深刻化する日本のIT人材不足、原因は待遇の悪さか 経産省の国際比較調査で「給与・仕事に対する満足度」がワースト1位
ITの分野では、日々技術の革新が進んでいる。先日も日立が、人口知能が従業員に「幸福感を高めるアドバイス」を行うという実験を始めたことが話題になった。
ITの技術は国の発展を考える上でも欠かせないが、近年、労働人口の減少に伴い、IT人材の確保が難しくなっている。6月10日に経済産業省が公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によれば、2015年時点で17万人が不足。今後さらに深刻化し、このままだと2030年には59万人が不足する事態になるという。
外国人のIT人材は7年間で2倍に増加、それでも足りない現実
調査では、新卒者の規模や動向、人材供給の条件に今後大きな変化がない場合、人口減少に伴って、「IT関連産業への入職者数は減少する見通し」だと指摘。また、2015年のIT人材の平均年齢は39.0歳となっているが、2030年には41.2歳と高齢化も進む見通しだ。
IT関連技術の中では、今後市場の拡大を見込めるものとして「ビッグデータ」「IoT」「人工知能」といった先端分野に注目が集まっている。しかし、調査ではそういった先端技術に携わるIT人材が「今後特に大幅に不足する」と予測する。具体的には、2016年現在で約1万5000人が不足しているところ、2020年には約4万8000人が不足になるという。
調査では、「先端IT分野でのさらなる市場成長を促進するためには、成長の足かせとなり得る不足人材の充足が喫緊の課題」と危機感を募らせている。IT人材不足を緩和するために、50代以上のシニア層や女性といった多様な人材の活躍に期待を寄せている。
また、国内の労働力自体が減少するため、十分なIT人材を確保するために、外国人の活用が検討されている。2008年から2015年の7年間で情報通信業に就労している外国人数は1万8000人から3万6500人と2倍に増えており、存在感を増しているのが理由の一つだ。国籍別に見ると中国人の就労者が多く、外国人就労者の53%を占めている。
有識者「今の日本に人材がいないのではない。『人材を活かす政策』が必要」
ただ、このまま外国人IT人材を確保し続けられるかどうかは疑問がある。同じく経産省が10日に発表した「IT人材に関する各国比較調査結果報告書」では、アメリカ、日本、韓国、中国、インド、ベトナム、タイ、インドネシアの実態を比較。この中で「海外勤務先として関心がある国」を聞いているのだが、多くの国がアメリカを1位にあげている。
東南アジアの国からは日本の人気も高く、日本を選択した人の割合(複数選択)は、タイで58.4%、インドネシアで52.5%、ベトナム47.8%だった。しかし、現在就労者数の多い中国では24.3%、IT大国のインドでは18.9%となっている。
そもそも、日本はIT人材への待遇が悪いという側面がある。前述の各国比較調査では、「給与・報酬に対する満足度」が日本はワースト1位。また、アメリカのIT人材と「仕事や職場環境に対する満足度」を比較したところ、「給与」「労働条件」「充実感、やりがい」「成果に対する報酬」「社内での今後のキャリアに対する見通し」「社内教育・研修や自己研鑽に対する支援」といったすべての項目で35ポイント以上の差が開いた。
IT産業の魅力が低いことが人材不足の要因であることはすでに経産省も把握している。しかし、アメリカのような環境を日本で実現するために、まず「革新的な発想力と高い技術力、そして未知の市場への挑戦意欲」を備える必要があるとしている。まずはやる気の問題、と認識しているようだ。
一方で、経産省の研究会では、有識者から「今の日本には人材がいないのではなく、構造や環境が新しいものを生み出しにくくしているのだと思う。今のIT産業には『人材を活かす政策』が必要なのではないか」という意見も出ていたという。IT産業の発展を目指すのであれば、何よりも先に待遇の改善が必要ではないか。
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