大企業と並行して「優良な中小企業」を先に受けるべき理由 学生の不安が「就職難」を増幅する
リクルートワークス研究所の調査によると、2021年3月卒の新卒求人倍率は1.53倍を維持しています。前年の1.83倍からは下がっていますが、就活生の数を一定とするなら求人数が8割強程度に減っただけ、ともいえます。
10月19日付け日経新聞にも、主要企業1036社の内定者数は前年比11.4%減というそれらしい数字が出ています。要は前年の約9割は採用したわけです。そもそも1倍を遥かに超えていますし、就職氷河期やリーマンショック後の底の水準から見ると、「ゆるい買い手市場」と表現するぐらいがちょうどよいのではないかと思います。
その一方で、マスコミ報道や周囲の心配の声などからか、学生の不安感はとても大きいと感じています。私も学生と接する機会は多く、生声を聞くと「自分はちゃんと就職できるのだろうか?」と不安がっている人は大変多いです。それはどういう理由なのでしょうか。(人材研究所代表・曽和利光)
応募が激増しても、辞退も激増する可能性
この背景には、学生の就職活動量の増加があります。リクルート就職みらい研究所の調査によると、コロナ前の学生は、会社説明会への出席やエントリーシートの提出が1年間で約13社、適性検査や面接などの選考が約8社というレベルでした。
しかし、リーマンショック後付近には、学生は大体20~30社程度の会社を受けていました。その状況が再来するのではないかということです。
しかも採用がオンライン化したことで、より受験がしやすくなっています。実際、インターンシップの応募や通年採用をしている会社の応募状況を聞いていると、今年はここ数年の2~3倍の応募があったようです。
「売り手市場」に苦しんでいた企業採用担当者にはうれしい悲鳴ですが、注意しなければならないのは学生の絶対数が増えたわけではなく、2倍応募があったからといって人が2倍採れるわけではないということです。
つまり、学生が行ける会社は1社だけなので、応募は激増しても、辞退も激増する可能性が高い。応募の増加で面接などにかかるマンパワーも増えるのに、企業は大変です。
実践的な対策は「優良中小企業を狙う」こと
この状態は学生にとっても、あまりよいものではありません。1人1社しか行けないのに、不安感からたくさん受験をするため、各社の競争倍率は軒並み上がります。特に大手企業や人気企業は売り手市場でも100倍超が珍しくなかったのに、今年からは数百倍となってもおかしくない状況です。
学生が不安でたくさんの会社を受けるので、その不安が自己成就して競争倍率が上がってしまうというわけです。しかし、これはある意味どうしようもありません。自分だけ受けなくても競争倍率が上がることは間違いなく、となれば、たくさん受けないと受からないかもしれないからです。
では、どうすればよいのか。私はお勧めするのは、難化する大企業だけではなく、優良な中小企業を狙って受験をすることです。
合格率が1%にも満たない企業ばかり受けても、多くの学生は1社も受からない可能性が大。同じ活動量を増やすのであれば、大企業や有名企業は選別して受け、残ったパワーを優良な中小企業に向けるべきということです。
ここではその探し方について深堀りしませんが、経済ニュースを見たり、OBOGやキャリアセンター、ゼミの先生などいろいろなオトナに聞いたりすれば、優良中小企業は日本にはいくらでもあります。
「大企業が終わってから」では遅い
ポイントは、多くの学生がしてしまう「大企業の就活が終わってから中小企業に」というスタイルを止めることです。
優良な中小企業は採用数も少ないので、結果そこそこの人気企業となっており、大企業ほどではないにしても、就職活動の初期に採用を完了してしまうところが少なくありません。
大企業が終わってから探しても、狙い目の会社はすでに採用活動を終えていて、残っている中小企業は「人が採れなかった」企業ばかりです。
もちろんそれらの企業にも良い企業はありますが、採れないのは採れない理由があるわけで、その中から自分にとって魅力ある企業を見つけるのは容易ではないでしょう。ですから「大企業と並行して優良な中小企業を先に受ける」ことは、とても重要な行動なのです。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/