残業が減ったら最大20万円キャッシュバックする企業 「働き方改革」で8兆5000億円減少する残業代をどうすべきか
広島を中心に展開するスーパーマーケットの「フレスタ」は、2017年の冬から、毎月の残業時間が少ない分、ボーナスに付与する」という制度を導入した。残業時間を6段階で評価し、少なさに応じて最大で20万円上乗せするという。
残業が月に0~2時間以内なら20万円、5時間未満で15万円、5時間以上で10万円、15時間以上だとぐっと下がり5000円、20時間以上だと0円になる。
水産チーフのTさんは、残業代が無くなると生活が苦しくなる不安があったものの、「賞与で(上乗せ金が)付くなら(残業削減を)やってみようかなと思いました」と当初の心境を語る。
人員増など勤務時間を短くする工夫を重ねた結果、Tさんの残業時間は前年の同じ月よりも24時間減った。17年の冬のボーナスでは、Tさんを含め対象になった社員のうち41人が20万円上乗せされている。
Tさんの収入は、トータルでは大きく増えておらず「前年とほぼ同じか少し増えたくらいの感覚」だという。しかし、こんな変化があったそうだ。
「5時に帰れるようになって、子どもの保育園の迎えに行くようになりました」
額面的にはあまり変わらなくても、収入を減らすことなく労働時間を短縮しているので、時給では確実にアップしている。なにより子どもと触れ合う時間が増えたことは大きい。これこそ、本来の目的に向かった働き方改革だろう。
フレスタホールディングスの人事総務部長は、「全員の残業時間が本当に減れば、本人給にベースアップをしたいと思っています」と今後の方針を述べた。
「残業するほど稼げる、はワークライフバランスを逆行している」
条件付きで残業代を増やす企業もある。去年7月から「残業代が少なければ残業代が増える」という仕組みを導入したのが、半導体の加工機械を手掛けるディスコ(東京・大田区)だ。
例えば、残業時間が月45時間以内なら、残業代の割増率を40%増やす。ところが46時間に増えると割増率は45時間まで35%、それ以降は30%となる。社員は自ずと残業時間を減らす努力をするだろう。
ディスコの関家一馬社長は、「残業すればするほど稼げますという環境は、ワークライフバランスとか働き方改革の方向と逆になる」と語る。
「長い残業は損ですよという仕組みを作れば、皆さん自然に知恵を出して、アウトプットを維持しながら残業を減らすことを本気に考え始めるということです」
結果として平均80時間を超えていた残業時間が減り、売上高も伸びた。来年度のボーナスは例年より1回多い4回になるという。社内の士気も上がるはずだ。
大和総研の試算によると、政府が推進する「働き方改革」で残業時間の上限が規制された場合、最大で8兆5000億円の残業代が減少するという。これは雇用者の報酬の3%に相当するとのことだ。是非とも社員に還元していただきたい。
他にもこうした動きは少しずつ広がっており、17年には減った残業代を原資に味の素が1万円のベアを実施。サントリーホールディングスは社員の健康増進策の原資にあてるという。減った残業代をきちんと働く人に還元していけるかが、働き方改革が成功する決め手のようだ。