地下鉄本郷三丁目から徒歩10分あまり。やってきたのは、安田講堂裏の東大生協第二購買部。すでに夏休みも始まりキャンパスに人の数は少ない。
しかし訪れたときにはすでに昼下がり、完売しているかもと思ったが、かろうじて3つ残っていた。いったい、昼にはどれだけの人が押し寄せたのか……。
さて、これが筆者のゲットした「新発売 土用のたれめし」である。土用の丑の日に誰もが食べたがる、甘辛いタレのかかっている銀シャリだ。これが198円で買えるのである。暗いニュースばかり続く令和の世に、こんな嬉しいことがあるだろうか。
駆け足でレジに持っていく。レジのお姉さんはこちらがいわなくても、箸をつけてくれた。なんて丁寧な人だろう……さすが東大。そこで、少し訊ねてみた。
——これ、今日はたくさん売れているのですか?
「ええ、まあ……」
——やっぱり、みんな慌てて買いに来たのでしょうねえ。
「そうですねえ……」
——販売は今日だけですか?
「この時期だけですねえ……」
なぜか言葉は少ない。そうだろう。これが198円なんて世間に広まれば、東京の津々浦々から人が押し寄せるのは目に見えている。
お茶を買うのも忘れて店を飛び出し、弁当を使うところを求めて三四郎池の畔へ。いよいよ、対面だ。
大急ぎで飯を掴み、口にほおばり喉に流し込む……
タレの味。
もう一口……
タレの味。
もう一口……
タレの味。
美味かった。本当に蒲焼きのタレの味の染みたご飯は美味かった。うなぎは影も形も見えなかったが。
完食して、満腹感を覚えたと同時に、急に寂しさがこみ上げてきた。なぜ、こんなものを売ろうと思ったのだろう。
最新の学生生活実態調査では、東大生の親の世帯収入は「1150万円以上」が最多のようだ。東大生たちは、どんな気分でこの弁当を買ったのか。そして、裕福な家庭に育った学生たちは、どんな目でこんな弁当を買っていく者を見ていたのか……。
帰り道、人の少ないキャンパスの中では、蝉が喧しく鳴いていた。蝉たちにすら嘲笑われているような気がして、とめどもなく涙が流れた。