電通、新国立競技場……過労死問題に取り組み30年、川人博弁護士「肝心の職場がなかなか変わらない」
働き過ぎによる過労自殺が大きな社会問題となる中、11月20日放送の「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK)は、労働問題に取り組む川人博弁護士を紹介した。川人弁護士は労災問題の第一人者で、電通過労自殺の高橋まつりさん(享年24)や、今年3月新国立競技場建設で自殺した現場主任の男性(享年23)の労災認定も担当している。
労災は、遺族が労働基準監督署に申請し、認められれば国から補償金が遺族に支払われる。だが、業務と死の因果関係を立証しなくてはならず、実際に労災認定されるのは全体の4割程度。その中で、川人弁護士の労災認定率はおよそ7割で全国平均のほぼ2倍を誇る。(文:okei)
「労働時間が異様に長い」だけでは認められない
しかし言い方を変えれば、川人弁護士ほどの人でも3割は棄却されているのだ。厚生労働省が定める労災認定の基準は厳しく、「労働時間が異様に長い」だけでは認められない。「ゆっくり仕事していたんじゃないですか」と言われてしまう恐れがあるという。
川人弁護士は、今でこそ一般的な、PCのログイン・ログアウト時間を調査して本当の労働時間を割り出す手法なども、早くから行っていた。地道で綿密、かつ独自の発想で過酷な労働実態を目に見える証拠として積み上げていく。
驚いたのは、30年前はわずか5%ほどだった労災認定率が、川人弁護士の尽力によって10%、20%と段階的に上がっていったことだ。
川人弁護士が過労死問題に取り組み始めたのは、およそ30年前のバブル期。サラリーマンの過労による突然死が相次いだが、当時は単なる個人の病気とみなされ、労災は認められなかった。
川人弁護士は「国が認めないなら、企業を直接訴え責任を問おう」と呼びかけ、企業への訴訟が各地で始まった。徐々に企業の責任を認めさせる例が出始めると、労災認定基準が緩和され、認定率も初めて10%台になった。
今も年間2000人が亡くなる現実
バブル崩壊後に問題になったのは、過労自殺だ。これも当時は「自殺は個人の問題」として労災認定されなかった。しかし、電通勤務の男性(享年24)の過労自殺を最高裁で争った際、
「これは一人の、一家族の事件ではなく、働く者の命が掛かっている裁判である」
と、日本全体の労働問題として訴え、完全勝訴を勝ち取った。翌年、労災の認定基準が大幅に緩和され、労災認定率は20%を超えた。
しかし川人弁護士は、「残念なことに、行政や裁判にはそれなりの成果・前進はあったけれども、肝心の職場がなかなか変わらない」と嘆く。今も年間2000人が亡くなり、ほとんどの人は泣き寝入りという現実があるのだ。
だが、「成果が出ない事に甘んじてはいけない」とも語る。
「弁護士たるものは、どんなに壁が厚く高くとも、最大限の努力をする。最大限の知恵を絞って壁を突破していくというのが、弁護士の仕事ですよ」
その言葉通り、いまも厚生労働省へ認定基準の改定を求め続けている。
多忙を極める中、休息の大切さも示す
次々と依頼に取り組む川人弁護士の姿は、それこそ過労状態ではと心配になったが、自ら休日に喫茶店でゆっくりと休息をとる様子も見せていた。プロフェッショナルとは何かという問いには、
「責任感と柔軟性を合わせ持つ人。心のゆとりをもつことによって、柔軟な発想、あるいは柔軟な知恵を生み出していくことができる人だと思います」
と語る。多くの働きすぎの人に向けてのメッセージだろう。
労災認定は難しく、認定されるまでに10年もかかるケースもある。企業の改革はもちろんだが、会社のために無駄に命を落とすことがないよう、自身の働き方には十分注意して欲しい。
余談だが、番組では冒頭、4年前に過労死したNHKの佐戸未和記者(享年31)の件にも触れ、ネットでは社内で発生した過労死に真摯に向き合うNHKに、一定の評価があった。過労死はどんな組織にとっても他人事ではないのだ。
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