「食文化創造集団」打ち出す日清食品グループ 幅広いポジションでキャリア採用を強化している理由
1948年の創業以来、1958年の「チキンラーメン」、1971年の「カップヌードル」など、日本人の食を大きく変える革新的な商品を生み出してきた日清食品グループ。2024年3月期は連結売上収益7,000億円を達成。各利益も過去最高を更新しています。
食品企業として2024年に世界で初めて人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインISO 30414の認証を取得するなど、人材を「企業価値の源泉」と捉えた取り組みを強化している同社では、現在どのような人材を求めているのか。日清食品ホールディングス 人材開発部 部長の岡村誠さんに話を聞きました。(構成・文:水野香央里)
即席めんにとどまらない様々な事業展開

日清食品ホールディングス人材開発部 部長 岡村誠:1998年日清食品入社。冷凍食品事業部から人事部(現 日清食品ホールディングス人事部)、日清食品冷凍などを経て、2023年より現職。
――現在どのような事業を行っていますか。
日清食品の名前を聞くと、TVCMや店頭で見かける即席めんを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、当社のビジネス環境は大きく変化しており、現在ではグループ全体で多岐にわたる食品ビジネスを展開し、大きく3つの領域で事業を行っています。
1つ目は国内即席めん事業で、「チキンラーメン」「カップヌードル」「日清のどん兵衛」などを扱う日清食品と、「チャルメラ」「中華三昧」などを扱う明星食品が、2023年度グループ売上高の約38%を上げています。
2つ目は国内非即席めん事業で、チルド食品や冷凍食品、乳酸菌飲料の「ピルクル」などを扱う低温・飲料事業と、ポテトチップスやシリアルなどを扱う菓子事業が、グループ売上高の約25%を上げています。
3つ目は海外事業で、即席めんなどを、北米や南米、中国、アジア、欧州などでグローバルに展開しています。売上高はグループ全体の約37%を占め、国内の即席めん事業に匹敵する規模になっています。

グローバルに事業を展開する日清食品グループ(日清食品ホールディングス統合報告書2024より)
――かなり幅広いですね。現在はどんな戦略で事業を推進しているのですか。
当社は2021年5月に発表した中長期成長戦略において、「食足世平」など安藤百福の4つの創業者精神をミッションとし、CSV(Creating Shared Value)経営の推進を掲げました。「新たな食の創造」で世界の課題をスピーディに解決し、人類をもっと健康に、もっとHAPPYにしていくことを目指しています。2022年に販売開始した「完全メシ」シリーズは、これまで即席めんで培った技術を駆使して開発し、新規事業として具現化したものといえます。
見た目やおいしさはそのままに、年齢や性別、生活習慣など、一人ひとりの状態に合わせて主要な栄養素がバランスよく適切に調整された最適化栄養食は、生活習慣病の予防や栄養バランスの改善といった健康問題に対応し、拡大が予測される市場を先取りするものです。
創業以来、私たちが目指してきたのは、世の中の課題を“食”で解決することです。そのために今までにない新しい食を次々に作り続け、当たり前にしたいと考えてきましたし、これからもそこに挑戦し続けていきます。
成長曲線にある事業で人材確保が求められている
――現在はどのようなキャリア採用に注力していますか。
営業・マーケティングから、生産、研究開発、コーポレート部門まで広く採用を行っています。採用者の年齢層も幅広く、いわゆる第二新卒からミドル層をターゲットとしています。
現在も多くの職種で募集を行っていますので、採用サイトを見て「なぜこんなに多くの部門で採用を行っているのか」と不思議に思われるかもしれません。新しい人材の確保が必要になる最大の理由は、当社のビジネスを取り巻く環境が大きく変化し、国内事業だけでなく海外や新規事業も成長曲線にあるため、それだけ人材の確保が必要になっているからです。
例えば、新規事業が1つ立ち上がると、現場のオペレーターから管理するマネージャーやディレクターまで、各部門から優秀な人材を集めることになり、結果として全ての部門に欠員が出る、といった形になりますので、そこに即戦力の経験者が必要になります。
――新規事業や海外事業にキャリア採用者を配属することもありますか。
もちろんあります。特にこれから力を入れていかなければならないのが、既存の社員だけでは推し進めることのできない領域で活躍してくれる人材の採用です。しかし、新しい分野で必要となる人物像や要件を明確に示すことは簡単ではありません。
現在は、部門の社員や役員とコミュニケーションをとり、悩みながらも厳しい目で業務を具体化させて要件定義をしているところです。一方で、多様な人材に当社で働いてもらうために間口を広げておきたいとも考えており、「日清食品グループでこんなことをやってみたい」という思いがある人に応募してもらいたいです。

