メガバンクでは出向しても「年収1000万円以下にならない」って本当!? 三菱東京UFJ銀行の現役行員に聞いてみた
大卒予定者の就職先人気ランキング上位に、金融機関が並ぶようになって久しい。特にメガバンク人気は高く、就職サイト「ブンナビ!」に登録した学生が選ぶ就職先では、三菱東京UFJ銀行が今年1月時点で3年連続1位に輝いた。
1年ほど前に大ヒットしたドラマ「半沢直樹」の影響もあり、銀行には「給料は高いものの、出世競争が激しいし出向が怖い」などといった暗いイメージがあるが、実際にはどうなのか。三菱東京UFJ銀行の地方支店に勤めるAさん(30代前半・男性)に話を聞いてみた。
平社員でも「年功序列」で年々昇給
Aさんは新卒で入行して10年前後、現在は支店長代理を務め、年収はすでに1000万円近くに及んでいる。まさに誰もが思い描く「高給取りの銀行員」である。では、三菱東京UFJ銀行の給与体系はどうなっているのだろうか。総合職に限ってみれば、平社員がOランク、その上にMランクとLランクがあり、ランクに応じて昇給していく仕組みになっている。
「Oランクは5段階くらいに分かれていますが、基本的に年功序列で毎年あがっていきます。そのため、入行後しばらくは同期ならば給料は完全に横並び。差がつくのは、Mランクに昇格するときです。ここでOランク時代の仕事ぶりが問われ、成績が悪いと昇格が見送られることもあります」
AさんはすでにMランクに昇格しているので、よほどのことがない限り降格はなく、年収1000万レベルから下がる心配もなくなった。Mランクは2段階に分かれていて、課長や支店長代理はこのランクに位置づけられる。同期との差が生じてくる段階だが、それでも同じランクならば給料は同じ。同じ支店内なら、せいぜいボーナスで1回20万円程度の差がつく程度だ。
Lランクは、次長や副支店長、支店長クラス。報酬は1000~1500万レベルだが、成績のいい支店と悪い支店では、1回のボーナスで数百万円の違いが生じる。給料という面で銀行の厳しさが垣間見えるのは、実はこのレベルに達してからなのである。
50歳を過ぎると、取引先や関連会社などへ出向する人が出てくる。行内の出世コースから外れたというイメージで捉えがちだが、実際にはドラマで描かれるような「出向したら終わり」という悲惨な意識を持っている人はほとんどいないという。
出向でも収入が激減しない「カラクリ」があった
「役員を目指している一部の行員にとっては『出向は負け』でしょうが、ほとんどの行員は違いますからね(笑)。むしろ出向したり、関連会社に移籍してそこで役員にでもなれば、銀行員時代よりも高い収入を得ることも可能です」
出向の翌年には転籍扱いになるので、給与が大幅ダウンすると思われがちだが、三菱東京UFJ銀行では「これはウソ」。実際には、出向前の収入との差額に近い金額を銀行が補てんしてくれるので、出向先で定年を迎えるまで一定の収入がキープされるという。
年収1500万円の支店長・副支店長クラスが出向する場合、出向先の報酬にかかわらず合計金額が1000万円以上になるような補てんが行われる。差額の補てんは定年の65歳まで続くが、出向先で役員に就任したり、実績を上げてさらに転職してキャリアアップを重ねたりすれば、銀行員時代の給料を大きく上回る。
中には関連会社で社長を務める「元銀行員」もおり、収入は銀行の支店長よりもはるかに高くなる。「給料に差がつくのは出向後」とも言われるゆえんである。
ちなみに「半沢直樹」では、取引先のマニラ支社への出向を左遷として描いていたが、実際は海外への出向は優秀な行員の証だという。海外、新規といった重要な事業を任されるのは、それなりの能力と経験が必要である。
実はAさんは、2006年の合併前の「三菱銀行以外の銀行」に入行している。つまり入ってみたら、いつの間にか「三菱グループの一員」になっていたということだ。旧三菱銀行の人たちは鷹揚な人が多く、旧三和による旧東海への「合併によるいじめ」はなかったが、やはり旧行意識が残っている部分はあるという。
「人事的には、どの部署もバランスをとっているのですが、ふたを開ければどの世代でも同期の出世頭は三菱だったり。東海地方は、いまだに東海銀行系の行員が大半を占めていますね。でも、現場では対立しているという感じではありませんよ」
