カツカレーが一皿450円ナリ。銀座から歩いてすぐのエリアに、そんな値段で食べられる食堂を発見した。コロナ禍で財布はひもじいというのに、大手牛丼チェーンも値上げが相次ぎ、少しでも安く昼メシを求めて右往左往する人々が絶えないご時世に、ワンコインでお釣りが来るのは穴場すぎるのでは?(取材・文=昼間 たかし)
案内もなくひっそりと佇む食堂
その食堂があったのは中央区の区役所本庁舎の中。メトロ有楽町線の新富町駅からすぐのところにそびえる茶色の建物だ。1969年に竣工したビルは、いまでは懐かしさすら感じる年季の入った、いかにも役所という雰囲気だ。
そんな建物に入ると、住民票を求める区民らで混雑している1階には食堂「グリル」の案内があった。でも、今回目指すのは、そこではない。
区役所の案内図を見ると、最上階の11階にひっそりと「職員食堂」の文字が刻まれていた。店名もないらしい。最上階というと、どこか煌びやかな雰囲気を想像するがエレベーターを降りても目に飛び込んでくるのは役所然とした光景だけ。それも、区民が各種の手続きに訪れる下のほうの階と違って、照明は薄暗く人気も少ない。
本当に、こんなところに食堂があるのか。廊下を歩くと、その先には確かに食堂があった。看板はないが、白地に黒でナイフとフォークの図柄が書かれている。
入口のところには、メニュー見本のディスプレイと券売機が鎮座していた。1階の「グリル」がコーヒーやクリームソーダなどの見本をディスプレイいっぱいにならべているのに比べると、こちらのメニューはちと寂しい。
券売機も40個あるボタンのうちメニューが書かれているのは13個だけ。訪れたのは12時半頃だったのだが、既にレギュラーランチとラーメンは売り切れだった。
しかし、とにかくどのメニューも安い。もっとも高いメニューのバリューランチでも660円だ。カツカレーは確かに450円。カツを載せなければカレーは340円である。カツカレーに40円の味噌汁をつけても、まだ500円玉でお釣りが来る。
中はセルフサービスの学食スタイルで、お盆を持ってカウンターのところで食券を渡す。注文したメニューが出てくるのを待つ間に、冷水機でコップに水をくんでスプーンや箸を用意する。
待つこと1分余り。お盆にカツカレーを載せてもらい、後ろのテーブルに調味料と一緒に並べられた福神漬けを盛って、席に着いた。
見回しても、ほぼ100%役所の人以外の姿は見当たらない。区役所は裏手が区立京橋図書館になっているので、区民はよく利用する建物なのだが、図書館に来たついでに食事をする人も1階ですませてしまうのだろうか。
さて、銀座近辺で450円のカツカレー。ノーマルなカレーとの値段差は110円。110円分のカツは想像以上に存在感がある。極めて薄いことは確かだが、確かに切り分けられたカツがある。そして、たっぷりとかけられたルーには肉と野菜もふんだんに入っていることが目で見てわかる。
肝心の味が心配になるが、これがまったく申し分ない。むしろ、これで450円で出してよいのかという味である。平凡だけども優しく、午後からの仕事の活力を得るために流し込むように食べるメニューとして最適化されている。
なにより安さの与えてくれる満足感は大きい。1階のカツカレーは660円である。こちらも十分に安い金額なのだが、450円に比べると得られる満足感は少ないだろう。
各種チェーンでも安くカレーを提供しようと努力はしていると思う。でも、さすがに450円には至らない。主要チェーンの価格を記してみよう。
CoCo壱番屋 ロースカツカレー:809円
かつや カツカレー(梅):715円
C&Cカレー 三元豚ロースかつカレー:690円
松のや ロースかつカレー 650円
「職員食堂」であるから、本来は区役所の職員の福利厚生目的のため値段を抑えているのだろうが、それにしても450円でカツカレーを出すというのは驚異的である。
惜しむらくは営業時間が11時30分から13時40分までと極めて限られていることだろうか。もしも、平日この時間帯に近辺に用事があるならば、昼飯はここ一択だ。