日清食品グループの理念(「Human Capital Report 2024」より)
――求める人材像はありますか。
やはり当社のMISSIONやVISION、そしてVALUEである「大切な4つの思考」(Creative、Unique、Global、Happy)を理解し、共感してもらえる人がいいですね。また、最近はキャリア採用者に求められる経験が多様化する中で、食以外の業界からの転職も増えていますが、どのような職種の人にも「日清食品グループで働く」イメージを持ってもらうことは大事だと考えています。
例えば休日に家族でスーパーに買い物に行ったとき、レジのお客さんがカゴの中に日清食品グループの商品を入れて会計を待っていたとします。その姿を見たときに、私は握手を求めないまでも、心の中に感謝の気持ちが湧いてきます(笑)。
当社グループで働くということは、「新しい食を作り続ける」一端を担うということです。大きな目標の前に、当社は世の中の多くの人にとって身近な存在なんだ、ということを忘れないで欲しいと思っています。実はこういったことが、日々の仕事を楽しくすることにもつながるからです。
「日清流Job型制度」で管理職の仕事を見える化
――御社は「人的資本経営」を掲げていますが、成長戦略とどのように結びついているのでしょうか。
安藤百福は、ある年の年頭所感で「企業在人」、つまり「ビジネスの根幹は人である」というメッセージを全社員に送っています。社員に対するこの考えは、世間で「人的資本」という言葉が注目されるずっと前から大切にしてきました。
事業を支える人的資本を強化することは、そのまま人材の採用や教育・育成、さらには定着に向けた施策を行うことと考えており、大きなテーマを掲げて取り組んでいます。
具体的には「MISSION・VISION・VALUEの浸透」「多様な人材の採用とオンボーディング」「自律的なキャリア形成の支援」「NISSIN ACADEMYを中心とした人材育成」「ダイバーシティ・エクイティ&コンクルージョン」の5つです。
2024年度から管理職を対象に導入された「日清流Job型制度」は、自律的なキャリア形成を支援する取り組みのひとつです。「日清流」としているのは、これまでの職能等級制度とJob型人事制度のハイブリッド型で、職務と処遇を可視化して“適所適材”を目指す仕組みだからです。

自律的なキャリア形成の支援(「Human Capital Report 2024」より)
――JOB型にすることでどういう効果がありましたか。
他部署の管理職の仕事が「見える化」されたことで「社内でのキャリア形成がしやすくなった」「そういう仕事ならチャレンジしてみたい」といった声が聞かれるようになりました。また、職務や処遇を明確にすることで、社外に対しても仕事内容をより具体的に伝えられるようになり、キャリア採用のマッチングにもつながっています。
こうした管理職を目指すキャリア形成を「マネジメントコース」とする一方で、仕事の専門性を高めて深掘りする「プロフェッショナルコース」を新たに設けました。研究開発職など一部の技術系職種に限らず、例えばコーポレート部門の法務や財務、ITなども対象で、徹底的に専門分野を突き詰めていくキャリアも選べるようになりました。
この大きな2つの軸を新しい道標に、社員には自分自身のキャリア形成に有効に活用してもらえたらと考えています。
キャリア入社の増加で「オンボーディング」に注力

ミーティングルームの様子(日清食品ホールディングス提供)
――採用者の定着促進にはどのように取り組んでいますか。
人材戦略のテーマのひとつに「多様な人材の採用とオンボーディング」を掲げています。これは最近重要なテーマとして新たに追加したもので、これまでの取り組みを含めて改めてオンボーディングを見直していこう、という思いが込められています。
2024年12月に行われた全社集会の中でも、CEOより「キャリア入社者の増加」や「人材の定着」「オンボーディング」について言及があり、会社がさらに躍進する上での要となっています。
2024年10月からは毎月、その月にキャリア採用で入社する社員に対し、2日間の研修プログラムを行っています。1日目は「カップヌードルミュージアム 横浜」で、会社の歴史や創業者の思いを学ぶ理念教育を行っています。世界初の即席めん「チキンラーメン」の手作り体験も行いながら、創業の原点に触れ、新しいものを生み出し続ける当社の姿勢をより深く理解してもらいます。
2日目は東京本社で各部署の紹介や、日清食品グループの社員として身につけて欲しい基本を学びます。このような研修はこれまでも不定期で行なっていましたが、キャリア入社者が増えていることもあり、このようなプログラムでスタートを切ってもらっています。
転職した直後は、誰もが孤独や不安を感じると思います。この研修は、配属される部署に関係なく「キャリア同期入社」としての横のつながりを作るいい機会になっているようです。

2023年度のキャリア採用は全採用者数の78%を占めた(「Human Capital Report 2024」より)
――採用者は新卒が中心なのですか。
食品メーカーはそういうイメージが強いかもしれませんが、実は当社の全社員のうちキャリア入社者の割合は約6割を占めます。入社後は同じような苦労やつまずきを経験した先輩が周りにいるので、相談したりサポートを受けたりしやすい環境です。社内では新卒かキャリア採用者かの区別もなく、安心して活躍できる環境が整っています。
「採用したら終わり」ではなく活躍まで見据える

「NISSIN ACADEMY」の公開型プログラムの例(「Human Capital Report 2024」より)
――研修は入社後も継続的に行われるのでしょうか。
2020年度に設立した企業内大学「NISSIN ACADEMY」が中心となり、階層別研修や自己啓発支援制度など全社員を対象とした「公開型プログラム」と、経営者や各部門リーダーの候補の育成に向けた「選抜型プログラム」の2つを展開しています。
キャリア採用の場でも、候補者から「入社後にも学びの場があるか」と聞かれることが多くなっています。研修の機会を積極的に活用し、成長意欲を持って自発的に学んで欲しいと考えています。経験者として入社しても「いくつになっても学び続けたい」「アップデートし続けたい」という意思を持った方に応募してもらいたいです。
なお、2024年には人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインである「ISO 30414」を食品企業で初めて取得しました。これは人材を企業価値の源泉と考えて、さまざまな施策と人的資本の情報開示に力を入れてきたことが評価された結果です。
認証取得に合わせて、グループの取り組みをまとめた「Human Capital Report」も発行しました。商品や事業のように数字に現れない「人への取り組み」について社内外の皆さんに理解してもらい、当社で働く姿を具体的にイメージしてもらうことは、ミスマッチを防ぐことにもつながると考えています。
私は採用担当者によく「採用で終わってはダメだよ」と伝えています。今採用した人がすぐに活躍してくれることもありますが、採用したら終わりではなく、やはりその人の行く末まで、しっかり責任を持って会社としてサポートしていく必要があると考えています。
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