その高校は、定着どころか「そもそも新規募集をかけても新卒の応募が来ない」ようなところだった。その上で、中途採用も含めて離職が相次いでいたという。
「(中途採用でベテランの先生は)生徒の質が低すぎるという理由で1か月で退職。その補充で来た新卒の若い先生は、数年頑張って居ましたが公立学校の試験に合格し退職」
この新卒教諭は「4月になっても仕事が決まらない所で雇ってもらった恩があるから数年我慢したけど、それが無ければ1年で辞めていた」と男性に語っていたという。また
「県内の他校で講師をされた後に来た方は、生徒対応が上手くできず担任をしていたのに半年で退職。新卒で野球部の顧問をされていた方は、野球部の監督が年度途中で亡くなられ、その後急遽監督にさせられ学校から部員の対応など様々なことで追い詰められ休職し、結局監督になって1年程度で退職」
新卒で担任・部活顧問として生徒とじっくり向き合うことが、かなり難しい学校だったようだ。
勤務時間外に2時間家庭訪問したが「手当が250円でした」
その後の説明から、悪いのは何より労働環境であることがうかがえた。勤務時間は17時15分までのはずが21時から22時ごろまで働くのが常態化。職員には「管理職が命じたものでなければ残業にならない。残業代は一切出ません」と言い渡されており、ある時間になると「強制的にタイムレコーダーを押させられる」という典型的なブラック労働だった。男性は
「表向きには働き方改革をうたっていて、労働基準監督署にもこの虚偽の報告をしています」
「一度管理職に命じられ、出張の届けを出して勤務時間外に2時間家庭訪問に行った際の手当が250円でした」
と振り返る。以前は労働組合もあったが、組合長をやっていると嫌がらせ(降格人事)に遭うため、活動を誰もやりたがらず「労働条件もどんどん悪くなってます」と明かす。
「校長は私の給料を聞いて絶句されていました」
そんな激務の上に、給与体系も到底納得できるものではなかった。20年ほど前の給料表では「新卒で40歳まで勤務したら手取りで27万円程度」だったという。ところが、現実は「60歳まで勤務しても最高で手取り23万円程度」ということだった。
男性は12年目になるとき学年主任をするよう依頼されたが、
「『こんな給料(手取り18万円)ではとても無理ですので退職考えます』と校長に伝えました。校長は公立中学校を定年になった雇われ校長で、私の給料を聞いて絶句されていました」
と逆に驚愕される始末だった。
そのときは校長を通して理事長に交渉し「5年分の昇給」で仕方なく引き受けたというが、「それでも手取り19万円」。翌年も交渉したものの「結局手取り20万円止まり」だった。男性は結局、
「13年勤めましたが退職を決め、現在公立学校で勤務しています」
と報告している。現在その学校は、新卒の応募をかけても人が集まらないため、校長の知人で「中学校を定年退職した先生や、臨任講師など」を雇っているそうだ。しかし、そうした教員たちは
「管理職でないにも関わらず、10年以上勤めている中堅の先生方よりも高い給料で採用され、仕事はそれほど重要なポジションに就いていない」
という。そのため「比較的若い先生の負担が増え、ますます働きにくくなっている」と負の連鎖は止まらない。男性は在職の教員からこうした内情を聞き心配しているようだが、正直に言えば辞めて安堵しているのではないだろうか。