インテージグループのCIOとIT・DX戦略統括室長に聞く「生成AI活用」の課題と可能性 本丸は「リサーチ業務のDX」 | キャリコネニュース
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インテージグループのCIOとIT・DX戦略統括室長に聞く「生成AI活用」の課題と可能性 本丸は「リサーチ業務のDX」

(左から)インテージホールディングスCIO 酒井和子さん、同執行役員 / IT・DX戦略統括室長 長崎貴裕さん、グローバルウェイ小山義一

(左から)インテージホールディングスCIO 酒井和子さん、同執行役員 / IT・DX戦略統括室長 長崎貴裕さん、グローバルウェイ小山義一

インテージグループは、1960年に社会調査研究所として創業。データを収集・加工・分析し、企業の意思決定に役立つ情報(インテリジェンス)として提供することを強みにしています。国内最大級の豊富なデータと業界をリードするデータハンドリング力などにより、データ活用の領域で成長を続けています。

2025年夏にIT・DX戦略統括室を設置し、生産性向上の取り組みを本格化する同グループは、どのような推進上の課題に直面しているのか。同グループCIOと IT・DX戦略統括室長 のお2人に、グローバルウェイ執行役員の小山義一がお話をうかがいました。(文・構成:キャリコネニュース編集部)

ITサービスの外販と内販をインテージテクノスフィアが担う

インテージホールディングス 上席執行役員 CIO(最高情報責任者) 酒井和子:1982年に社会調査研究所(当時)へ入社し、ITエンジニアとして活躍。人事部長などを経て、2023年9月より現職。同社ビジネスインテリジェンス事業担当、インテージテクノスフィア 取締役社長(代表取締役) を兼任。

インテージホールディングス 上席執行役員 CIO(最高情報責任者) 酒井和子:1982年に社会調査研究所(当時)へ入社し、ITエンジニアとして活躍。人事部長などを経て、2023年9月より現職。同社ビジネスインテリジェンス事業担当、インテージテクノスフィア 取締役社長(代表取締役) を兼任。

――御社の事業について、概要を教えていただけますか。

酒井 当グループは、1960年に日本で初めて本格的なパネル調査を行う社会調査研究所として設立されました。医薬品の市場調査を皮切りに、POSデータやインターネットを活用した消費財などの調査に領域を拡大し、2001年に社名をインテージに変更しました。

2013年に持株会社体制に移行し、インテージホールディングスのもと、消費財やサービス、ヘルスケア向けのマーケティング支援、それからグループ内外の企業にITサービスを提供するビジネスインテリジェンス(BI)事業を行っています。

このBI事業を行うためにグループのIT機能を結集して設立したのが、インテージテクノスフィアです。現在大きく3つのチームがあり、社外のお客様のDXを支援する外販チームと、いわゆる内販と呼ばれる事業会社インテージのパネル調査などの仕組みを構築するチーム、それからグループ全体のインフラ基盤を担う情報システムのチームがあります。

これまでお客様に対応してきたチームと、内部で技術的に伸ばしてきたチームとが合わさることで、お客様への提案もより良くなりましたし、グループ内のDX化も外部の影響も受けて改善しているので、バランスを取ってできているのかなと思います。

インテージグループの事業領域

インテージグループの事業領域

――酒井さんは現在、インテージホールディングスのCIOと、インテージテクノスフィアの代表を務めていらっしゃるのですね。

酒井 入社後にOA技術部に配属され、エンジニアとして主に社外のお客様にシステムを提供する仕事をしてきました。それから社内のマーケティングリサーチのリアルタイム集計の仕組みづくりに携わり、40歳のときに人事部長を2年間務めた後、社内の仕組みや情報システムに本格的に関わるようになりました。

現在はCIOとしてインテージグループ全体のIT戦略を担いながら、インテージテクノスフィアを率いる立場です。IT・DXの領域においては戦略と実行がリンクしている必要がありますので、当グループにおいてこの2つのポジションは実質的に同義だと考えています。

