「過労死は許容できないが、残業上限設定で地域医療が崩壊する」 全国自治体病院協議会が緊急要望
医療職のうち、医師の長時間労働は特に問題視されている。政府は今年3月に定めた「働き方改革実行計画」で、現行の36協定を法律に格上げし、時間外労働の上限を設定する方針を明らかにしている。医師に関しては業務の特性上、法改正の施行から5年は適用を猶予すると記載されていた。
しかし、こうした政府の方針に対し、各公立病院が加盟する全国自治体病院協議会は9月下旬、「医師の働き方改革の緊急要望」を発表し、10月18日に同サイトに掲載した。医師や診療科の偏在など、現在抱えている問題を解決しないまま労働時間の上限規制を適用すれば、診療科目の縮小や救急患者の受け入れを制限せざるを得なくなり、地域医療が崩壊しかねないとの危機感からだ。
大規模病院に勤務する医師の、最長時間外労働時間は月119.5時間
協議会では、今年7月に全国の879病院でアンケート調査を実施し、約半数の47.9%から回答を得た。
政府が導入しようとしている年720時間の上限を受け入れた場合、200床未満の病院では、「病院運営そのものが立ち行かなくなる」という懸念が出た。200床以上の病院では、時間外や夜間の診療、救急患者の受け入れを制限せざるを得ないとの回答が多い。
所属病院以外で単発的に診療する「外勤」の縮小や、手術件数の半減、「救急病院返上、診療科を選別し総合病院も返上等が考えられる」という回答もあった。病院規模の違いに関わらず、現在の診療体制を維持するためには医師の増員が不可欠との要望が数多く寄せられている。
アンケート内で明らかになった現在の医師の勤務状況を見ると、各月の平均時間外労働時間が60時間を超える医師は、研修医で15.1%、非管理職の医師で28.3%いる。時間外労働時間は、病院の規模と比例して増加する傾向にあり、500床以上の病院に勤務する非管理職医師の月平均時間外労働時間は47.5時間、最長では119.5時間にも達している。
診療科目による差も激しい。月60時間以上の時間外勤務をしている非管理職医師の診療科目を見ると、60時間以上80時間未満、80時間以上100時間未満、100時間以上の全てで1位が整形外科、2位が外科だった。
「医師の地域偏在」「診療科偏在」にも対策を
全国自治体病院協議会では「もちろん勤務医の健康が第一で、過労死は許容できません」と強調した上で、要望内で
「いわゆる当直を交代制勤務とし、時間外労働の上限規制を導入する場合の医師数の需給予測をする必要があります。現在ある医師の地域偏在、診療科偏在に対して何らかの手を打たず、時間外労働規制の考え方だけを進めると地域医療は崩壊すると考えます」
と主張している。