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テレワークでワークライフバランスが崩壊した男性 「起きている時間は全て仕事。土日はもちろん深夜・早朝勤務も当たり前」

旧帝大の大学院卒で、就職氷河期に前述の化学メーカーに研究員として入社した男性。技術責任者として会社に大きな利益をもたらしたが、30代半ばで課長職に就くと、その後は十数年も給料が上がらなかった。

「部署ごとに実力で昇格するのではなく、他部署から仕事を知らない部長が異動してくるケースが9割以上でした。私は部長から『君がいないと仕事が回らないから異動させられない』と、給料は上がらないまま留め置かれました」

それでも男性は経験と実績で他部署や取引先にも信頼され、部長に代わってあらゆる実務や判断を求められた。コロナ禍は、そんな状況に拍車をかけたという。

「仕事量は倍増どころではなく、在宅ワーク環境が整ったため、土日はもちろん深夜・早朝勤務も当たり前になりました。毎週1日以上は徹夜して業務に当たらざるを得なかったです」

労務管理上は大問題だが、上司は勤務記録の改ざんを「管理職の義務であるかのように」命じてきたという。当時を振り返り、男性はこう主張する。

「在宅ワークは必ずしもワークライフバランスが確保できるものではありません。通勤という行動がないため、起きている時間全てを仕事に充てることが出来てしまう。まるで締め切り前の漫画家のイメージです。すべてに締め切りがあるのがビジネスですから」

責任感を持って取り組めば取り組むほど、社内外から難易度の高い依頼が増えいつまでも仕事が切れなかった。

「ただでさえ短納期で無理がある案件なのに、部長が自力で対応できない資料作成を代わりにすることもありました。説明できるはずの立場の人間が説明できない、案山子のような部長たちだったと思います。業績はもちろん下降して特別損失まで計上しています」

異動してくる部長が役に立たないため、難易度の高い仕事が中間管理職である男性に集中。ストレスで激太りした。

「70キロ後半の体重でしたが、48歳の当時、気が付けば100キロになっていました。血圧も上がりイライラしやすくなり、子どもたちは私に寄り付かなくなりました」

在宅ワーク中に突然死した20代の同僚

そうした中、同期たちが部長昇進をし始めた。暗い気持ちに耐えていた男性は、ついに転職を決意。年収1050万円の前職から、1600万円の現在の会社に転職した。前職を辞めるときには引き留められたというが……

「退職願い提出後、引き留めのため『どの部長がいい?』とずらっと役職を並べられました。しかしその中には、無茶な買収で赤字となった事業の面倒も紐づいていたんです。自分の人生のために、あの会社を見限ってよかったと心から感じています」

男性がこう実感を語るのには、他にも理由がある。

「実は、この無茶な買収によって予定外の実務を押し付けられた有能な30代の社員が、理不尽な職務追加を受け入れず退職しました。その仕事を請け負うことになった派遣の20代女性が、在宅ワーク中に突然死しています」

「因果関係不明のままで事件として世に出ていませんが、36協定に抵触する時間外労働が続いていました。起きている間中、一人でずっと仕事をされていたのでしょう。もともと定年退職した方の引継ぎで派遣され、正社員を目指して頑張っていた大変まじめな人で本当に残念なことです」

その女性は一人暮らしだったため、朝の定時連絡がないことを不審に思った上司が確認に行くと、既に息を引き取っていたという。

「在宅勤務、リモートワークは決してワークライフバランスを向上させるとは限らない、という証左と思っております」

こう警鐘を鳴らす男性は、転職から1年経った現在をこう語っている。

「仕事をやればやるほど仕事が増え、給料があがらない、ずっとストレスでした。本当に死ぬ前に転職してよかった。以前を知る多くの方々に顔色が良くなったと言われ、子どもたちも仕事で不機嫌な父親にびくびくしないで以前よりずっと仲良くなれました。現在はストレスがなくなり体重も15キロ減り、かなり健康になれました。今日も取引先の研究所で、製品製造の指導をしています」

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