野球少年の母親の大きな負担”お茶当番”は必要? 「派閥ができる」「当番が指導者やコーチに媚を売る」という問題も
昨今、高校野球の坊主、体罰的指導といった問題が取り上げられ、日本の野球は過渡期を迎えているように感じます。それは少年野球でも言えることで、指導法や父兄のチームへの関わり方などに対しても批判や悩みは絶えないのが実情です。
少年野球には、”お茶当番”なるものがあります。野球少年の母さんなら経験したことがあるかもしれませんが、試合中に審判にお茶を出す、監督やコーチのお世話、練習・試合の準備や連絡、お弁当の手配など、お茶くみ以外の雑務もこなす係のことです。
これは当番制で、実際に行っているのは母親がメインなのです。この”お茶当番”は果たして必要なのか。なぜ当番が存在するのか。実際に、選手・指導者を経験し、心理学を学んだ視点からその問題を考えてみます。(文:ちばつかさ)
母親の中には”お茶当番”を肯定的に捉える人も
少年野球をはじめ、小学生のスポーツ活動に、大人の協力は絶対に必要です。子どもの送り迎えやタイムマネジメント、食事などのサポートは子どもたちにとってなくてはならないものです。
アメリカでは高額ではありますが、小学生の時からプロにプライベート指導してもらうこともあるというのですが、日本の文化にはあまり馴染みがありません。お父さんやお母さん、指導者などの関わりの中で子どもたちのスポーツ活動が成り立っています。
そんな中、少年野球に存在するのが”お茶当番”。指導やコーチにあたるのは父さんが多いですが、お茶汲みにとどまらず雑務全般はお母さんが行うのです。ヤフー知恵袋では、子どもが少年野球に入っていると思われる人物から「お茶当番は廃止すべきでは?」という投稿が少なくありません。
共働きが多くなってきている昨今、お母さんの負担はとても大きくなっています。しかも、雑務に加えて”親同士の交流”がある。時間的な余裕がなく交流も苦手なお母さんにとっては二重苦です。
しかし回答には、監督やコーチは無償であることから「感謝を表すのも必要では?」「子供がお世話になっていることに親として少しでも協力したいと思う」など、お茶当番を肯定的に捉えている人が多く見られます。
ただ実際、指導現場でコーチ兼相談役をしていた僕のところには、父兄からお茶当番に関する不満も届きました。「派閥ができる」「当番をしているときに指導者やコーチに媚を売る」など “当番カースト”が存在するのです。では、いったいなぜこんな問題が起きるのでしょうか?
日本には「雑務やお茶当番などを積極的に”してしまう”人」が必ずいる
正直、野球文化は男尊女卑的な空気感があります。一時期、女子マネージャーが甲子園のグラウンドに入り問題になりました(この空気感があるのは相撲と野球だけだとか)。
日本の文化は協調性を大切にしている”相互協調的自己観”の文化なので、個よりも全体重視の関係性を保ちたがる性質があります。チームで言えば、個人の成長よりもチーム全体の評価を求める勝利至上主義になりがちな傾向があります。
お茶当番もそうです。雑用に不満を言ってはいけない空気があり、過度なお茶当番への期待、親自身が自営業などでそれができない状況だと父兄内で仲間はずれが起こるといった問題が起きるのだと考えられます。
しかし、少年野球の主役は、あくまでも子どもたち。親の間で問題が起きていたら本末転倒です。子どもたちだけでなく、チームや団体の将来にも悪影響を及ぼしかねません。
では「お茶当番はなくしたしたほうがいいのか?」というと簡単にはなくせないのも現状です。協調性を大切にする文化があるゆえに、雑務やお茶当番などを積極的に”してしまう”人は必ずいます。
また、お金をかけることができないチーム運営には、父兄で分担しなければいけない雑務は必ずあるのです。極端に「全部廃止!」といっても、また必ずなにかしらの問題は起きるはずです。
もちろん”お茶当番”はお父さんがしたっていい
実は僕自身、独立的な考えが強く、一時期「お茶汲みいらないだろ」という思考に陥った時がありました。ただ、やはり「じゃあお茶当番がやっている雑務は誰がやるの?」という問題もあります。
日本は相互”協調的”自己観という人が多いですが、中には”独立的”な、協調的な人からすると”協調的ではない”と感じてしまう人もいます。でもまずそこは「そういう人もいるんだ」と多様性を認めることも大切です。
人は誰しも同じ考えを持っているとは限りませんし、仕事や家庭環境なども違います。それを認識していると、お茶当番に参加しない・できない人がいても「もしかしたら私とは違う考えなのかも」「仕事などで忙しいのかも」と相手を思いやることができます(もちろん、協調的な人、独立的な人、双方が理解する努力は必要ですが)。
不満も多いお茶当番ですが、なかなか参加できないお母さんがいるなら他の父兄などでカバーする、派閥やカースト制があるのなら父兄ではない第三者をチームに入れるといったことで少しでも課題は緩和されるのではないでしょうか。
もちろん”お茶当番”はお父さんがしたっていい。参加できないことを心苦しく思うなら、何かを差し入れしてもいい。今の時代、男はこれ、女はこれ、ではなく、質の高い相互協調的サポートが必要なはずです。日本のよさを探りながら問題も改善していけたらいいなぁと願っています。
【筆者プロフィール】ちばつかさ
合同会社komichi代表。柔道整復師、こころと体のコーディネーター、元プロ野球独立リーグ選手。東京と福井で投げ銭制の接骨院を運営しのべ10万人近くの心と体に向き合ってきた。野球経験とコーチングの経験を活かし都内で“野球を教えない野球レッスン”を運営。レッスン卒業生がU12侍ジャパンの代表に選出された。現在、心理学を学ぶため、アラフォーで大学在学中。【公式サイト】