就活には「悪い長期化」と「良い長期化」がある 無理な「短期化」議論はもうやめよう
「大学生の内定率が5年ぶりに減少した」という文科省と厚労省の調査が発表されました。16卒の就職活動は大幅な日程変更により、学生・企業ともに翻弄されたことが数字に表れています。
文科省の担当者は「最終的な内定率は前年並みになるのでは」と話しているそうですが、「学業に専念するための就活の短期化」という当初の目的とは全く違った結果を生んだだけであることを実質的に認めたことになります。(文:河合浩司)
「研究の集大成」にぶつかった最悪のタイミング
この調査結果が発表される前日の19日、同志社大学理工学部の三木光範教授による「成長阻む就活協定の誤り」という意見が産経新聞に掲載されました。就活時期の後ろ倒しが、理系学部生や大学院生の研究を阻害していることを指摘しています。
今回の長期化が最悪と言われた理由は、見通しがつかないままダラダラと延びたことに加え、タイミングの悪さも重なっています。就職後の業務に直結することも多い理系学生が研究の集大成をまとめる時期に、「就活」がかぶってしまったのです。
結局、短期化の思惑は外れたわけですが、これを解決するために、さらなる短期化を追求することは困難でしょう。今後は「悪い長期化」から「良い長期化」への発想の転換が必要ではないかと思います。
私は以前の記事で「問題は就活の長期化ではない」と書き、1年次から社会や仕事に触れ、自分の将来をイメージできる機会を増やすよう提案しました。この意見には「大学は学究の場であって就職予備校ではない」といった類の批判が多く寄せられました。
しかし実態は、大学を「象牙の塔」と考える学生などおらず、大学に籍を置きながらモラトリアムを満喫しているだけです。もちろんスキルも社会観も磨かずぼんやりと青春時代を送った学生たちは、自分の力で世の中を渡っていくスキルを持たずに会社に依存する「ソルジャー」として、別の意味で都合のいい存在となるわけですが。
「就職を考えながら勉強すること」のメリット
本来の大学は「社会的存在」として世の中に動きを見ながら、社会で活躍できる有益な人材を供給する責任があるはずです。この点について三木教授も、記事の中でこのような提案をされています。
「最近では3年から就活を始めるのではなく、2年や1年から徐々に始めようという機運もある。自分が社会で役に立つ人間になるために就職を考えながら勉強する方が勉強にも身が入るからである」
1年次から社会人を意識するとなると、見方によっては「就活」は今よりも長期化することになります。しかし、中長期的なインターンシップをしながら社会人を身近に感じることができれば、大学で学ぶ内容が社会でどう活かせるのかを考える機会になるでしょう。
場合によっては2年次以降で、学部変更などの進路見直しが必要となるかもしれません。しかし、学ぶ意義を自分なりに見つけることができ、また得た専門知識を社会人になってからも活かせるなら、最も良い形になるように思います。
「学業」と「就活」を敵対させて考えることが問題
このように「8月解禁」には各方面から批判が集まったのにもかかわらず、全国の国公立大学などで構成する「就職問題懇談会」は頑迷に継続するよう求めていました。
20日になってようやく「6月解禁」を受け入れましたが、三木教授は懇談会が有している基本的な認識の誤りを指摘しています。
「就職問題懇談会は、学業と就活を別個の活動として、まるで敵対するように考えていることが問題である」
まさに、おっしゃる通りだと思います。これを機会に、大学の役割と就活の「良い長期化」に関する議論が進むことを望んでいます。
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