安孫子氏によれば、顕著なのがエレベーター問題で、「エレベーターはまさに『密閉』条件を満たした空間です」という。
「その状態を防ぐために一度に乗れる人数を制限し、感染拡大を抑止しようとするケースがあります。たくさんの人が住むタワマンで乗車人数制限を設ければ、時間帯によっては住民がエレベーター待ちをしなければならなくなります。数十分待ちということもざらにあります」
5階建てくらいであれば階段を使う選択ができるが、40階建てのタワマンで上層階に住む人が階段を利用するのは現実的ではない。外出の度に数十分に及ぶエレベーター待ちをするのは苦痛でしかない。
快適さを求めてタワマンを購入した人からすれば、一日に何度も時間のロスを強いられる生活は耐えがたい。加えて、一部の企業では社員のテレワークを推進していることから、通勤の頻度を落として生活している人もいる。
そうした働き方で、さらに所得が高い人であれば、よりよい住環境を求めて転居する可能性もある。
豊洲高級タワマン民「オリンピックが開催で、賃料が上がることになりましたが……」
東京都心には多くのタワーマンション群があり、エレベーター問題は共通の悩みだ。しかし我孫子市は、「新型コロナによる影響を特に受けているのは勝どき、月島等いわゆる『湾岸エリア』に当たる場所ではないか」と分析する。
大きな理由は、東京オリンピックだ。中央区晴海には広大な選手村が設けられ、オリンピックの重要な拠点となっている。そのため、湾岸エリアでは物件価格が上昇しており、既存タワーマンションでは賃料が引き上げられたケースもある。
江東区豊洲の高級タワーマンションに住む40代男性は、
「オリンピックが開催されるとのことで、賃料が上がることになりました。久々の東京開催ですし、仕方がないかなと思っていたのですが、コロナで開催が1年延期になってしまった。今も賃料が上がったままだし、どうなるのかな……」
と心境を吐露している。
また中央区で懸念されているのが、「HARUMI FLAG」(晴海フラッグ)」だ。選手村跡地に分譲4145戸、賃貸1487戸の新築住宅を建設するという計画だ。当初の入居開始時期は2023年3月だったが、オリンピック開催が1年延期になっているため、引き渡しのスケジュールには当然ながら影響があるはずだ。既に契約を結んだ人からすれば、不安でしかない。
東京都を中心に新型コロナウイルスへの感染者数が増加している中、このまま1年の延期で開催できる保証はない。万が一「中止」となれば、選手村の跡地というブランドがなくなるため、HARUMI FLAGのコンセプトは根底から揺らぐことになる。
五輪開催の事実がなければ、価値が下がってしまうおそれも
選手村が設けられている晴海や、オリンピックで多くの競技会場となる有明などは、決してアクセスが良い場所とは言えない。湾岸エリアのタワーマンションは、「オリンピック・パラリンピック」を価値としてとらえて賃料や物件価格が上がっていた。
しかし、「オリンピックが中止され、『選手が利用した』『競技が行われた』といった事実がなくなってしまえば、土地や物件の価値が落ちるのは避けられません」という。さらに安孫子氏が懸念するのは、その先に待つ「賃料下落」や「物件価格の下落」だ。
「新型コロナウイルスによって生き方を見直し、東京から郊外に引っ越すという選択を選ぶ人も出ている現状を考えると、湾岸エリアマイナスの影響を受ける可能性が高いと思っています」
と話した。もちろん、オリンピック中止は推測の域を出ない。今後どうなるかが注目される。