の解釈に違いがあり、話し合わないとお互いがどう感じているのか共有できなかったそうだ。
「例えば、ソローキンさんがゆいさんを愛するとき。ソローキンさんは言葉でちゃんと自分の意志を伝えるんですけれど、ゆいさんは言葉にすることも、男性と関わることにも慣れていないので言葉での意思疎通がうまくできない。ロシアの俳優の方々は、それがなぜなのか、あまり理解が出来なかったようでした」
日本人だけの現場だと「阿吽の呼吸というか、全体の空気感が一つの作品を作っていくキーになる」と言う。今回のように言葉を重ねることで作品を作る体験は、阿部さんにとって新鮮だったようだ。
阿部さんは今作で、ゆいの子孫である高宮桜子も演じた。一人二役を演じるにあたり、「戦時中の古き良き女性像と、現代を生きる、どちらかというと物怖じしないフットワークの軽い女性像のコントラストを意識した」とも語っていた。
阿部さんは今作を、自分の進もうとしている道が正しいのか悩んでいる人に観てほしいと話す。
「今は、恋愛も自分の生き方も選択する自由がある時代だと思います。正解を見つける、正しい道はどっちだろうって考えるより、みなさん自分が行きたい方向を選ぶことが出来たらいいなと思っています。私もこの映画でそう思えるようになりました。どっちが正しい道かなって悩んでいる方に観てほしいです」
映画は3月22日から全国で公開される。愛媛県内では、16日から先行上映が始まっている。