「ゲストの夢を守るため、訴訟は躊躇した」東京ディズニーランドのパワハラ訴訟開始 原告側は「会社に誠意が見られない」と怒り
訴えを起こしたのは、テーマパーク内のショーやパフォーマンス出演が職務の20代女性Aさんと、同じく30代の女性Bさん。Aさんは2015年2月、時給1100円の契約社員として、Bさんは2008年4月、時給1630円の契約社員として雇用された。
Aさんは着ぐるみを着用し、一回あたり30分~45分のショーや、来場客と記念撮影や握手をするグリーティングを一日数回行っていた。2016年12月の記録では、30分のグリーティングの後10分休憩し、すぐ別のグリーティングのために着ぐるみを着用するという繰り返しを7回行っていた。
東京ディズニーランドは立地上、強風や小雨の中で演技する日も多い。雨を吸って重くなった着ぐるみを着ての演技は通常時よりも負担が大きかった。女性は昨年8月、これらの職務により「胸郭出口症候群」を発症したとして船橋労働基準監督署に労災認定されている。
もう一人の原告である30代女性は、2013年1月、来場客から故意に右手薬指を反対側に折られ負傷し労災申請をしようとしていた時、所属グループの上司から労災申請への協力を拒絶された。「エンターなんだからそれ位我慢しなきゃ」「君は心が弱い」とも言われたという。
職場で喘息を打ち明けた際には「病気なのか、それなら死んじまえ」、「30歳以上のババアはいらない」などの言葉をかけられるなど、上司を含む従業員12人からパワハラを受けていたと主張している。
なのはなユニオンは2017年1月から計6回に渡り、休業補償の検討などを求め団体交渉してきた。昨年9月、12月、今年1月の交渉では、原告への謝罪や治療費の支払いのほか、演技と演技の間に30分ほどのクールダウンの時間を設けることや、復職プログラムの提示、業務の質量の改善、衣装の軽量化などの職場環境改善を求めた。
しかしオリエンタルランドは、労災認定は認めたものの、会社として安全配慮義務を怠ったわけではない主張したため、提訴に至ったという。
会社側には「使い捨ての意識があるのではないか」
会見で原告の2人は、裁判に臨む心境を述べた。Aさんは「職業病と認められても働き方は変わっていない。守秘義務として、労災と認定されるまでは医師に業務内容を話すことも止められていた」と言う。
「私は現場に戻ることは難しいと思う。それでも、皆さんに愛され求められる業務が、少しでも長く働き続けられる環境に変わることが願い。声を上げることが、現場で良くしてくれた方々への恩返しになると信じたい」
Bさんも、「ゲストを楽しませることが自分にとって1番大切で、ゲストの夢を守るため、裁判を起こすことを本当に躊躇した」と涙ながらに語る。「病気なのか、それなら死んじまえ」「30歳以上のババアはやめちまえ」などの発言は特に辛かったと言う。「ゲストが第一なので、自分さえ我慢していれば、ゲストの夢を壊さないっていう気持ちだけでやってきた」とも明かした。
会社側の対応には不信感を募らせる。Aさんは、「団体交渉の時に話している内容から何も変わっていない。半年以上経っても現場は変わっていないということ。正直、使い捨ての意識があるのではないかと思う」と語る。
弁護団も、オリエンタルランド側の対応に疑問を感じている。原告の元には裁判の直前、同社から書面が届いたという。内容は「従業員である以上、会社の従業員心得に従わなければいけない。業務内容など詳細なことを話すと身分に影響すると言わんばかり」だった。弁護士らは、こうした書面の内容は「非常に異常な事態」だと指摘する。
「本来であれば、意見陳述の内容をみなさんに広く配布することも考えていた。しかし会社側のこれまでの姿勢を見ていると、それが新たな紛争になりかねず、原告も非常に悩んでいる」
オリエンタルランドは、Aさんについては安全配慮義務違反と胸郭出口症候群の発症の因果関係関を原告が明らかにするよう求めている。Bさんについては、原告が持っている客観的資料を見てから判断するとして、両者について、争いの認否を保留している。