「堅いDX」と「柔らかいDX」の両面を推進

インテージホールディングス 執行役員 IT・DX戦略統括室長 長崎貴裕:1987年に社会調査研究所(当時)へ入社し、マーケティングリサーチ業務に従事。インターネット調査会社社長、NTTドコモとのデータ活用プロジェクト立ち上げなどを経て、2025年より現職。インテージテクノスフィア取締役、インテージ シニアフェローを兼任。

インテージホールディングス 執行役員 IT・DX戦略統括室長 長崎貴裕:1987年に社会調査研究所(当時)へ入社し、マーケティングリサーチ業務に従事。インターネット調査会社社長、NTTドコモとのデータ活用プロジェクト立ち上げなどを経て、2025年より現職。インテージテクノスフィア取締役、インテージ シニアフェローを兼任。

――グループのDX推進体制について教えていただけますか。

長崎 今期からホールディングスの下にIT・DX戦略統括室を設置し、私が室長を務めています。ITとDXの両方を名前に入れている理由は、攻めのDXとともに守りのITも重要と考えているためです。

IT・DX戦略統括室のミッションは「グループのIT・DX・セキュリティ戦略を統括しリードする」というもので、酒井CIOの下に4つの機能を備え、グループ各社から兼任メンバーや関連部署が集まっています。

機能の1つ目は「戦略統括中枢」で、グループとしてIT・DXをどのように進めていくかの道筋を決めています。ここで決められた戦略に基づき、「業務改革」「情報セキュリティ」と、以前から推進している「現行システムリプレース」の3つのプロジェクトを設けています。

なお、「業務改革」はリサーチビジネスの改革を中核ターゲットとし、マーケティングリサーチの関連部署がメンバーとなっています。「現行システムリプレース」とは、主に販売管理や会計などの基幹システムの再構築に取り組んでいます。このほか実行部隊として、各社の情報システム担当部門とともに、インテージテクノスフィアが具体的なシステム導入や運用を担っています。

インテージホールディングスのIT・DX戦略統括室の体制

インテージホールディングスのIT・DX戦略統括室の体制

――中核ビジネスの業務改革からセキュリティまで、重点テーマを絞って体制が作られているのですね。

長崎 もうひとつの視点として、当グループのDXには大きく2つの軸があるということもできます。1つ目はいわゆる「堅いDX」で、基幹システムなど経営に関わる情報システムによる変革です。グループ各社にはそれぞれ仕組みがありますが、全体ではバラツキがあり古いシステムも多いので、統一・刷新することが課題です。

新しく導入するパッケージは基本的にはカスタマイズせず、業務プロセスを合わせていこうと考えています。パッケージは世の中の人たちの知恵を集めてできているので、その方が正解に近いのではないかという考えです。

ただ、単に「新しい仕組みに置き換えます」では意味がないので、業務時間が何%短縮されたか、コストがどれだけ削減されたか、といった成果を定量的に測ることを重視しています。現場としては従来のやり慣れたものを変えない方が楽ですが、数字に表れれば「やってよかった」と納得できるはずです。

「AIによる省力化」で生じたリソースをどう活かすか

――「堅いDX」があるということは「柔らかいDX」もあるのでしょうか。

長崎 「柔らかいDX」はAI活用です。すでに生成AIを使って業務を効率化する試みが社内のあちこちで始まっており、各社が自由に取り組んでいる段階です。現時点では活用の数を増やし、試行錯誤する時期だと考えています。

今後は個人のAI活用スキルを高めていくだけでなく、「堅いDX」と同様、会社として数値化できる効率化目標を決めて成果を測ることも必要です。ただし現実可能で妥当な目標水準をどのあたりに置くべきかは悩ましいところで、現在議論をしている最中です。

――生成AIの登場でDXの手法が広がり、目指す姿も大きく変わりました。

長崎 インテージグループのDXの本丸は、本業であるリサーチ業務がAIによってどう変わるかを考えることです。調査設定からデータ収集、集計、レポーティングに至るまで、AIの導入で大幅に自動化される作業がいくつも考えられます。

これまでのリサーチ業務は、仕事の担当範囲を狭くして分業し、専門性を高めて効率化する方向で進んできました。しかし生成AIを前提とした仕事のやり方を考えると、狭めた担当範囲を広げないと効果が上がらず、方向転換が必要になります。

