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日本郵船が取り組む「変革を推進する人材育成」 デジタライゼーションの仕掛け役に聞く

日本郵船 執行役員兼デジタライゼーショングループ長の鈴木英樹さん(同社提供。以下同じ)

国際的な海上輸送を中心とした総合物流事業や客船事業などを展開する日本郵船。明治18年創業の日本最大の海運事業であり、三菱グループの源流企業の一つと言われている。長い歴史や事業規模から「官僚的」「旧態依然」などのイメージを持たれることもあるがその実、DXの最先端を走るイノベーターである。

「DXは道具であり、最後は人である」――。日本郵船株式会社執行役員兼デジタライゼーショングループ グループ長の鈴木英樹さんはそう話す。先の見通せないVUCA時代において、日本郵船が注力するのは変革を推進する人材の育成だ。(文:千葉郁美)

デジタライゼーションを推し進める要は「人材の育成」にある

海運業の日本最大手である日本郵船は、これからのNYKグループを創る重要な経営戦略としてデジタライゼーションを掲げ、船舶の安全運航や管理業務の効率化といった現場が直面する課題の解決に繋がる数多くの技術開発に力を注いでいる。

これまでにも船舶パフォーマンスの向上やモニタリングの活用深化、活用しやすいデータベースの整備、分析手法や技術の高度化などを実現。2019年には、船舶パフォーマンスマネジメントシステム「SIMS」の開発で日経「IT Japan Award」グランプリを受賞した。

また、2021年には経済産業省と東京証券取引所から「DX銘柄2021」にも選出されている。

このようにDX施策を着々と前進させている一方で、新たな価値を創出する上で要となるのは「変革を推進する人材」だという。

「組織を強くするために、いま一番大事なのは自ら考えて行動できる人材を一人でも多く育成することです。また、いまあるものを盲目的に信じるのではなく、変えていかねばならない。若手の育成の重要さはもちろんですが、イノベーションを起こすには上に立つ者のマインドセットも変えていくことが重要です」(鈴木さん)

変わらないことに対し安心感を覚えてしまうのが人の常ではあるが、変わることを恐れていては新たな価値の創造を実現することは難しい。その壁を一つ乗り越え変革を推進する人材を育成するために、鈴木さんはさまざまな取り組みを仕掛けている。

次世代のリーダーとなる変革者(イノベーター)を育成する「デジタルアカデミー」

デジタルアカデミーの講義風景(2019年当時撮影)

起業家精神とスキルを兼ね備えたビジネスリーダーの育成を目的とする「NYKデジタルアカデミー」は、海運業界の外の知恵を巻き込んで、社員の広い視野や知見を養うための取り組みだ。

「先を見通せない、かつ答えのない時代がきている今、求められるのは正しい課題を設定する力であり、自ら考える力です。まず正しい問いを設定しなければ、正しい解を得ることはできない。広い視野と知見を持って、開いた世界にいかにして飛び込んでいくかを自ら判断できる、そうした人材をどう育てていくのか、ということが最も重要な戦略です」(鈴木さん)

アカデミーの土台となるのは「デザインシンキング」。正しく課題設定をする力や思考力を、座学とワークショップを中心に身に付けていく。学びを生かし新たなビジネスモデルを構築し、経営幹部へプレゼンする機会を得ることができる。アカデミーの学長には自社で実際に事業を成功に導いた社員が着任。自前講座を基本とし、必要に応じて外部講師も教鞭を振るうという。

「それまで発想が乏しかった人も、アカデミーに入ったことで自発的にアイデアを出すようになる、アポイントが取れるようになるといった効果が聞こえます」(鈴木さん)

データから新たな価値を生みだす「データラボ」

また、国際的な海運事業を営む日本郵船が持つ膨大なデータを活用し、新たな価値を生み出す取り組み「データラボ」も興味深い。データラボは複数人数でチームを編成し提示した課題への取り組みを、会社が支援してくれるというものだ。データを操ることに楽しさを感じる人、ワクワクする人たちを応援する仕掛けであり、現在は30ほどのチームが活動しているという。

アカデミーやデータラボを仕掛け、人材育成の観点から変革を画策する鈴木さんは、人の心を動かすことの重要性を話す。

「人は心が動かなければ行動しないものです。好奇心があれば必ず疑問に思い、調べる作業をして、考えて自分なりの答えを出してくる。何だろう?という感情が芽生えることで学ぼうとする姿勢になる。そういった行動の起点や、きっかけを作ることが重要だと考えています」(鈴木さん)

新規事業の立ち上げも実現。ワクワク感を持って活躍してほしい

「MarCoPay」アプリ

アカデミーやデータラボ等から発出した新規事業や新たな技術は、採用されて成功を収めたケースもある。実際に、若手社員はフィリピンでフィンテックの新規事業である「MarCoPay」を立ち上げ、現地社員を40名ほど抱えるまでに成長を遂げた。社員のやってみたいという声を尊重する、そうした柔軟さや懐の深さがある会社だと鈴木さんは頬を緩める。

「コンプライアンスが厳しくなっている昨今、自由闊達さが社会から消えつつあります。そんななかで、一定の規律がありつつも伸び伸びワクワクして活躍できる場を提供することが、会社として重要なことです」(鈴木さん)

社員の好奇心や探求心に火を点けることで変革を成し、日本郵船の新たな価値創造はさらに加速していく。日本郵船が今、面白い。

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