今回の水産庁の方針について、日本自然保護協会の担当者は「罰則強化には賛成」と理解を示す一方、
「今後4年間に駆け込みで密漁しようという人も出てくるのではないか」
と眉をひそめる。10月の消費増税前に日用品を買い占めた人たちのように、「罰金が引き上げられる前に、捕れるだけ捕ってしまいたいと考える人が出てくるのは自然なこと」というのだ。現行の罰則規定は各都道府県が「漁業調整規則」で定めている罰金10万円が上限。これでは密漁による儲けのほうが大きく、まったく抑止力になっていない。
水産庁担当者は「本当はもっと早く引き上げたいが……」と複雑
水産庁はキャリコネニュースの取材に対し、
「ネットの意見も拝見している。本当はもっと早く引き上げたいが……」
と吐露した。同庁管理調整課によると、これまでの「漁業調整規則」で定めていた密漁の罰則規定を「漁業法」の対象に変更するにあたり、各自治体が改めて健全な漁業者を見極めた上で、知事名で漁業許可を出す必要があるという。
多いところでは1県で3000人を超える登録者が見込まれており、対象となる約20の都府県でそれぞれ調整が必要なことから、自治体から同庁に対し「準備のために4年は待ってほしい」と強い要請があった。
同課の担当者は
「1県でも足並みが揃わなければ、白紙に戻る可能性もある。水産庁としても23年には確実に新しい罰則を適用できるよう、各自治体に働きかけていきたい」
としている。
科学的根拠に基づいた年間漁獲量の上限策定が必要
水産庁が8月に発表した調査結果では、2019年漁期(前年11~翌4月)に国内で捕れたシラスウナギは3.7トンにとどまり、統計を取り始めた03年以降で過去最低を記録した。同年以降、小刻みに増減を繰り返してはいるものの、長期的には減少する一方だ。
前出の日本自然保護協会は「ウナギの絶滅を防ぐためには、罰則強化だけでは不十分」と指摘する。罰則を強化することで23年以降の密漁抑止は期待できる一方、漁獲量を回復するための抜本的な解決策にはならないというのだ。同団体の担当者は
「改善のためには、科学的根拠に基づいた年間漁獲量の上限策定と、稚魚から養殖、流通に至るまでのトレーサビリティーを明らかにする試みが必要」
と指摘する。水産庁は現在も、養殖池に移す稚魚を指す「池入れ数量」の上限(2020年漁期は21.7トン)を定めているが、この上限は各漁協の捕獲量報告に基づいて毎年決められており、シラスウナギの生態学的根拠は反映されていないという。
同担当者は「絶滅を防ぐためには単純なトン数だけでなく、地域や時期、傾向などを踏まえて、より慎重に上限量を見定める必要がある」と強調する。また、熊本県の一部漁協では独自に上限を設定するなどしている。こうした例を踏まえながら、
「水産庁から全国の自治体、漁協に呼び掛けていく必要がある」
と力を込めていた。