本書は、自分を変えるのではなく、周りの道具や環境を変えてみるという観点で、実際に著者が使っている商品名やおよその金額まで紹介されている。あくまで著者自身が使ってみて良かったものだが、筆者が大切にしている考え方にハッとする人も多いのではないだろうか。
「あなたの人生を良くするのは『努力』ではなく『設備投資』です。具体的なモノだけが、生活の苦痛を取り除いてくれます」
「発達障害者だって貧乏人だって、豊かで快適な生活をしていいに決まっています。あなたの中にある、『自分はダメな人間なんだから、ラクをしてはいけない』のようなある種の自罰感情をまずは捨て去りましょう。そして、あなたの能力を最大限発揮できる、ゆとりあるよい暮らしを手に入れましょう」
そこでまず紹介するのが食洗機(食器洗い乾燥機)。手を突っ込むのも嫌になるほど食器をシンクにためこむ人には、劇的にラクになる食洗機が必要だと説く。
続いて身体の健康を維持するマットレス、疲れない椅子、作業スペースの広い机、机周りの設備等が図解付きで紹介されている。すぐモノをなくす人には、財布や定期入れなどにタグを付けておくと、アラームで場所を教えてくれる「キーファインダー」がいいと薦めている。
発達障害の特性は人それぞれだが、これらは発達障害特有の困りごとがない人には、拍子抜けするく情報かもしれない。しかし当事者としては、「できないことはできない」と認めた上で、設備投資して気持ちも身体もラクになることが大切なのだ。
「10年後の心配より、1年以内の自殺リスクの方がよっぽど怖い」
本書の中で誰にでもあてはまる大事なハックは、「『頑張る』は惰性、『休む』は意志の賜物」という項目だろう。自身も休息を取らずに頑張り続けてしまいがちだというが、それで自殺した友人が何人もいるという著者は、こう綴っている。
「『10年後によくなりたいなら、今頑張れ』みたいな言い回しがあります。しかし、発達障害を抱え、長年精神を患ってきた僕の立場からいわせてもらえれば10年後の心配より、1年以内の自殺リスクの方がよっぽど怖いだろ、というのが正直な感想です」
「いついかなるときでも『休む』という判断は正しい。そして、その苦しい判断をしたあなたは頑張っています。どうか、忘れないでください」
スタートアップは腰が重いが一度集中し出すと食べることも寝ることも忘れて仕事に没頭してしまう発達障害の人にとっては、命に関わる重要な問題だ。有給休暇取得率が課題で過労死が後を絶たない日本人にとっても、忘れてはならない言葉のように思う。
あくまで生き延びるための工夫、参考程度の軽い気持ちで
そのほか、「ぶっこみ収納」で汚部屋から脱出せよ、「貯金0円」の発達障害者が100万貯める技術、「向いていない職種」を徹底的に避ける、など試してみたくなる方法や考え方が47項目並んでいる。ただ、著者はこれらを「正しいハック」などと思ってほしくないとして、あくまで生き延びるための工夫のひとつだと念押ししている。
多くのモノや方法論を紹介しているが、一番言いたいことは「自分を大切にする」ということではないだろうか。浮き沈みの多い人生を送ってきた「再起者」の著者だからこその説得力があった。参考程度の軽い気持ちでいい、当事者や発達障害グレーゾーンの人はもちろん、自尊感情が薄く生きづらさを感じている人にも読んでもらいたい一冊だ。