東大卒・起業家が語る「仕事の原動力」―“やっぱり承認欲求が満たされたらうれしい”
—— Fringe81 にジョインする前は英単語アプリ『mikan』を展開する株式会社 mikan で CTO をされていたそうですが、mikan に参画した背景を教えてください。
当時、東京大学で AI 関連の研究をしていました。そこで宇佐美という同級生に出会い、「面白いアイデアがあるんだけど一緒にやらない?」と誘われたことがきっかけです。 そのときはビジネスがどれくらいスケールするかは全く想像できなかったし、起業して大きく稼ごうなんて思っていませんでした。ただ、何かをつくってユーザーからフィードバックをもらう経験はなかったので興味があったんです。それで二つ返事で引き受けました。
やると決めてからはとにかく夢中で。僕が住んでいたワンルームの部屋で毎日のように合宿をして、1 ヶ月半くらいかけて『mikan』の β 版をつくりました。TechCrunch で広報したり、『mikan』を使って単語を覚えてもらう合宿を宇佐美が開催してくれたおかげで初速はすごくよかったんです。結果、『mikan』はローンチ 2 週間で 20 万ダウンロードを突破しました。ユーザーの声をプロダクトに反映していったらどんどんレビューも改善されて、「こんなにユーザーと近いものづくりができる時代なんだな」って思いましたね。それがプロダクトづくりに目覚めたきっかけです。
—— 順調だったのになぜ mikan を辞めて Fringe81 にジョインしたのでしょうか?
mikan では CTO という肩書きだったのですが、学生なのでレベルが知れているんですよね。セキュリティに対する認識は甘いし、美しく、堅牢で、改善しやすいコードも書けなかった。mikan でバリューを発揮し続ける自信がなかったんです。当時のメンバーとはいまでも仲がいいんですけど、もっと上手くプロダクトをつくる方法を知りたかった。
そんな中、Fringe81 の環境は僕にとってちょうどよかったんです。 例えば、面接の過程でエンジニア全員とお話する機会があったんですけど、みなさんとにかくオタクなんですね。僕はどちらかというと「プロダクトが最低限動いてユーザーエクスペリエンスが高ければ問題ないだろう」という考えだったんですけど、Fringe81 のエンジニアたちは違います。 「このコードはどういう成り立ちをしているのか」ということをつき詰めて考えている。
つまり、一人ひとりが基礎から応用をつくり出せて、どんな技術に興味があるかや思想を語ることもできる。それで「自分にはないプロダクトづくりやエンジニアリングについて学べるに違いない」と思ってここへの入社を決めました。
「銀の弾丸はない」エンジニアでありながらセールスも担当。自ら未知なるものを開拓し型化してきた
—— Fringe81 に入社されてから、働く仲間同士で日ごろの成果や行動を賞賛し少額の成果給を送りあえる Unipos をゼロから事業化して推進してきたと思うのですが、どんな困難がありましたか?
お客様にベネフィットを理解してもらうことに苦労しました。Unipos ってエビデンスを集めて「定量成果がこれだけ伸びました」と伝えても、疑われる性質のサービスなんです。ありがとうと言われる人が増えて従業員同士のエンゲージメントが高まることはいいことなのですが、「で?」と言われやすい。
つまり「メリットはわかるけど、ベネフィットがわからない」と思われがちなんですね。 普通はビジネスの価値検証から始めて、「これぐらい踏めばこれぐらい広げられる」という算段がついてから事業を立ち上げることが多いと思うのですが、Unipos の場合はそこの判断が難しかった。類似サービスの研究や壁打ちは散々しましたけど、けなされることも多かったですし。「いけるかわからないけど、いったれ!」くらいの気持ちだったんです。
—— そんな中、どうやってお客様にベネフィットを伝えていったのでしょうか?
自社での成果をお伝えしました。Unipos はもともと自社制度からスタートしたプロダクトなんです。「定量成果だけでなく、他の貢献にも目を向けよう」という方針から Fringe81 では周囲のメンバーに「こんなところがよかったよ。ありがとう」とコメントを紙に書いて投票する「発見大賞」という制度を 6 年前から導入しています。
この「発見大賞」を導入してから Fringe81 ではエンジニアの離職率が数年間 0 になったんですよ。これってエンジニアの貢献にビジネスサイドが目を向けた結果だし、エンジニアもビジネスサイドを信頼し続けた結果ですよね。この話をしたうえで「こんな組織よくないですか?」と聞くと、みなさん「Yes」と答えます。「デメリットは限りなくないサービスなので、メリットをどうベネフィットに変えるかはみなさん次第です」とお伝えしてきました。
—— 最初は斉藤さんお一人でセールスをされていたのでしょうか?
