この男性が家族と暮らすのは、都内湾岸エリアにあるタワーマンション。立地のよさから上層階では販売価格は1億円を越えている部屋もある。
「大手と呼ばれる企業に勤めているので、年収はそこそこ高いのですが、実家から資金援助を得てようやく購入できたという感じです」
年収は比較的高い男性だが、その年収に比しても高い買い物をした理由は子供の教育を考えてのことだった。
「子供の教育を考えると中学校からは私立が当然でしょう。そうなると、小学校でも中学受験が当たり前の環境で育てていったほうがいいと思ったんです」
地方出身だが「実家が太い」ことに改めて感謝した。そしてタワマンは資産でもある。都内ではマンションの値上がりが続いているので、毎日のように物件サイトを開いては、自分のマンション名を検索。価格を確認しては、ほくそえんでいたのだという。
「立地もいいですから、古くなっても値下がりはしないと思いました。子供が独り立ちしたら売りに出して、利ざやで稼げると思っていたんですけど……」
そんな皮算用が暗転したのは、入居してから半年あまりが経ったときのことだった。
「仕事中、自宅でテレワークをしている妻から電話がかかってきたんです。なんでも、同じフロアに警察官がたくさん来ているというんです」
何事かと、妻は警察官に尋ねたものの「教えられません」とけんもほろろだった。
「結局、その日にネットで新聞記事になってから何があったか知りました。自殺というか無理心中というか、とにかく人が死んでいたんです」
“大島てる”にも掲載される
新聞記事などでは「○○のタワーマンション」と、地名をいれるだけでマンション名は出ていなかった。ところが、それはあくまで新聞記事だけのことである。
「ネットでは、様々なサイトでマンション名が表示されるようになりました。当然ですが、早速“大島てる”にも掲載されています」
あくまで同じフロアで事故物件が出ただけで、自分の部屋が事故物件になったわけではない。それでも、男性は気が気でない。
「まさにデジタルタトゥー。永遠にマンション名を検索する時に、事件のことは表示されるでしょう。今は、特に値下がりをしているわけではありませんが、将来的にどうなるかと思うと急に人生設計が崩れてしまったような気がしています」
このやるせない気持ちを慰めようと、男性は様々なタワーマンション名に殺人事件と入力して検索することが多くなったという。
「やっぱり、タワーマンションは住んでいる人が多いので、それだけ死んでいる人も多いじゃないですか。うちはまだ一件だけですが、複数の自殺や殺人事件が起きているタワマンもけっこう多いでしょう。そうした過去の事件を調べて物件の値段を見て、ウチはまだ大丈夫だ。事件は一度しか起きていないと気を紛らわしています」
とはいえ、同じ建物の中で陰惨な事件が起きてしまったことのメンタルへのダメージは大きいという。
「自分が小学生の頃、通学路途中の家で殺人事件があったんです。子供はみんな、ここで人が殺されたんだとか噂して歩いていました。近所の人もいい気はしなかったでしょうね。だから、マンションの前を通っている人がみんな“このマンションで事件が……”と話ながら歩いているんじゃないかと気になってしようがありません」
男性は「できるものなら引っ越したい」と本気で考えているという。