北欧の介護施設で「1日6時間労働」試行 職員には好評「仕事も家庭も元気でいられる」
スウェーデンのある介護施設で、働き方に関する試験的な取組みが行われていると、英ガーディアンが紹介しています。施設で働く看護師の労働時間を8時間から6時間へと削減するもので、職員には好評のようです。
取組みは今年2月、スウェーデン南部の都市ヨーテボリにある介護施設スヴァテダーレンズ・ケアホームで始まりました。スタッフには好評で「これまではいつも疲れていて帰るとソファに倒れこんでいたけれど、今は仕事でも家庭でも元気でいられます」といった声が聞かれているそうです。(文:遠藤由香里)
スタッフが疲れていたら、利用者にもストレス与える
介護部門の責任者ラーソン氏は、職員の状態が良くなったことでケアの質が上がったと評価しています。
「1990年代からというもの、仕事が増える一方で職員は削減されてきました。対応は限界を迎えていて、介護業界では病気や精神的な不調が増えているのです」
41歳の准看護師ペーターソンさんは6時間勤務になったことで、ケアの質を保てるようになったといいます。介護施設の利用者の中には認知症の方もいて常に気を張っていなければなりませんが、労働時間が減ったことで余裕ができたようです。
「(スタッフが疲れていて)利用者にストレスを与えてしまうようではいけないのです。それでは誰も幸せになりません」
実はスウェーデンでの6時間労働の取組みは、今に始まったことではありません。北部の街キルナは、1989年から高齢者介護施設での6時間労働を導入。ストックホルムは1996年から、高齢者施設のほか保育所や障害者施設にも導入してきました。しかし、いずれも右派が台頭したことなどから、2005年に8時間労働に戻されています。
新たな人を雇うコスト負担は無視できない
ルンド大学のオルセン教授は、6時間労働が続かなかった理由を「政治的決定だった」とする一方で「コストが掛かり過ぎた面もあった」と指摘します。一人あたりの労働時間が減った分、新たに人を雇う必要があるのです。
「求人が増えれば失業手当の支払いは減りますが、その恩恵を受けるのは中央政府です。(施設を運営する)自治体には新たな人を雇うコストがのしかかりました」
忘れてはいけないのが、スウェーデンでは介護職員は公務員的な扱いで、給与も地方自治体が支払っていること。ヨーテボリでの取組みにおいても、短時間労働で生じる穴を補填するため14名を追加採用し、人件費は市が負担しています。
またオルセン教授は、「病気休職が減っても、これが勤務時間削減によるものなのか他の要因によるものなのか、判別するのは難しかった」として、これまでの取組みでは短時間労働の有効性を示せなかったことも指摘しています。
ヨーテボリでの試行では病気休職以外にサービスの質向上を見るなど、効果を測るためのエビデンス収集に工夫をしていますが、同市での取組みも2016年末で終了することが決まっています。推進してきた中道左派が勢いを失くしたことによる方針転換ですが、年間63万ユーロ(約8,400万円)が掛かっていることも要因となったようです。
6時間でも8時間分の給与を支払うことができるか
取組みは終了する一方で、関心は広まっており、他業種にも6時間労働を取り入れる例が生まれているそうです。スウェーデンに限らず北欧諸国でも、経営層・スタッフ層に関わらず議論されているとのこと。前述のスヴァテダーレンズ・ケアホーム介護部門責任者ラーソン氏は、こうコメントしています。
「スウェーデンで何かが変わっているように思うのです。政治的な関心でもありますが、ワークライフバランスが明らかに欠けているから広まっている議論のように思います」
スウェーデンの大手労働組合も「議論の変わり目なのだと思います。リベラルも保守もこの取組みを認めていますし、労働組合も6時間労働という問題に真剣に取り組まなければならないのだと考えさせられます」と述べています。
ところで働く側としては気になるのが、6時間労働になったときのお給料。この取組みでは6時間労働になっても、8時間のときと同じだけの金額が支払われているそうです。
もし6時間分の給与しか支払わなくてよいのであれば、市の財政負担は減るでしょう。しかし職員の給与は減ってしまいます。介護職員の労働環境改善は日本でも課題ですが、同様の取り組みをするためには色々と工夫が必要だと考えさせられます。
(参照)Efficiency up, turnover down: Sweden experiments with six-hour working day(the guardian)
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