埼玉県を壮絶にdisりながらも、県民の心をガッチリつかんだギャグ映画『翔んで埼玉』(2019年公開)。東京の空気をかいで、採取した地名を当てる「東京テイスティング」のシーンで、GACKT演じる高校生・麻実麗は、西葛西の空気をこんな風に表現した。
「ツンと鼻につくスパイシーな匂い。ほんのりと潮風の匂いがする。これは最も東京でインド人が多く住み、なおかつ海が近い場所」
このセリフを聞いて、「へえ、西葛西ってそんな街なんだ!?」と興味を抱いた人も多いのではないだろうか。
「最近はリノベ物件や新しいマンションも増えています」
西葛西・葛西は一体どんな街なのか。西は荒川、東は江戸川、南は東京湾に挟まれている。東京メトロ東西線の南砂町から荒川を渡ると西葛西駅、葛西駅と続き、その隣は浦安駅。東京都と千葉県との県境にある街だ。ちなみに葛西駅から水族園や鳥類園などのある葛西臨海公園駅まではバスで10分程度。
街歩きと物件探しが趣味の恋愛コンサルタント、鈴木リュウさんは「あの辺りは海抜ゼロメートル地帯もあり、江戸川区のハザードマップには、想定最大規模の巨大台風や大雨があった場合、『区内(江戸川区)のほとんどが水没する』と記されています」と話す。
「かつては広大な干潟や豊かな漁場がありました。しかし、高度成長期に伴い、東西線が開通、区画整理も行われ、一軒家が建ったり、公営住宅が建ったりと区の人口も増えました。その時期から子育て世代がたくさん住んでいた街ですね」
その理由について「大手町や茅場町など東西線沿線で働いていて、葛西に住むという人が多かったですね。ファミリー向け物件が手頃な価格になってくるのが、このあたりからです」と話す。
SUUMOによると、東西線の2LDKの平均家賃相場は門前仲町駅で17万円、南砂町駅でも13.9万円するが、荒川を渡った西葛西では12.7万円、葛西で12.3万円と、グッと下がってくる。
「いわゆる『公団住宅』は現在、JKK東京やUR都市機構などが運営しています。高度成長期に建てられた物件でもリノベされているものもありますし、新しめのマンションも増えていたりするので、都心付近でキレイな場所に住みたいならオススメです」
「都心にいながらのんびり暮らしたい人にとっては”都会の田舎”としておすすめ」
買い物も便利で、手軽なレジャーがあるのも魅力だ。葛西にはアリオモールとイトーヨーカドーから構成される大型ショッピング施設「アリオ葛西」、生鮮食品から日用品、ファッションなどまで揃う「サニーモール西葛西」、家具・ホームセンターの「島忠ホームズ」などがある。
「子どもがいれば葛西臨海公園でゆっくり過ごせますし、大人にとっても東京都最大級のゴルフ練習場『ロッテ葛西ゴルフ』や、スーパー銭湯湯処葛西などでリラックスできます。車があれば移動もより楽になりますし、生活しやすい街と言えそうです」
また、”葛西の大きな資産”は「やはり海側ですね」という。水質汚染のため昭和30年代に東京湾の海水浴場は閉鎖されていたが、海水汚染を防ぐ取組を行い、2013年には約50年ぶりに実験的に葛西海浜公園の西なぎさで海水浴場を開いた。東京湾で唯一の海水浴場だ。
「私も以前行ったことがあるんですが、子連れが多かったです。公園内にはテントが張れる場所もありますし、都心にいながらのんびり暮らしたい人にとっては”都会の田舎”としておすすめなのではないでしょうか」
ところで、西葛西周辺にインド系住民が集まるようになったのは、2000年問題対応でインド系のIT技術者が呼び寄せられたことがきっかけになったようだ。鈴木さんは「たしかにインド料理店や食材店も見かけるのですが、ITエリートたち向けの落ち着いた雰囲気で、騒々しい感じはありません」と話していた。