『どうする家康』 大河ファンの期待をことごとく裏切る展開にもはや困惑しかない
今年の大河ドラマ『どうする家康』について、放映スタートからこちらでも何本か駄文を投稿している。第1話の時点ではかなり面白く感じていたんだけど……その後ポツポツ思うところも多くなり、なんとなく5月の頭ぐらいには「これは大河と思って観ないほうがいい。大河ではない別枠のドラマと思うことにしよう」と考えるようになっていた。
というのも、従来の大河でいうところの、絶対外せない要素や描写の何割かが、かなりあっさり描かれたり、そもそもシーン自体が存在しないということが多いからである。
さらには突然新キャラが登場したかと思うと、登場人物たちはその新キャラと既に顔見知りであったりして「あれ? こっちが忘れてるだけ?」なんて思う展開が少なくない。
もっといえば視聴者置いてけぼりの全く新しい展開の回想シーンがよりどりみどりで、時系列に沿って描かれていることが多かった従来の大河とは、楽しみ方にちょっと違いが出ている。これまでの大河に慣れ親しんできたファンこそ、観賞するのにコツがいるといった案外なのだ。
それも本作の味なんだと思い込んで、少し前もコラムでそういう旨の話をしてきた次第である。だけど、それからさらに2週間ほど経過して一つの結論に至った。「この見解では楽しめない」という結論に。(文:松本ミゾレ)
武田信玄の死より、浅井長政の死より、描きたかったモノがこれ?
5月21日には第19話「お手付きしてどうする!」という回が放映されていたんだけど、前回「真三方ヶ原の戦い」で大敗を喫した徳川軍は依然窮地に追い込まれている状況。そんな折に家康(演:松本潤)はお万(演:松井玲奈)という侍女と懇意になる。
このお万は家康の風呂の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる女性かつ、ゴリゴリのゆるふわ天然を装った肉食系女子。「家康さまを見ていると、万は胸がどきどきどきどきします」と打ち明け、家康もこのお万の魅力にほだされてか、本話では何回か似たような浴室シーンがねっとり演出され、結果としてお万は妊娠してしまう。
これに怒った正室の瀬名(演:有村架純)とお万の高度な女同士の腹の探り合いが展開されるというものであった。ところがこの回では終盤、家康を追い詰めた武田信玄(演:阿部寛)が命を落とすシーンも描かれていた。息子である勝頼(演:眞栄田郷敦)に遺言を伝えて命が尽きてしまうのだ。
史実どおり、甲斐に戻る途中で死んでしまうわけなので、それはいいんだけど山県、穴山といった古参の家臣が同じシーンにいるのにセリフなし。なんかもったいないなぁと思ってしまった。記号じゃないんだから、生かしてほしいなぁ。登場人物を。そこにいるんだし。
また、かねてより信長と対峙していた浅井長政(演:大貫勇輔)に至っては、初登場した時点では家康とも今後何かと懇意になっていくんだろう……と思わせる描写もあったのに、まさかの再登場なし。自害シーンもなし。いつの間にか信長に敗れて、既に死んだことになっている。
信玄と長政って、そこらへんの土豪とかじゃなくてれっきとした有名武将なのにこの扱いって結構もったいないと思ってしまったのは僕だけではないはずだ。それらの重要人物を差し置いて、結城秀康の母親、お万とのなれそめをがっつり描く方向に舵取りをする回だったので、かなり困惑してしまった。
視聴者だけまだ知らないけど登場人物とは顔見知りの新キャラ!
そして5月28日には「岡崎クーデター」という回が放映された。徳川に与する大岡弥四郎(演:毎熊克哉)が武田方に寝返ってしまうという話。そしてこの弥四郎もまた、今回が初登場なのである。
それなのに今までと同じく、徳川家臣団はまたぞろ「あの弥四郎が!?」みたいなことをいうから、僕みたいな大河ファンはいちいち公式サイトの登場人物相関図に飛んで、見落としがないか確認を強いられる。
その上で「どうやら今回が初登場だそうだ」と理解して視聴を続ける羽目になるんだけど、こういう手間を強いられる大河ってここ数年なかったので新鮮だ(嫌味です)。
突然やってくる、家臣団とは旧知の仲の新キャラ。突然挿入されることが多い、これまで描かれなかった回想シーン。前回でいえばお万がこれに該当し、今度は弥四郎と、新顔の把握をなんとか済ませたところでその人物は退場となってしまうものだから「もうちょっと前々から顔出しさせてれば愛着も湧くのに」と勿体なく感じてしまう。
それでなくても、家康の生涯を辿る大河なのに合戦シーンもあまり絵的に目新しくないような気がするんだよね。それこそ金ヶ崎なんて丸ごと「なんやかんや」というナレーションでバッサリ切られたし。そして「三方ヶ原の戦い」は2週に渡ったものの、実質1話で完結して、そこまで大掛かりな戦いは描かれず終いだったのも、なんかなぁ。
だってこのドラマの制作統括チーフプロデューサーは4月に公式サイトで「金ヶ崎の戦い、姉川の合戦、そして三方ヶ原の戦いはこれまで大河で描いたことがない圧倒的なスケール感で、家康・信玄の直接対決を描きます」と明言している。
いち視聴者からすると「嘘ついたんですか!」という思いに駆られてしまう。「金ヶ崎の戦い」では羽柴秀吉(演:ムロツヨシ)が殿を任されて複数の感情が爆発するシーンが印象的だった。
それが「なんやかんや」で済まされている時点で、制作統括の発言とは整合性が付かない。
もちろんそこには、そうなった原因というものがあるんだろうけど、それにしたって圧倒的スケール感を期待していた人に対しては、これは誠実ではない。
あと、このドラマって主演の松潤がどんな状況でもどこかしら綺麗なんだよね。ボロボロになって敗走して泣きながら横になってるときでも、顔が特に綺麗だし、体調不良で倒れていても血色が良過ぎる。
なんか市川雷蔵の時代劇を観てる気分になってくるんだよね。綺麗な時代劇というか、主演に気を遣った時代劇というか。多分これは僕のうがった見方で制作側にはそういう意図がないとは思うんだけど、それにしたって大河ドラマ枠なんだから、やっぱり大河ドラマを観ている満足感を、そろそろ欲するようになっちゃった。
そういえば、北野映画の最新作『首』。こちらも戦国時代が舞台で信長や家康、秀吉が登場する。ティザー映像を観たけど、『どうする家康』では観れそうにない描写はこっちで観れそうでワクワクしている。それと、どちらの作品にも大森南朋が出演しているので、この人の演技がこの2作でどのぐらい違うのかってことも比較して観て行きたい。