「バカッター」の風評被害と戦う食品業界 従業員の満足度を高める取り組みも
まもなく夏休み。内輪ウケをねらった悪ふざけをツイッターに投稿する「バカッター」のせいで、大きな損害を受ける店舗や会社が生まれないよう祈りたい。
2015年7月7日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、消費者の「食の安全」への意識が高まるなかで、バカッターなどの迷惑行為などを即座に把握し、被害を防ごうとする企業の取り組みを取材していた。
「異物」「カビ」などネットの時間監視サービスも登場
スマートフォンやSNSの普及により、食に携わる企業は口コミでの風評被害やバイト店員によるいたずら写真のアップなど、新たな形で防衛策が必要となっている。
東京・新橋にある「エルテス」は、企業の危機管理対策のため24時間365日、ネット上の投稿を監視するサービスを展開している。ブログやSNS、ニュースメディアなど120種類ほどの中から、特定のキーワードが含まれる投稿を監視する。
キーワードは業界ごとに設定され、食品業界なら50種類ほど。「異物」や「入って」「カビ」などの直接製品に関わることはもちろん、「過労」「最低」「サビ残」など働く人のグチと思われるワードも数多く対象にされていた。
膨大な情報からアルバイトの不祥事を探し出すため、「バイト」「クルー」なども登録されており、店名だけでなく「○タリア軒」などネット特有の言い回しも含むという。
投稿が短時間で急速に広がる「炎上」を防ぐため、これらのワードが1時間に30件以上現れた場合、エルテスは契約企業に連絡し対応をアドバイスする。料金は月20万円からで、約200社と契約。一見高額だが、専門部署を置いて24時間体制で監視する費用や、問題が起きた場合の損失を考えれば安いものかもしれない。
アルバイトの「キャリアパス」見直す会社も
独自の取り組みでバイトによる「悪ふざけ」を未然に防ごうとする外食企業もある。全国に112店舗を展開する「丸源ラーメン」は厳しい衛生管理で、これまで食中毒は一度も起こしていない。
しかし2年前、アルバイト店員が冷凍庫の中でソーセージをくわえた写真をネット上に投稿したことから、会社は店舗を閉鎖し食材の廃棄など対応に追われ、売り上げは3割落ち込んでしまった。
運営会社の「物語コーポレーション」は他に5業態336店舗を経営しており、従業員1万5000人のうち正社員は1300人で、ほとんどがアルバイトだ。加治幸夫社長は、事件の知らせを聞いて「えっ、うちも?」と驚いた。教育はしっかりしていると思っていたからだ。
事件の責任をバイトに押し付けるのではなく、会社の問題として考えることに。全ての従業員に「SNSに店の情報をあげない」という誓約書を義務付け、店側の管理を徹底したうえで、専門の部署を立ち上げて再発防止対策を継続している。
アルバイト全員へ「働く理由」や「給料・待遇」などのアンケートを行ったところ、満足度が低い店舗が洗い出された。訪れてみると床に水がこぼれたままなど、「バイトだから」と社員の力に頼ってしまっている状態だった。
入社18年の鈴木寿穂さん(38歳)は、アルバイトの働き方を大幅に変えるプランを考案。新しい評価制度を設定し、これまで正社員しかなれなかった店長をアルバイトでも目指せるようキャリアパスを設けるもので、12店舗から試験導入が決まった。
マルハニチロは再発防止策に10億円投資
番組では旧アクリフーズの農薬混入事件の痛手を引きずり、いまだ売り上げが回復しないマルハニチロの取り組みも紹介した。監視体制を強化し、生産ラインを大幅に改造。工場内に5台あった監視カメラを172台に増やすなど10億円をかけて再発防止策に努めている。
また、事件の背景に「従業員の不満」があったとして、経験の浅い従業員には先輩社員がつき、ていねいに指導するなど「丸源ラーメン」同様に働く人の不満をできるだけ取り除く努力が払われていた。
意図的な異物混入や不注意な投稿はもちろん良くないことではあるが、企業側が従業員の「働く満足度」を強く意識するようになったのならば、事件は教訓として生かされた部分があるようにも感じた。(ライター:okei)
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