緊急事態宣言が解除され、在宅ワークや時差出社から通常出社に戻る人も多いだろう。ネットでは「出社したくない」「早くもコロナ明け鬱」といった声が相次いでいる。
臨床心理士の尾崎健一氏はキャリコネニュースの取材に「在宅勤務を行っていた人から、『再び満員電車に乗りたくない』『職場の人間関係などに負担に感じて憂鬱な気分になる』という声が寄せられています」と語る。
「嫌なことを考えると憂鬱になることは人間の反応として自然なことですが、場合によってはうつ病に至ってしまう可能性もあります。そもそもコロナ禍の不安もありますし、在宅勤務から通常出勤に戻ることは心身ともにストレスに感じる人は多いでしょう」
緊急事態宣言明けを憂鬱に感じるのは当然だというが、この不調を”自粛明け鬱”とするなら、どのような症状が起こりうるのか、どのような対策をすればいいのか、詳しく聞いた。
「楽しくない」「眠れない」「食欲がない」に要注意
「憂鬱だというレベルではなく、うつ病というレベルなら専門医に相談するべきです」
うつ病の前兆に気づくポイントは以下の3点だ。これらが同時に起きているのであれば対処が必要になってくるとする。
・「楽しい」と思えたことも楽しめなくなってしまうような憂鬱な気分が1週間以上続く
・「眠れない」「十分眠れていないのに目が覚めてしまう」といった不眠状態が1週間以上続く
・食欲が全くわかない、または普段よりも食べ過ぎてしまい短期間に著しい体重の増減がある
ストレスに負けないための対処法は2つあり、1つ目は「生活習慣を整える」だ。まず現在の「睡眠」「食事」「運動」の状況を振り返り、適正に近づける必要がある。
この”適正”について尾崎氏は「人間は自然の中の一部です。望ましい状態は自然が教えてくれるでしょう」と話す。具体的には「朝起きて夜になったら眠る」「できるだけ自然界にあるものを食べる」「適度な運動を習慣化する」といったことが重要になる。
「現代人は動物が寝ているような深夜まで起き、スマホやテレビなど人工的な光や電磁波も浴びています。加工食品は消化に負担がかかるものも多いですが、現代社会で全く摂らないようにするのは難しいので、食事の際にバランスを意識してください」
ストレスを分類して、逃げるか向き合うかを決める
2つ目は「ストレスの分類」を行うこと。尾崎氏は、ストレスには「白ストレス」と「黒ストレス」の2種類に分けられると説明する。白ストレスは「怠惰」「執着」がもととなっており、自分でプラスに転じることが出来るもの。
「自粛明けで言うと『また早起きしなければならない』『上司と顔を合わせるのが嫌』『無駄と思える仕事をしなければならない』などがあてはまります。しかし、それを乗り越えると自身の成長や、他者への貢献につながるストレスでもあります」
一方、黒ストレスは「変えようのないもの」「ふって湧いた災難のようなもの」。具体的には「在宅勤務明けで満員電車に乗らなければならない」「自分が思ったように評価されない」などで、これを変えることは現実的ではないとしている。
黒ストレスは、無理に変えようとせずそのままやり過ごすか、物理的に離れることが望ましい。特に悪質ないじめやパワハラなどであれば、逃げることも検討すべきだ。ただ、現実的には離れるべきか否か”グレー”のことも多い。自分は黒だと感じていても、視点を変えると白やグレーに変わる場合もある。
「『上司から思ったように評価されない』というストレスなら、上司を変えるのは難しいかもしれませんが、上司の評価指標を知り、対策を行うなど自分の考えと行動を変えることはできます。また『黒を白やグレーに出来ないだろうか』と考えるうちに、ストレスを感じる程度が下がることもあります」
ただし、ストレスが過度に蓄積すると、黒か白か、変えられるか否かがわからなくなる場合がある(視野狭窄)。尾崎氏は「そのあたりを整理するのがカウンセラーの役割でもあります。相談できる身近な人や専門家に助けを求めてください」と話す。
4月の自殺者数は2割減、しかし今後増える可能性も
厚生労働省などのまとめによると今年4月の自殺者数は昨年同月より2割減となった。在宅勤務や一斉休校が行われていたことが要因ではないかという声も挙がっているが、尾崎氏は「戦争や大災害直後、自殺は減少し、その後増加する傾向にあります」と話す。
「命の危険があまりにも身近に迫ると自殺すら考える余裕がなくなるのかもしれません。そんな状態を過ぎ、しばらくしてから自分の今後に絶望感を感じると、出来事の発生から感情の発生にズレが生じます」
そのため緊急事態宣言解除後、世の中が通常に戻りつつある時期に精神的安定が損なわれる人が増える可能性がある。尾崎氏は「自分自身に起きていることと感情面に焦点をあてて、どの様なストレスがあるのか認識してみてください」と話した。
尾崎健一 公認心理師・臨床心理士・シニア産業カウンセラー
コンピュータメーカー勤務後、臨床心理士資格を取得し働く人のメンタルヘルス維持・向上の活動に従事している。近著に「もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら」などがある。