東京春闘共闘会議と東京地方労働組合評議会(東京地評)は12月16日、厚生労働省で記者会見を開き、都内で普通の生活を送るのに必要な金額を試算する「最低生計費試算調査」の結果を発表した。
調査は5~8月にアンケート形式で実施し、3238人から回答を得た。うち739人を占める子育て中の30~50代のデータを元に、東京都練馬区、八王子市のそれぞれに住む子どもが2人いる世帯を対象モデルとして試算した。
練馬区で子どもを”普通に”育てるためには、30代で月額54万円、40代で同62万円、50代で同80万円(いずれも税金・社会保険料込み)が必要になることが分かった。年収に換算すると、650~960万円が必要ということになる。
「家電は最低価格帯」「スーツは2~3着を着回し」でも……
「30代世帯」が練馬区に住む場合は、夫婦のほかに小学生、および私立幼稚園に通う幼児からなる4人家族を想定。42.5~45平方メートルの賃貸マンションまたはアパートで家賃9万5000円、一か月の食費は11万2000円(一食300円)で、夫の昼食のうち月の半分はコンビニ弁当、飲み会参加は月1回3500円と仮定した。
このほか、一律の想定としては、
・冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、掃除機などの家電は、量販店で最低価格帯のもの
・夫は約2万4000円のスーツ2~3着を着回し
などと設定し、「けっして贅沢な暮らしではなく、むしろ慎ましいと言える生活」(東京地評)と定義した。
「40代世帯」の場合は、年収約740万円が必要。想定モデルでは、子どもが成長して小学生と中学生になり、30代の時に約2万8000円だった教育費を約3万9000円に増額。食費も12万5000円に増えるほか、住居費についても47.5~50平方メートルの3DKを想定し、家賃は10万3000円とした。
「50代世帯」の場合は、さらに子どもが成長して高校生(公立)と大学生(都内私立大)を想定し、教育費は1か月あたり約13万円に増える。食費は14万5000円、住居費は50~55平方メートルの3DKで家賃11万円をそれぞれ計上している。
「新型コロナウイルスの影響で賃金引下げの圧力が強まっています」」
同調査では、八王子市在住のケースでも試算。30代で月額49万円、40代で同57万円、50代で同74万円(いずれも税金・社会保険料込み)が必要で、年収に換算すると、それぞれ590、690、890万円と練馬区と比較して50~70万円ほど低く収まっている。
居住地による差が出たのは、主に住居費と交通費。八王子市では、30代世代で6万円、40代世帯で6万5000円、50代世帯で7万5000円といずれも練馬区より3万5000円ほど安かった。
一方、交通費は、職場・大学が新宿にあると仮定して算出した。練馬区モデルの30~40代世帯が1万4400円、大学生の子どもを含む50代世帯が1万9900円だったのに対し、八王子市モデルでは30~40代世帯が1万4000円、50代世帯が2万900円と1000円ほど高かった。
同評議会の担当者は、今回の調査結果を受けて「社会が崩れかねない状況」と懸念する。
「現状でも若者が最低賃金に近い給与しかもらえていないのに、新型コロナウイルスの影響で賃金引下げの圧力が強まっています」
夏に開かれた最低賃金の全国平均の目安を決める「中央最低賃金審議会」の小委員会では、例年引き上げが続いていたにもかかわらず、議論の中で”凍結”の言葉が出た。結局、目安を示すことを断念し、事実上の据え置きに落ち着いた。
「次の世代をつくるためには、ベースアップのほか、定期昇給、諸手当、ボーナス、雇用の安定が不足しています。それにもかかわらず、生計費から引かれる教育費、住居費、それから社会保険などの天引きが非常に大きい」
と話した上で「このままでは社会がもたなくなる」と危機感をあらわにした。
同調査は12月18日、ツイッターで「普通の生活」がトレンド入りするなど話題になった。担当者は「ネット上では『実際にはもっとお金がかかるのでは』という声もあります」と前置きした上で、
「今回のモデルは慎ましい生活を仮定したので、こうした反応があるのは当然だと思います。子どもが2人とも私立の可能性もありますし、世帯によってはよりお金のかかる可能性は十分考えられます」
と説明する。
今後については、最低賃金の全国一律1500円以上を求めるほか、同一労働同一賃金が守られるように企業、業界団体に訴えていくとしている。「法制化されたが、守っていない企業も多い。まずは運用状況を改善すべく、社会に働きかけていきたい」と力を込めた。