はい、一人でした。それがすごく大変で、銀の弾丸などなかった。もともと僕は開発側の人間でしたが、いざ Unipos の α 版ができて「誰が売るの?」となったときに、周りを見渡したら誰もいなくて。僕が一人でセールスをやらざるを得ない状況だったんです。 セールスではまず自分たちのことを見つめ直して、「なんで離職率がゼロになったんだろう」というのを言語化して、そのことを語って共感していただけるお客様に「まずはやってみてほしい」という、ほぼお願いに近い形で提案していきました。
そうするうちに「入れてみるまで価値がわからなかったけど Unipos すごいね」という声が集まってきて。次第に勝ちパターンが見えてきたので、それを型化してセールスチームを組成して引き渡していきました。 PR やインサイドセールス、カスタマーサクセスも同様です。
いわゆる守破離だと思うんですけど、鉄板パターンを知ったうえで自分たちに不足していることを洗い出し、その中でも Unipos にフィットする方法を見つける。そして、それを実現するためにはどうすればいいかを考え選択し続けてきました。社内で誰もできないことは僕が切り開いてまずは型をつくる。そして誰かに渡して洗練させていく。この積み重ねでいまようやく Unipos は 40 人の組織になりました。
toB の SaaS では鉄板である「無料お試し」をあえて選択しなかった
—— Unipos 事業を推進していくうえで難しい意思決定に迫られたことはありますか?
「無料お試し」をやるかやらないかは正直いまでも悩んでいます。toB の SaaS って、まずは無料で提供してサービスのよさを知ってもらってから有料化するものが多いと思うんですね。でも、Unipos では強いこだわりがあって「無料お試し」をやらない意思決定をしました。
なぜかというと、使う人たちに正しい体験を届けないと Unipos の価値が伝わらないからです。Unipos のユーザー体験は従業員さんに感謝の気持ちが送られて、それが賃金に紐づくこと。恥ずかしいから感謝の気持ちって普段は伝えづらいんですけど、Unipos で感謝の気持ちを伝えると 100 円、200 円が相手に送られるので受け取った人は喜んでくれる。それが言い訳になって、送る方も気軽に感謝のコメントを送れるんですね。
ポイントだけ送られてきて賃金が紐づかないとこの体験の素晴らしさは理解できない。 Unipos では「すべての働く人にスポットライトを」というミッションを掲げていて、何を目指して何を目指さないかを明確にしています。いまでも「無料で試させてよ」と言われることもありますが、僕の意思ではなくプロダクトの思想から「無料お試し」をやらないことを決めているので、先ほどの説明をすれば多くのクライアントは納得してくれます。
—— なぜタフな意思決定ができたのでしょうか?
いまでこそプロダクトの料金をむやみに値下げしないようにしていますが、以前の僕は青くさくて。「採算度外視でプロダクトを広めて、いろんな人に使ってもらってフィードバックを受けた方がいい」という考え方だったんです。 mikan も最初は無料で広めてからマネタイズしようとしていました。でも、ある人から「それは正しいかもしれない。でもプロダクトの品位を落として次の投資ができなくなることにつながる。結果、お客様を不幸にするよ」と言われて、価値観が変わったんです。
原動力は承認欲求「仮説でつくったものがユーザーに届いたときが一番嬉しい」
—— 斉藤さんは Fringe81 のイデオロギーである「Be an Explorer」を体現しているように思ったのですが、ご自身ではどう感じているのでしょうか?
「Explorer」っていろんな解釈ができると思うんですけど、僕の中では「飽き性」だと思っています。例えば、僕は同じことをやり続けることをつまらないと感じてしまう。できないことをできるようになることを楽しいと思うタイプなんです。それが他の誰にもできないことだとより楽しいし、人のためになるものだったらもっと楽しいですよね。そういう意味で僕は「Explorer」としての素養を持っていたのかもしれません。
—— 最後に何が斉藤さんの原動力になっているか教えてください。
褒められることです。やっぱり承認欲求が満たされたら嬉しいじゃないですか。じつは僕、toC のサービスが好きで。Unipos も toB の皮をかぶった toC のプロダクトなんです。だから、ユーザーの反応がわかりやすくて。たまに Twitter で「Unipos もらって嬉しかった」とつぶやいている人がいるんですけど、それを見たときが一番嬉しいんですよ。
「こんなサービスあったら、みんなが幸せになってくれるんじゃないか」と仮説でつくったものが個人に届いたときほど喜びを感じることはないですね。それがプロダクトをつくる意義だと思いますし、僕の原動力になっています。 これは Unipos のミッションである「すべての働く人にスポットライトを」にもつながりますが、これからは組織よりも個人にスポットが当たる時代です。しかしながら、組織には承認欲求が満たされていない人も少なくない。Unipos を通じて優秀なのに評価されない人も当たり前のように賞賛される文化をつくっていきたいと思います。
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