コロナ不況下での企業の採用活動 「集める」から「選ぶ」に課題はシフトする
新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退が現実のものとなっています。多くの会社が業績予測を軒並み下方修正し、採用数を絞る動きが顕著です。リーマンショックの際は、当時の新卒求人数を100とすると、翌年で約75、翌々年で約60と激減したわけですが、今回はそれよりも悪くなるかもしれません。
全体の採用数が減れば、求人に対する応募数が増えます。私がサポートをしているクライアント企業でも、新卒・中途でこれまでの2倍近い応募が来ている状況が珍しくありません。ここ数年、企業は「集める」ことが最大の課題だったわけですが、どうもこれから数年は、それは解消されそうな雰囲気です。(人材研究所代表・曽和利光)
「選ぶ」に注力するために「集める」を工夫する
求職者の応募が殺到すれば、採用上の課題は大きく変化します。これからは多くの候補者の中から、いかにして適切に素早く選抜を行うかということになるでしょう。うれしい悲鳴ですが、大勢の候補者から適切な選考を行うには、それ相応にコストがかかります。
書類選考や面接一つとっても、従来通りのやり方では多大なマンパワーが必要です。応募が増えることで選考プロセスを進めるのにも時間がかかり、そのすきに優秀な人材を他社に取られてしまうかもしれません。
対策としてはまず、これまで「たくさん集める」ことを目標としていた採用広報を「適した人以外は来なくなる」コンテンツにしなければなりません。セールスポイントだけを訴えるのではなく、ありのままの企業実態を求職者に情報提供するRJP(Realistic Job Preview)に従ったやり方に変えることなどが考えられます。
求職者とのミスマッチを避けるために、あえてネガティブポイントを伝えたり、こういう人はうちには向かないという情報を伝えたりすることにより、候補者自身にセルフスクリーニングを促すのです。そうすることで自社にフィットしない人が無駄に集まることを防ぎ、後工程の選考パワーを効率化することが可能になります。
「盛ってくる」候補者を見抜くスキルを
また、候補者の熱意に押されて「口だけは立派」な人を誤って採用してしまわないようにすることも大事です。就職難の中で入社したいと必死になるあまり自分をよく見せようと「盛ってくる」候補者を、きちんと見抜く面接スキルを身につける必要があります。
ポイントをシンプルに言えば、意欲や意見のような「主観的な思い」ではなく、過去のある場面で行ってきた「客観的な実績・事実」をきちんと収集し、それに基づいて候補者の能力や性格、志向を推測していくということです。
いわゆる「ピープル・アナリティクス」と呼ばれるデータ分析を採用に導入して、効率化を図るチャンスかもしれません。適性検査などを導入して収集した受験者のデータを分析することにより、どういう人が自社に興味を持って応募をしてくれるのか、自社に向く人やフィットしない人はどんな人なのかを割り出すものです。
これまで人を集めるのに必死なときには適性検査も入れにくかったのですが、ここ数年は導入のチャンスです。データがなければ分析もできなかったわけですが、大勢の候補者が受験してくれてデータを確保できれば、後々にも使える理論を策定できるようになります。
中長期的に「売り手市場」は変わらない
以上が一般的な採用の話ですが、いくら「買い手市場」(企業側が強い市場)になったからといっても、中長期的には「売り手市場」は変わらないという見方もできます。
理系人材やエンジニアなど異能人材、特殊人材といわれる「採用難人材」については、引き続き簡単には採用できない状態が続くことが予想されます。調査などを見ても、需要は減っていません。
こういうターゲットに対しては「志望度で評価しない」「応募のハードルを下げる」「広告だけでなくスカウト型の候補者集団形成を行う」など、これまで通りの「売り手市場」的な考え方で臨まなくてはなりません。
さらにいえば、中長期的には「人手不足」が続くことも変わりません。厚生労働省の発表では、2019年の出生数は過去最少の86万5234人でした。私のような1学年200万人以上いる団塊ジュニア世代から見れば、半分にも満たない人数です。
彼らは約20年後の「採用候補者」であり、人数はすでに確定しています。短期的な経済的要因によって一時的に「買い手市場」になったとしても、中長期的には「売り手市場」ではないかということです。
それなのに「買い手市場」の中、短期的視野で候補者にひどい扱いをしてしまえば、採用市場での評判は下がり、その後長期間、自社の採用力を低下させることでしょう。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/