コンビニで働いたことがある人は多いだろう。いろんな客がやってくるから、なかには忘れ難い体験をする人もいるようだ。
東京都に住む中原さん(仮名、50代女性)も、かつてコンビニでアルバイトしていた。印象に残っている出来事を聞くと、「店長は優しい人だった」と話し始めた中原さん。
「ある夏、気温32度の日にエアコンが壊れてしまい、室内温度38度の中で揚げ物をして、ひたすらレジ対応しました。すると店長がアイスを奢ってくれました。バックヤードで食べた思い出の味です」
しかし、人の良い店長は、ある万引き常習犯に頭を悩ませていた。(文:天音琴葉)
「木造平家のかなり貧しい長屋に、お母さんと住んでいました」
これは1990年代の終わりの頃の話だという。コンビニは埼玉県内にあり、「当時の自宅から徒歩3分」という近さが、バイトには打ってつけだった。
「土日祝日に出勤できて、シフトも正確な私は、店長に重宝されていた」という中原さんにとって、店長はどんな人だったのだろう。
「真面目で他人の悪口を言わない、感じのいい人でした。当時30代くらいで、恰幅のいい男性でした。親会社から派遣されたようで、大阪から単身赴任していました」
そんな店長の悩みの種の一つが、前述の「万引き常習犯」だった。犯人について次のように回想する。
「万引き常習犯は、小学校4年くらいの女の子でした。彼女は、私の家の前に残っていた木造平家のかなり貧しい長屋に、お母さんと住んでいました。お父さんは不明で、見たことは全くありません」
食べる物に困って盗みを働いていたのだろうか。
「警察を呼んだことはありません」
だが、女の子が盗んでいた品物は「ちょっとした小物やお菓子だった」そう。長屋住まいだったとはいえ「彼女はそんなに貧しくは見えず、普通の衣服や靴を身につけていました」というから、生活苦だったわけではなさそうだ。
盗られたのは菓子など単価が安い物だったとしても、万引きの頻度が「1か月に2回くらい」というから、店長は頭が痛かったに違いない。
「お客の少ないときに彼女は来て、売り場に入っていくんですが、店長が『またやってるな』と言っていました。私はレジにおり、犯行はよく見えませんでした。対応するのは店長のみで、バイトやパートさんが咎めたことはありません」
万引き犯、それも常習性のある犯人を捕まえたら警察を呼ぶ店が多い。だが、この店長は違った。
「店長は女の子を警察には引き渡さず、その場で小声で諭し、ときには彼女の家に一緒に行って母親に注意することもあったようです。私は同行したことがないですが、パートのおばさんから、そう聞きました。彼女のほかにも万引きする子どもがいたようですが、警察を呼んだことはありません。店長は、本当に良い人だったんだなと思います」
コンビニ店長は忙しい。それにもかかわらず、万引きした子どもたちを警察に引き渡さなかったのは、店長の優しさだったと思った中原さん。だが残念なことに、店長の思いは少なくとも女の子には届かなかった。
「お母さんに注意しても、また間隔を空けて彼女は来ていたらしいです。その後、彼女はお母さんといつの間にか引っ越していて、今では長屋も綺麗な建売に変わりました。コンビニも一軒家になっています」
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