こうした外国人の増加現象は川口市を中心として周辺地域に広がっている。2015年から2018年にかけ、戸田市ではおよそ2000人も増加し、同じように草加市でも約1500人ほど増えている。荒川対岸の北区は同期間で約5000人、足立区ではなんと約8000人も増加。足立区は川口市とともに3万人規模の外国人を抱えるグローバルシティと化している。
急ピッチで川口一帯が外国人タウン化している理由については次項に譲るが、川口は周辺市街に住む外国人の来街者が多い。
西川口でとある中国人カップルに声をかけると、彼らは赤羽在住で、西川口の中国食材店に買い物に来たそうだ。筆者もあらゆる人種の外国人に話を聞いたわけではないが、西川口周辺には本場の味を提供するディープな中華料理店のほか、中国やアジアの食材店が豊富にある。そのため、多くの中国人や東南アジア人が川口を生活の拠り所とし、川口市内あるいはその周辺に居を構えているのかもしれない。
単純な移住者数だけでは示せないほど多くの外国人が街を闊歩している川口だが、さらに市内での外国人居住者数を見てみると、その分布が西川口周辺に偏っているのがわかる。
地区別に外国人の人口密度を比べてみると、最高値を叩きだしたのが京浜東北線の西側に当たる横曽根地区で、1ヘクタール当たり28人。次いで多いのは20.7人を記録した中央地区。意外にも中国人だらけの芝園団地を抱える芝地区は12人とそこまで密集しているわけではない。
実は芝地区の外国人構成は芝園町が201.5人と突出しているだけで、その他の地区では1ケタ台がほとんどである。一方で横曽根地区では、ほとんどが2ケタ台となっており、西川口1丁目の104.1人を筆頭に、並木2丁目、並木3丁目、川口4丁目、西川口3丁目と50人を超える地域が5つもある。外国人の実数でいえば7000人以上が在留しており、全体のおよそ5分の1が同地区に居住しているのだ。
逆に、京浜東北線から離れれば離れるほど、外国人の人口密度は小さくなる。ちなみに最低値を記録したのは神根地区と安行地区で、わずか1.2人。東川口駅のある戸塚地区でも1.8人と、東部や北部には外国人がさして多く住んでいるわけではない。
「言葉」や「意識」に課題も
このように川口に住む外国人は、限定されたエリアに密集している。加えて出身国がバラエティに富み、親しい者たち(同じ出身国、民族など)で近隣に固まり、実に狭いエリアで小さなコミューンを築いている。
しかもそれぞれが出身国の生活習慣を用いて暮らしているので、国が違う外国人の交流も密ではないようだ。ネックになっているのは、やはり言葉の問題で、川口に在住する外国人の共用語は、多くの日本人市民との共生を考えれば日本語が適当と思われる。
だが、日本語を話せない外国人やその2世(子供)は少なくない。たとえば、芝中央小学校でクルド人少女に対するいじめ問題も発覚した。学校関係者の実名がネットに晒されるなど、その余波は多方面に広がっている。
ある川口市民(青木在住)は「外国人はまったく日本の文化になじんでないし、言葉もわからないからやっぱり恐ろしい」といえば、ある中国人も「日本人とは少し話す。ほかは全然」という。多国籍な外国人タウンだけに、さまざまな人種の共生には困難がつきまとう。
マスコミでは川口を外国人問題に熱心に取り組む市として、もてはやす向きもあるが、取材していると住民レベルでの認識が追いついていない面も垣間見られた。日本人住民の意識に変化の兆しが見られなければ、こうした不協和音は大きくなり、本当の意味での共生が難しくなる。
外国人支援もさることながら、日本人と外国人、そして出身国の違う外国人同士の共生の道を探れなければ、理解どころか人々の分断は深まるばかりだろう。
■書籍情報
著者:鈴木ユータ、松立学
価格:980円+税
発行:マイクロマガジン社