EU離脱でイギリス労働者の生活はどう変わる? 「週48時間労働」に「同一労働同一賃金」…
6月23日の国民投票で、イギリスはEUからの離脱を決めました。EUの一員として担ってきた負担が大きすぎると感じる国民が、それだけ多かったということでしょう。その負担は週6億ポンド(840億円あまり。1ポンド140円として)という試算もあります。
しかし日本人からすると、EUの規制には「労働者保護」など見習いたいものもあります。「離脱後のイギリスが懐かしむEU規制の数々」という英インデペンデント紙の記事を基に、どんな規制があったのか確認してみましょう。(文:夢野響子)
「雇用分野の規制緩和」はないと予想されているが
日本の労働者が一番気になるのは、「EU労働時間指令」の扱いではないでしょうか。EUでは週48時間以上従業員を働かせることは、原則として違法です。日本の労働基準法も「1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」としていますが、EUは時間外労働分も含んでいる点が大きく異なります。
なお労働時間指令にはいくつか例外があり、4か月単位の平均労働時間が規定内であれば許容されるほか、労働者個人の同意に基づいて週48時間労働などを適用しないことを認める「オプトアウト条項」を各国が定めることなどが可能です。
イギリスでは1992年にメージャー首相が「48時間の規制」を廃止しましたが、6年後にブレア首相の労働党政権が再びこれを採用しています。EU離脱派には労働者層が多かったようですが、この規制については維持を訴える人たちがほとんどでしょう。離脱派の活動家であるアンドレア・シーゾム氏も、
「離脱後も、雇用分野の規制緩和は見られないだろう」
と語っています。しかしこの規制を守るために、イギリスの経営者側は総額で年間約40億ポンド(約5600億円)もの余計なコストを支払わなければならなくなったのも事実です。EU離脱を機に、規制撤廃を訴える動きがあるかもしれません。
派遣労働者の「同一労働同一賃金」も維持か
またEUの非典型労働規制によって、「派遣労働者」は社員と同じ仕事をする限り、同じ賃金や待遇を受けることを保証されています。いわゆる「同一労働同一賃金」という制度です。
これを労働市場への不要な干渉だとする意見もありますが、シーゾム氏は「英政府はこの制度を廃止するリスクは取りたがらないだろう」と見ています。
一方でイギリスの労働者はEUからの離脱によって「労働者の自由な移動」を保障する必要がなくなったことを歓迎しています。移民問題は、EU離脱の最大の理由でした。
英政府の意向にかかわらず、EUはイギリスへの移民の数や種類をコントロールしてきました。EU域内での労働者の自由な移動はEU政策の要の一つで、加盟国ではないスイスやスウェーデンにも適用されています。しかし自由貿易支持者は、EUからの離脱がすなわち「英国への移民がゼロになること」を意味するものではないとしています。
「出稼ぎ者への児童手当」は廃止の見通し
なおイギリス国内で働くEU市民は、子どもがイギリスに住んでいなくても児童手当の支給をイギリスに求めることができます。いわゆる「出稼ぎ者への児童手当」というものですが、この手厚すぎる制度はEU離脱で最初に廃止されると見られています。
この他、EUの「共通漁業政策」(海洋資源を守るための漁獲割り当て)や、最低15%と定められた付加価値税(日本の消費税にあたるもの)、ドイツ主導で定められた銀行への重い規制、糖尿病患者への運転免許交付の禁止、バナナの形による輸入制限などはイギリス国民の不満が強く、規制の数が減る可能性がありそうです。
(参照)15 EU laws and regulations we will miss in post-Brexit Britain (INDEPENDENT)
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