不登校だったゲイの少年が立ち向かうLGBTへの差別 「LGBTも安心して働ける社会を作りたい」
―まずは、LGBTが求職活動や職場でどのような問題を抱えているのか教えて下さい。
まずは求職中のお話からします。求職活動中に困難を感じているのはセクシュアルマイノリティー(LGB)では44%、トランスジェンダー(T)では70%にも上ります。(※1)またLGBTのうち55%がセクシュアリティーや性自認についてオープンにしたいと思っているのですが、100%の人がオープンにすることは不安だと答えています。(※2)
―オープンにした場合としない場合では、それぞれ問題が異なりそうですね。オープンにした場合にはどのような問題が生じますか。
ひどいときだと、あからさまな差別を受けることもあります。トランスジェンダーであることを伝えたところ、偏見を持った面接官に「帰っていいよ」と言われてしまった人もいます。そこまでひどくなくても、セクシュアリティーや性自認についてばかり質問され、肝心の自己アピールができないことがあります。
―LGBTであることを伏せて求職活動をする場合はどうですか。
オープンにしない場合には、面接で嘘をつかなければならなくなります。例えば、在学中にLGBTサークルで活動していてもその活動について話せないという人は多いです。仕方なく、異文化交流のサークルに所属していたと嘘をつく人もいるようです。
最近では、現在の価値観を形成した幼少期の経験について掘り下げて聞かれることが多いようです。LGBTの学生にとって、重要な人生経験はセクシュアリティと結びついていることが多く、ここで嘘をつくと一貫性が保てなくなります。
またLGBTはライフプランを立てにくいので、面接で結婚や出産の予定を聞かれて戸惑う人も多いです。こうした質問は、女性の社会進出を阻むという理由で批判されることが多いのですが、LGBTへの差別にもつながります。
同性のパートナーがいても転勤について配慮してもらえない
―働き始めてからは、どのような問題に直面しますか。
カミングアウトしたことで内定を撤回されたり、役職を降格させられたりと明らかな差別を受けることもあります。そこまでいかなくても「あいつはゲイっぽい」と噂されたり、飲み会で女性経験についてしつこく聞かれて困ったりすることも多いです。
こうした職場での差別的な言動について、当事者と非当事者の認識には隔たりがあります。2298人のLGBTを対象に実施された調査で、差別的言動の多さについて尋ねたところ、当事者では57%が「多い」と回答した一方、非当事者では40%しか「多い」と回答しませんでした。当事者が「差別だ」と感じていても、非当事者は自覚していない場合があるのです。(※3)
自覚のない差別は「マイクロアグレッション」と呼ばれ、問題視されています。LGBTを馬鹿にするような発言をする人は、当事者を傷つけるつもりでしているわけではないかもしれません。しかしそれが積み重なると、LGBTにとっては心理的な負担になるんです。
そのせいで、LGBT当事者は非当事者に比べて、生産性が30パーセントも低下してしまいます。精神疾患になる人も多く、LGBでは25%、Tでは35%の人がうつを経験していますし、離職率も60%と一般の人よりも高いのが現状です。(※4)
―制度や設備の面でも不利益を被ることがあるそうですね。
事実婚状態の同性パートナーがいても、転勤について配慮してもらえなかったり、社員寮に入れなかったりすることがあります。トイレが男女別になっていて、どちらを使えばいいかわからない、性自認に合ったトイレを使えないといった問題もあります。
―こうした問題に対して、企業はどのように対応していけばいいのでしょう。
まずは役員や管理職、相談窓口担当者に研修を受講してもらうこと、環境改善への取り組みを始めたと周知することが第一歩です。次に全社員に向けてLGBT勉強会を開催したり、福利厚生を見直したり、差別禁止を明文化したりして下さい。
社内の職場環境が改善され始めたら、その取り組みを継続して行うこと、さらに社内の取り組みを社外にも周知することが大切です。JobRainbowでは全ての段階に応じて、各企業を個別にサポートしています。
―JobRainbowでは、3つの事業が柱になっているそうですね。
LGBTしごと情報サイト「JOBRAINBOW」、LGBT求人サイト「ichoose」、研修コンサルティングの3つの事業を運営しています。「JOBRAINBOW」には、LGBTによる企業口コミが掲載されています。例えば、スターバックスジャパンには、「セクシュアリティに関する認識も寛容な方が多く感じます」といった口コミがあります。他にもLGBTフレンドリーな企業へのインタビュー記事などが掲載されています。
「ichoose」では、LGBTフレンドリーな企業に求人広告を出してもらっています。4月にオープンしたばかりで、まだ掲載企業は少ないですが、今年中に100社からの求人を掲載するのが目標です。そして研修コンサルティングでは、ワークショップ形式での研修を実施したり、同性カップルの福利厚生や制度の見直しを進めたり、社内の理解度調査を提供したりしています。
「先生に『お前ホモかよ』と言われ、不登校になった時期も」
―ご自身もセクシュアルマイノリティーとして苦労されたとお聞きしました。
中学生の時に自分がゲイだと気づきました。周りが女の子の話をしていても上手く加われなかったり、教科書は異性愛が前提になっていたりして辛い思いをしました。
先生にも「なよなよしてる」「お前ホモかよ」と言われたことがあります。自分は他の人とは違うんだと孤独を感じ、不登校ぎみになってしまいました。学校に行けず、家でインターネットをしていたとき、初めてLGBTについて知りました。
―どのようなきっかけでJobRainbowを立ち上げたのでしょうか。
都内の私立大学に進学後、セクシュアルマイノリティサークルの代表を務める中で、LGBTが求職活動をしたり、働いたりすることの難しさを見聞きしました。面接で嘘をつかなければいけないと悩む友人は多かったです。女性として産まれたけれど、性自認は男性という人が面接で「化粧をしていない」と言われたという話も聞きました。
きちんとした大学を出ていても、LGBTというだけで就職で不利になるのは問題だと思いました。LGBTでも不安を持たずに働けるような社会にしたい。こうした思いがJobRainbowの根底にあります。
ビジネスとしての構想が具体化したのは、リクルートにインターンをしていたときのことでした。新規事業を考えるという課題で、企画を立案しました。2015年に、NPO法人スプリングウォーターが主催するビジネスコンテストTRIGGERに出場して、優勝しました。そのときは、ワークスアプリケーションズ代表の牧野正幸さん、LINEを立ち上げ現在C-CHANNELの社長でもある森川亮さん、FreakOut代表の佐藤裕介さんといった審査員の方々に評価して頂きました。JobRainbowを立ち上げたのは、2016年1月のことです。
ビジネスでなくとも、NPO法人でもいいのではないかと思ったこともありました。でもビジネスとして成立させないとサスティナブルな支援はできないと考え株式会社にしました。
―社会問題を解決するという志をビジネスに結実させたんですね。
LGBTの問題は、当事者だけの問題ではありません。LGBTに該当しなくても、「女性らしさ」や「男性らしさ」に苦しんだり、とらわれたくないと思っている人はいます。
企業もダイバーシティはストラテジーだということを理解してほしいと思います。顧客にもLGBTはいますので、商品づくりやサービス提供にLGBTの視点が必要です。
(※1)、(※3)(c) Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2016
(※2)JobRainbowによる調査
(※4)(c) Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2015