なぜ日本のサラリーマンは、会社を休まずに働き続けるのか? 又吉直樹が「地位財」理論に納得
休暇を取得しようとすると「自分勝手だ」と批判される職場があるようです。中年以上のサラリーマンには「バリバリ働いて稼ぐ」という価値観がいまだに強く、休暇自体を楽しむ文化もかなり乏しいといえます。
そんな日本企業で、どうすれば休みが取りやすくなるのでしょう。6月15日放送の「オイコノミア」(NHK Eテレ)では、人が休みや健康を犠牲にしてまでもハードワークをやめられない理由を解説していて、妙に納得してしまいした。
他人との比較で価値が変わる「地位財」
この日の講師の大阪大学・大竹文雄教授は、「次の2つのパターンのうち、どちらが嬉しいですか」と質問しました。
A.自分は6000万円の家に住み、周りは全て8000万円の豪邸に住んでいる
B.自分は4000万円の家に住み、周りは全て3000万円の家に住んでいる
MCの又吉直樹さんは「Bの方が嬉しいような気もしますね」と不思議そう。Aの6000万円の方が立派な家なのに、「他人より値段が高いか低いか」の比較によって、自分にとっての価値が変わってしまいます。
このように、他人と比較することによって自分にとっての価値が異なってくるものを、経済学で「地位財」と呼ぶそうです。Bを選ぶ人にとって、まさに家は「地位財」。家や車のほか、会社の所得・役職、ブランド製品、子どもの成績などが地位財と考えられます。
特に見栄っ張りの人は、地位財で他人に負けたくないのでしょうね。それでは、休暇に関してはどうでしょう。家の値段を1000分の1にして日数に置き換えます。
A.自分の休みが月6日で、同僚は全員8日
B.自分の休みが月4日で、同僚は全員3日
この質問に仕事中毒を自称する又吉さんだけはBを選んでいましたが、自分だけで考えれば休みが2日多いAの方がいいはずです。このように、他人と比較しても価値が変わらないものは「非地位財」というそうです。
若者世代の意識は変わっているのでは
「非地位財」の中には休みのほか、通勤時間の長さや大気汚染、健康など。いずれも人生の質を考える上でとても大事なものばかりですが、大竹教授はこう注意を呼びかけます。
「地位財と非地位財が両方あると、地位財に引っ張られちゃう。自分はこれでいいと思っていたのに、周りがすごく立派な家になったら、『家を立派にしなきゃいけない、もっと働いて稼がなければならない』となる。すると大切な非地位財である『健康』を犠牲にして働いてしまうおそれがある」
人は、地位財を手に入れるため、非地位財をおろそかにしてしまう。それが休みより仕事を優先する原因のひとつという指摘にはハッとさせられました。家族のだんらんも、非地位財といえるでしょう。
目に見えて他人と比較しやすい地位財に対し、「休みは目に見えないので地位財になりにくい」という難しさもあるとのこと。又吉さんが「海外では休暇が長くて、幸せそう」という話に触れると、大竹教授は、
「それ(休暇が取れること)を誇れるようにしていけば、休暇が『地位財』になっていきますよね」
と指摘しました。筆者が思うに、すでに若い人の間では休みや健康など非地位財に対する価値観は高まっている気がします。貧しさに悩まされずに育った世代は、もう見栄やひがみに振り回される必要がなくなっているのかもしれません。(文:篠原みつき)
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