人の育成も新たな課題です。これまでは難易度が50点、60点の仕事を経験しながら成長してきた人材が、AIの登場で仕事の機会を奪われ、初心者や中堅層が育ちにくくなるおそれがあるのではないか、と考えています。

聞き手・グローバルウェイ 執行役員 小山義一:大学卒業後、NTTソフトウェア(現NTTテクノクロス)へ入社し、PwCへの出向などを経験。2012年にグローバルウェイに入社。デロイトトーマツコンサルティングを経て、2020年に帰任。2025年4月より執行役員として経営企画室長およびITコンサルティング事業の責任者を担当。

聞き手・グローバルウェイ 執行役員 小山義一:大学卒業後、NTTソフトウェア(現NTTテクノクロス)へ入社し、PwCへの出向などを経験。2012年にグローバルウェイに入社。デロイトトーマツコンサルティングを経て、2020年に帰任。2025年4月より執行役員として経営企画室長およびITコンサルティング事業の責任者を担当。

――AIが80点の成果を自動的に出すようになると、それに手を加えて100点に引き上げられる人や、基準をさらに引き上げられる人しか残らなくなります。

長崎 尖った能力を持つトップリサーチャーは今後も必要ですが、初心者レベルの仕事は人間が行う必要がなくなり、AIに置き換わっていく可能性が高いです。ただし、AI活用によって実際にどのくらいの作業量が削減できるのか、予測が難しいという不確実性もあります。

酒井 経営的な立場から見ると、リサーチ業務プロセスの見直し、例えば一部はAIによる無人化といったような方向性を見出す必要があると考えています。AI時代になっても現状のすべての業務を人間が回し続けていく、というのは人材不足から考えても現実的ではありません。

人材不足をAIによって解消していくとともに、空いたリソースをさらにどう活かすかが重要になります。調査設計の進化や顧客との対話、新しい知見を引き出す役割にシフトする必要があります。

AIに任せる仕事が増えても、本来やらなければならない仕事はたくさん残っています。仕事のシフトを進めるには、新たな役割を果たすためのリスキリングが必要となり、教育や仕組みを整えることが経営陣の責務だと考えています。

データの活用をイメージした調査の基盤づくりができる強み

――最近は「AIで何でもできる」という期待も強いですが、実際には御社のようなマーケティングリサーチの領域ですと、例えばデータの質が課題になります。

酒井 データを利活用するためには、データの精度や鮮度が重要です。ビッグデータという言葉ができる前から、当グループは大量な購買データをいかに高速に処理するかという課題に挑み続け、試行錯誤を繰り返し、後にインテージテクノスフィアとなるチームがやり方を構築してきた歴史があります。それが外販を行う際の強みにもなっています。

パネル調査を購入してくださるお客様の要求も高くなり、それに応えるためにはデータも増やさなければなりません。事業部門とシステム部門でより大量のデータを集め、より速く提供するために技術的に新しいものが出ればチャレンジする風土があります。

インテージテクノスフィアのビジョン「データに魂を吹き込み、世の中を感動させる」

インテージテクノスフィアのビジョン「データに魂を吹き込み、世の中を感動させる」

――大手のシステム会社やベンダーでも、大量のデータを分析可能な形に整えていく工程は、必ずしも得意としていない領域です。仕様の決まったシステムの構築や安定した運用は得意でも、データから価値を引き出すことは苦手な場合が多いです。

酒井 大手のSIerさんは、システムをしっかり作るのは得意だけれども、大量のデータをさまざまな角度で分析して仮説を立案する仕組みを作るのは、あまり得意ではない。従来のベンダーさんに不満な企業から、当社にお声がけいただいていることも増えています。

私たちは当たり前にやってきたことですが、活用をイメージした調査の設計や分析を行う基盤づくりや、データの加工や活用の経験が豊富な社員が多いのも、リサーチの仕組みを作ってきた長年の歴史と豊富な経験があるからで、他社と比べるとそういった基礎作業が自然にこなせるのは強みだと思います。

――大量のデータに意味を持たせるためには、独自の切り口が必要になります。

酒井 データは眺めているだけでは無機質な存在でしかありません。データからどう意味づけをして、サービスや価値へと昇華させるかが重要です。単なる集計結果ではなく、そこに人の動きや社会の流れを掴もうとする意志を込めるというのが私たちの立場です。

なお、インテージテクノスフィアでは「データに魂を吹き込み、世の中を感動させる」というビジョンを掲げ、浸透する活動も行っています。これは現場のメンバーが言葉を出し合って作ったものですが、顧客やサービスを広く定義をしており、私も気に入っています。

AIエージェントの提案を検証する仕組みが必要になる?

