カルビー会長「全員正社員」発言に視聴者興奮! でもそれって幻想じゃないの?

10月24日放送の「NHKスペシャル」(NHK総合)では、日本で進む「雇用の二極化」をテーマに討論していた。非正規労働者は2014年に2000万人を超え、いまや働く人の3分の1以上を占める。年収は正社員の35%で、低所得と不安定な雇用が問題視されている。

一方の正社員は「激務化」が問題だ。職場で非正規が増え、責任ある仕事が正社員に集中して体を壊すほどの激務を強いられている。フルタイムで働く人の残業や休日出勤はこの5年で急激に増え、過労で自殺する人も増加している。

松本晃氏「会社は従業員とその家族にも責任」

大企業、正社員幻想は邪魔?

大企業、正社員幻想は邪魔?

正社員の負担が重くなると、非正規がさらに増えるという指摘もある。激務に耐えきれない人や、育児や介護のためにハードな働き方ができない人も辞めざるを得ない。一度離職するとなかなか正社員には戻れず、働き口は非正規になる。不本意非正規から正社員に移れる確率は15%ほどだ。

今年3月に発表された試算では、この状況が続けば、2020年までに非正規で働く人の割合が40%を超え、正社員は137万人減少するという。

過酷な条件で働く正社員と、低収入の非正規労働者。このまま「雇用の二極化」が進めば、消費などで社会を支える「中間層」が消滅するという。さらに結婚できない人が増え、少子化が進み、経済が停滞し税収が減る。国の根幹が危うくなるというのだ。

番組は視聴者によるdボタン投票で得票が多かった発言に、ファイナンシャル・プランナーの藤川太氏が説明を加えるコーナーを設けた。そこで3度ともトップ得票を得たのが、カルビー会長兼CEOの松本晃氏の次のような発言だ。

「全員正社員にしたらいい。給料を増やし社員の待遇をよくするのは一番大事な投資」
「経営者の考え方次第。従業員はツール(道具)ではない。会社はお客さんへの責任があり、次は従業員とその家族に対して責任がある」
「経営者として、従業員は何を求めているかいつも考えてきた。今は物財だけじゃない。時間的、社会的な豊かさ。今日より明日、豊かになりたいと望んでいる。ここらあたりでターンアラウンド(方向転換)して変えないと、この国は不幸な国になっていく」

「限定正社員」にも6割が「不安」と回答

番組が意図した投票の使われ方とは少し違った気がするが、この発言に多くの人が投票したということは、多くの視聴者が「うちの経営者からこの言葉を聞きたい!」という悲痛な叫びなのだろう。

このほか中間層消滅の対策として、みずほ経研主任研究員から「第三の雇用」が紹介された。残業や転勤が制限されているため低賃金だが、雇用の継続性や賞与があり、待遇面がよくなる「限定正社員」がその具体的な形だ。残業がなく正社員にも戻れる「スマート社員」(りそな銀行)もそのひとつといってよい。

よい面も多いはずの制度だが、視聴者アンケートでは約6割がこれに「不安」と回答した。結局企業のいいように使われるという不安が残るためだという。しかし正社員こそ、安定雇用と引き換えに「いいように使われている」のが現状ではないか。

「社員とその家族の人生は、会社が丸抱えする」といった考えは、高度成長期の右肩上がりの時代ならいざ知らず、グローバル競争にさらされている企業にとっては、あまりにも負担が大きすぎるのではないだろうか。

少なくとも、かつてのような労働集約型の産業が、地方から都市への移住を促すために家族形成を手厚く支援していた時代はとうに終わっていると思う。それとは逆に、会社経営の根幹を担う優秀な人材を引き止めるためには、会社はこれまで以上の負担をするとは思うけれども。

「正社員幻想」はサバイバルの邪魔になるのでは

さらには、本来の社会保障の担い手である国だって、正直あてにならない。価値判断は別とすれば、現実は「国や会社をあてにせず、自分の力で世の中を渡っていく」しかないはずだ。藤川氏から若い人へのアドバイスも、まさに「生涯現役という覚悟でいなければならない。若いうちに稼ぎ力を高めること」というものだった。

個人的には、ミッツ・マングローブさんの「みんなが活躍なんかしなくたっていい。ちゃんと生活できればいいだけで、活躍なんて二の次」という言葉に一番共感した。作家の村上龍氏も「人生を切り開くという大げさなものではなく、生き延びるということ」と言っていたが、そのためには「正社員じゃなきゃ生きていけない」かのような幻想は、かえって邪魔になるのではないかという気もした。(ライター:okei)

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