三菱と合併し「宴会はすべてキリンビール」の衝撃
合併前は毎月収益のランキングを発表して競わせていたが、三菱になってからは「あまり競わない文化」になった。評価基準でも合併前は収入、三菱は売上という大きな違いがある。リテール部門と法人部門で給料が同じなのも、メガバンクでは三菱だけだった。
「今では三菱に合わせたので、合併前のリテール部門の行員は、ちょっとお得でしたね。卑近なところでは、三菱と合併して飲み会のビールが、すべてキリンビールになったのには驚きました(笑)」
また、旧三菱の行員たちは総じて真面目だともいう。合併前には研修後に必ずと言っていいほど飲み会が開かれていたが、三菱の行員は翌日の試験のための勉強に励むのが当たり前。そんな「三菱文化」の影響か、それまで旧UFJの研修所にあった酒の自販機は合併によってすべて撤去されたという。
Aさんたちも、のんびり高給を得ているわけではない。メガバンクは2000年代前半に採用を極端に減らしたため、現在30代半ばの社員がほとんどいない。ベテランと若手行員といういびつな年齢構成の中、人数の多い若手行員の出世競争が熾烈になっている。「同期で同じ部署に所属すると、必ず仲が悪くなる」と言われるほどだ。
「毎日毎日、数字に追われているから、それなりのストレスはありますよ。でもそれはみんな分かって入ってきてますからね。もちろんそれがイヤだったり、異動・転勤がイヤで転職していく人もいます。外資系やコンサルタント系に転職する人が多いかな」
地方支店にとってのライバルは、その地の地方銀行だ。もともと地元企業などとの太いパイプを持っていることに加えて、近年はメガバンクでは考えられないような低金利を提示するなどして取引先に攻勢をかけているのだ。
Aさんは、「常識的に考えて収益を度外視して目先の契約を取っているだけでしょう。同じ土俵ではとても戦えないし、向こうもこのやり方が長続きするとは思えない」と話す。
転勤10回は当たり前。異動前の取引先との接触は厳禁
そんな苦労もありながら、支店長になるのは一握りの人しかいない。しかし基本的にマジメに働いていけばそれなりの高収入が得られるので、そういう意味では「銀行は悪くない」という。
最近困ったことといえば、ここ数年で行内の「監査」が急に厳しくなったこと。支店長経験者などのベテランが監査部門に配属になって、各支店などのチェックに目を光らせている。
「メールひとつ送るにも、上司がCCに入っていないとダメ。ネットの閲覧も、2ちゃんねるやヤフー知恵袋などの書き込みができるサイトは、すべてフィルターが掛かっていて見ることができません。それ以外にも見たらアウトというサイトがあり、常時モニタリングされているので気が抜けないですね」
こうした厳しい監視が行われているのは、もちろんコンプライアンスのため。社会的に厳しい視線にさらされている銀行ならでは、と言ったところだろう。
「昔はもっと緩かったんですが、何か不祥事が起こるたびにどんどんルールが増えていく。マスコミでは報じられていませんが、実は細かな不祥事は年がら年中起きているんです。そのたびに僕らのように真面目にやっている行員の首がしめられる(笑)」
数字上の実績をいくらあげていても、小さなコンプライアンス違反が支店内で見つかれば、支店長らは「大きなマイナス査定」というから、自然と上司からの監視の目も厳しくなり、雰囲気もピリピリしてくる。
ほとんどの行員が3年をめどに異動を繰り返し、定年まで10回もの転勤を繰り返す人も珍しくないが、それも取引先との癒着など不正を防止するため。いくら親しくなった取引先とでも、異動後にはあらゆる接触が禁じられているというのも、銀行ならではのルールだ。
日常的に大金を動かし、取引先企業や個人の内部情報を知りうる立場にある銀行員。これらの規定が設けられるのも、ある意味では当然のことと言える。金融機関を目指す若者を「保守的」と批判する声もあるが、銀行員特有のルールを踏まえさえすれば、確かに働きがいのある職場のひとつに違いない。(文・構成:オフィスチタン)
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