――人間の購買行動に、AIが関与する場面は今後増えていく可能性があります。例えばユーザーは、自分で情報を検索して比較検討するのではなく、AIエージェントが最適と判断した商品をなにも考えずに購入するようになるかもしれません。

酒井 購買行動や意思決定のプロセスそのものにAIが入り込む変化は、すでに起き始めています。ただ、AIは便利である一方で、ときには「最適であるとは言えないもの」を出すこともありますが、現状その検証を実施する手段があまりありません。さらにはAIがどういうロジックで判断したのかを検証し、理解する必要が出てきます。

いまの私たちは自らの経験に基づき、AIの出した結果がおかしいのではないかと疑うことができますが、今後はAIの提案を鵜呑みにしてしまう「AIネイティブ」が増えるかもしれません。だからこそ、AIの妥当性を検証する仕組みが今後ますます重要になってくると思います。

「人の行動や意識を長期的に追跡する仕組みの価値は増していく」

「人の行動や意識を長期的に追跡する仕組みの価値は増していく」

長崎 私たちの役割としては、AIエージェント側にデータやサジェストを提供する一方で、個人の側のパーソナルAIに対しても「それは無理やり勧められているだけではないか?」といった判断材料を提供することも考えられます。

そのときに重要なのは、何が売れたかを測定し続け、こういうことをやるとこういう現象が起こるという構造を理解し、新たなマーケティングにつなげていくことです。AIが普及すればするほど、当社がこれまで行ってきた、人の行動や意識を長期的に追跡する仕組みの価値は増していくと考えています。

――企業のマーケティング活動においても、AIの活用は進みそうです。

長崎 そうはいっても、生成AIが出してきた施策を企業が信じて、そのまま実行するかというと、それはできないと思うんですよね。やはり仮説の裏付けとなるリサーチが必要となり、当社の調査の重要性は変わらないと思います。

日々のマーケティング活動に使える仕組みを提供したい

――現在御社ではどのような人材を求めているのでしょうか。

酒井 いちばん求めているのは、プリセールスができるような人材です。ITの知識と顧客提案力を兼ね備えて、リサーチもシステムも分かる人材ですね。でも、なかなかそんな「スーパーマン」みたいな人はいません(笑)。

なので、業界知識がある人やITに特化した人を採用し、育成をして組み合わせて「スーパーマン」的なチームを作る取り組みをしています。しかしマーケティングリサーチとシステムというのは、意外なことに割と遠いんですよね。

――答えがあるものをちゃんと作る仕事と、答えを探求する仕事では、大きく違います。

酒井 それをつなぐのは、いわゆるデータサイエンティストのような人ではないかと考えているのですが、AIの発達によって仕事が置き換わっていくと、そういう人の育成が難しくなっていきそうです。いずれにしろ新しいスキルセットを持つ人材が重要になっていくと思います。

「Data+Technology企業」として成長を続けることを目指す中期経営計画

「Data+Technology企業」として成長を続けることを目指す中期経営計画

――個別のコンサルティングではなく、やはり大きな仕組みを回していく形でビジネスにしていくということですね。

酒井 確かに、1人月で何百万円も稼げる社員を増やすやり方もありますが、その場合にはシステムはあまり必要とされません。私たちが挑戦しているのは、日々のマーケティング活動に使えるサービスをどれだけ仕組み化して提供できるか、ということです。

優れた技術があっても、日々使われるものでないと価値を生みませんし、多くの方たちが使うものを提供しないと成果や成長にはつながりません。当社としては、そのような姿のビジネス開発に協力してくれる人材を募集しています。

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