所沢市の「育休退園」でNHKが特集番組 更なる財政負担は「受け入れられない」が3割
今年6月、保育園に子どもを預ける埼玉・所沢市の保護者たちが「出産後に育児休業を取ると上の子が退園させられる制度はおかしい」と市を訴えました。NHK総合「特報首都圏」は7月18日放送でこの問題を取り上げ、育児支援のありかたについて考えました。
2歳の子どもを保育園に預けながらフルタイムで働いて来たある母親は、4月に2人目の子どもを出産し育休を取得すると、保育園から退園を迫られました。再入園に不安があり、予定通り仕事に復帰できるか危機感を抱いています。(文:篠原みつき)
市を訴えた保護者「子どもの楽しい園生活を奪う」
市に訴えを起こした保護者は「毎日楽しい園生活を送っていた子どもの世界を、この制度によって奪うことになります。子どもは保育を受ける権利がある」と主張しています。
一方で市は、この6年間で2億円以上の予算をかけて保育園を次々と整備してきましたが、それでも待機児童問題を解消できず、育休退園は避けられないという考えです。所沢市・こども未来部の本田静香部長は、こう説明しています。
「これまで保育の必要性があったにもかかわらず、入園できず待機していた人との公平性の観点から、あらためてこういった形にさせていただいた」
内閣府で政策検討の委員も務めている大日向雅美教授(恵泉女学園大学)は、双方の主張をそれぞれの立場で捉えていました。
保護者側に対しては「慣れた園を出る様子は胸が痛む。環境が安定しないのは子どもに悪影響」とする一方で、市に対しても「保育園を拡充すればするほど利用希望者が増える」という都市部特有の問題として理解を示しました。
「育休退園」は、全国の他の自治体でもやっていること。なぜ所沢だけが訴えられてしまったのでしょうか。背景には、市の説明不足や対応のまずさがあるようです。
豊島区は独自に2億円の予算を編成
所沢市が親たちに育休退園を通知したのは、制度が始まる1カ月前。出産を控えて急に対応を迫られた親たちに、動揺が広がりました。さらに「再入園についての問い合わせにもあいまいな受け答えで、不信感を募らせた」と保護者たちは話しています。
皮肉なことに、国はこの4月から0歳から2歳の保育の拡充を行う子育て支援の新制度をスタートさせたところ。いままで民間が行ってきた認定こども園や小規模保育などに、行政が補助金を出しています。
例として、新制度で小規模保育を増やし保育の質も向上させた豊島区が挙げられました。ただし国の補助は全国平均をもとに作られているため、首都圏では圧倒的に足りず、自治体が更に上乗せした負担を求められます。
豊島区も今年度は独自に約2億円の予算を組み、今年4月に7カ所の小規模保育所が開設され94人の受け入れ枠を増やすことができたそうです。
子育て支援には財源が必要です。大日向教授によれば「自治体がどれだけ覚悟できるか」だそうです。子育て世代がたくさん入って地域が活性化するのか、ゴーストタウンになっていくのか、それを見極める「やる気とセンスの見せどころ」と、大日向教授は穏やかな声で厳しい言葉を放ちました。
「子育て支援はコストではない」受け入れられるか?
番組中の視聴者アンケートでは、「育休退園」については大きく意見が分かれ拮抗していましたが、「保育への更なる財政負担」を「受け入れられる」とした人が7割近く、「受け入れられない」とした人が3割でした。子育て支援にお金が掛かることには、多くの人が理解を示しています。
どんなに対応してもキリがない自治体の苦労・負担は確かに大きく、地域差がある部分にゆだねられてしまうことに疑問は残ります。しかし、市民が行政だけにまかせるのではなく、「ニーズに対して行政と一緒に知恵を出し合う」ことの大切さや、「子育て支援はコストではなく、未来の社会に希望を託すこと」という大日向教授の解説には同感でした。
先立つものに限りがあるのは当然ですが、高齢化社会で医療や介護を担うのは若い世代です。自分に子どもがいてもいなくても、社会を支える子どもと育てる人たちを大切にしなくてはならないでしょう。
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