人気の「コンサル業界」で気を吐くアクセンチュア 入社5年で年収850万円
ハイキャリアを目指す人にとってあこがれの1つ、コンサルティング業界。世界120か国に展開するアクセンチュアは、2013年度の売上高が286億USドル。社員数も28万9000人にのぼり、世界トップレベルのコンサルティングファームと言えるだろう。
国内の社員数も5200人を数え、就活生の人気も高い。情報サイト「みんなの就職活動日記」の新卒就職人気企業ランキング(2015年度卒)では、コンサルティング業界部門で2位、総合でも93位にランクインしている。
ただ、コンサルティングといっても、その多くがB to Bビジネスのため、具体的な仕事や給与などの実態はあまり知られていない。そこで今回は、アクセンチュアに勤めるYさん(男性、20代後半)に同社の勤務実態や評価制度などについて聞いた。
「立場や年齢、性別に関係なく」発言できるカルチャー
Yさんは新卒で入社して5年の社員。主な仕事は、金融関係のITコンサルティングだ。コンサルというと、クライアントの経営者に華麗なプレゼンを行う「戦略コンサル」のイメージが強いが、Yさんの仕事はもっと泥臭いようだ。
「銀行や保険会社、証券会社などに、新しい勘定系システムの導入や古いシステムの入れ替えなどを提案しています。スケジュールや予算案の策定、システムの要件定義、実装のディレクションにいたるまで、すべてのかじ取りを行います」
プロジェクトの上流から下流まで、すべてに携わるのが「アクセンチュア流」だ。システムの実装にかかわるということは、現場の進行状況を把握し、滞っている場合にはリカバリーのための手配もしなければならない。プレゼンだけではとても終わらない仕事だ。
それでもYさんは「戦略系よりITコンサルの方が、プロジェクトをやり遂げたときの達成感も大きいですし、儲けも大きいんですよ」と笑う。社内で仕事を評価されるポイントは2つ。1つは、会議や交渉で「どれだけ的確な発言ができるか」が問われる。
「アクセンチュアには”Think Straight, Talk Straight”というカルチャーがあります。立場や年齢、性別に関係なく発言する権利が与えられており、どんどん発言して的を射た指摘や提案ができれば、入社1年目でも『あいつデキるな』と評価されます」
そしてもう1つは、担当するプロジェクトを”炎上”させないことだ。
「具体的には『このままいくと進捗に遅れが出るぞ』とか『追加開発で予算がカツカツだぞ』といったことを事前に察知し、上司にきちんと報告することです。いったんプロジェクトに火が着いてしまうと、ヘルプの人を投入したり残業したりして余計な人件費がかかりますからね。そこを防げる人は重宝されるでしょう」
アナリストの「給与相場」は? ボーナス出るの?
給与は年俸制で約850万円。毎月の給与は12分割された約70万円が支払われ、そのうち3万円が住宅手当だ。そこから社会保険や各種税金を差し引くと、およそ54万円が手取り金額ということになる。
毎月の支払給与はすべて社内システムを通じて告知されるので、紙の給与明細書は配布されない。家族手当や皆勤手当などの手厚い福利厚生制度はないが、それでも同年代の人と比べるとかなりの高給取りと言えるだろう。
個人の給与は、大きく5段階の職位によって決まる。Yさんによれば、それぞれの職位の年収は大きく以下のようになるという。
アナリスト:500万円~600万円+残業代、ボーナスなし
コンサルタント:500万円~900万円+残業代、ボーナスなし
マネージャー:800万円~1000万円(残業代込み)、別途ボーナス1か月分
シニアマネージャー:1200万円以上(残業代込み)、別途ボーナス1か月分
パートナー:役員報酬
さらにそれぞれの職位が、下からRI、BL、CW、AB、VTの5つのグレードに分かれており、同じコンサルタントでも、RIなら年収500万円、VTなら900万円と百万円単位で差がつくこともあるという。
また、アクセンチュア社内は、担当する産業分野(インダストリ)によって「パブリック(公共サービス)・医療」「金融サービス」「プロダクト(製造)・流通」「エネルギー・素材」「通信・メディア・ハイテク」の5部門に分かれている。
それぞれの部門内に数十のプロジェクトがあり、そのプロジェクトごとに、アナリストが○名、コンサルタントが○名、マネージャーが○名…とアサインされていくわけだ。
自分の昇進が「上司の力関係」で左右されることも
担当するインダストリは、本人の希望やこれまでの経験によって決定されるが、職位やグレードは、まずは直属の上司による評価で決まる。アナリストはコンサルタントに、コンサルタントはマネージャーに評価されるといった具合だ。
「昇進に関する評価は年2回。売り上げにどれだけ貢献したか、実際にどういう働きをしたか、その人が持っているスキルはどうか、などを踏まえて決めます。売り上げへの貢献度とは、『新規プロジェクトを獲得した』とか『プロジェクト内で重要な業務のディレクションを行った』などですね」
売り上げへの貢献度は、手掛けるプロジェクトの予算によっても評価が変わる。ちょっとした会計システムの追加改修もあれば、全国の銀行支店のPCを総入れ替えするような大規模プロジェクトもある。当然売り上げも変わってくるので、小さいプロジェクトばかり手掛けていると、昇進にプラスにならないこともある。
「1つのプロジェクトから顧客との信頼関係が生まれ、『この仕事もお願いするよ』と大きな案件につながることが多いですね。コンサルタントクラスの社員には特にそういった”顧客とのリレーション強化”が求められていて、それができなければ上司に評価されることは難しいです」
このように聞くと、同社の評価制度はかなり実力主義的な印象を受けるが、それでも「人が人を評価すること」のもどかしさは完全には拭えない。
評価会議は、部門内のプロジェクトごとにマネージャーやシニアマネージャーが集まり、自分の部下がいかに貢献したかを話しながら「うちの誰々を昇進させたい」とアピールする。しかし人件費には限りがあるので、上司たちが意見を戦わせることになる。
「マネージャーやシニアマネージャー同士でも、担当プロジェクトの大きさや入社年数などで発言力に差があります。また、どれくらい部下のために戦ってくれるかも異なります。説得力をもって部下を推薦できる上司や、部下のために戦ってくれる上司の下につけなかった場合には、昇進に苦労する可能性もあります」
新卒入社のメリット、中途採用のメリット
こうした上司との関係構築については、新卒プロパー組と中途入社組とで隠然とした差ができることがある。新卒プロパーは長く勤めている分、上司との人間関係が密になり、意思の疎通ができることが大きなメリットになるという。
クライアント向けの資料作成でも、短い文章で的確にまとめる資料が好きな上司もいれば、数値やグラフなどの情報量にこだわる上司もいる。こうした上司の好みは新卒プロパーの人のほうが理解しており、その結果、上司の覚えもよく自然と昇進にも有利になるのだ。
外資系企業というと、人間関係にドライで業績をデジタルに評価されるようなイメージがあるが、実際にはウェットな人間関係が占める部分もあるようだ。
一方、中途入社で入ってくる人は、新卒プロパーにはない「専門性」が武器になる。金融やITシステム、エネルギー関連などについての深い知識、実践的なノウハウがあれば、「現場をよく知るスペシャリスト」として活躍できるという。
実際、新卒社員と中途社員の比率は5対5から4対6程度というから、中途入社で出世できるチャンスは十分にありそうだ。ただ1つ、社内には雑用を引き受けてくれる一般職がいないことには注意が必要だ。コピー取りや会議室の予約などは、アナリストやコンサルタントなどプロジェクト内の一番下っ端の人がやることになっている。
「中途入社でいきなりマネージャーという人はめったにいないので、ある程度の社会人経験がある人も、入社当初は雑用をやらなければいけないんです。誰もが通る道なので、そこは慣れてもらうしかないですね」
「IT投資の回復」が追い風と期待
一般的にコンサルティング業界は激務と知られているが、その中でもアクセンチュアでは群を抜いて忙しいのではないかとYさんは語る。
「うちの会社は”やり過ぎくらいがちょうどいい”という雰囲気があって、契約内容プラスアルファまでやってしまえと育てられます。よくあるのは、お客さんがその上司に説明する用の資料まで無償で作成すること。別に余裕があるわけでもないのに(笑)。無論、お客さんの心をつかんで次の契約につなげるためなんですけどね」
当然、日々の業務も忙しい。プロジェクトにアサインされているときは、21時までに帰れるのは週に1~2日で、23時を超えて帰社することも当たり前だという。終電を逃してタクシー帰りすることも月に2~3回はあり、本当に忙しいときは土日出社もして、月に1日しか休めないこともあった。
「ただし、景気が悪いときに、アサインされるプロジェクトがないとか、プロジェクトとプロジェクトの間に半端な空き時間ができてしまうということもあります。そういう場合は、他のプロジェクトのヘルプに行くか、支社で会社の研修を受けたりします。このタイミングで連休を取って休む人が多いです」
しかし「有能な人」は、プロジェクトが終わってもすぐに次の案件で声がかかるので、休むひまもないこともある。特に男性社員は、女性社員より残業や休日出勤を強いられがちだ。
「仕事はきついですが、今現在の当社の景気はいいと思っています。特に金融サービス部門とプロダクト(製造)・流通部門は、リーマンショック以降冷え込んでいたIT投資が回復するといわれていて、人手を集めているところですね。これらの業界に深い知見を持っている人であれば、中途入社してスペシャリストとして活躍できると思いますよ」
仕事のきつさや独特の社風など、乗り越えなければならない壁はあるものの、ビッグプロジェクトをイチから手掛けられるやりがいもあるアクセンチュア。コンサルタントとしての経験を踏み出してみたい人には、刺激的な環境ではないだろうか。