成果を「正しく評価」できれば、日本人の働き方は変わる――spice life吉川社長に聞く「働きやすい会社」のつくりかた(後編)
社員をとことんまで働きやすくすると、生産性が上がる――。これは管理主義的な要素が強い日本的なマネジャーにとって信じがたい話かもしれない。
東京・渋谷にあるspice life(スパイスライフ)社には、勤務時間という概念がない。半期に一度設定する成果を上げれば、いつ働いても良い。しかも自己研鑚のための費用は、ほぼすべて会社が負担してくれる。
事業面では、オリジナルTシャツを1枚からウェブ上で簡単に作れる「tmix」、大量のオリジナルTシャツを安く作れる「tmaker」が好調だ。ほかにもソーシャルで花を贈れる「SPOTLIGHTS」(β版)や、TシャツデザインiPhoneアプリ「DECO-T」のグローバル展開も狙っている。
働きやすさと人材の優秀さがリンクし、事業に良い循環として跳ね返ってくる。そんなspice lifeの吉川社長に、いまの事業の話と今後のビジョンを伺った。
前編はこちら→社員の能力を100%発揮させるためなら「何でもやる」――spice life吉川社長に聞く「働きやすい会社」のつくりかた(前編)
――spice lifeでは個人の成長にたくさんコストをかけていると思います。それが目に見える形で、サービスにどう返ってくるのでしょう?
吉川:色んな経験をすることで人は成長し、成長することによって作るサービスが良くなっていくと思うんです。だから、個人の成長を促していく。
良いと思うサービスは、色々な経験をしないと生まれないんですよね。経験をしていると、選択肢の幅が広がり、その中から一番良いと思えるものを選択して、実装できるようになると思うんです。
僕らがやっている「tmix」や「tmaker」のようなサービスは「みんなで着る」とか「贈る」っていう文化に寄っているものですよね。そういうものを作るときに、「ただエンジニアリングが優れているだけでいいのか?」っていう。
例えば、今年9月末には、エンジニアの社員たちを連れてアメリカのシリコンバレーに行くんです。ちょうどグーグルやツイッターの社員と交流する機会があるので、みんなでIT業界の聖地に行って来ようかと。
人間的成長みたいなのを、会社や仕事を通じてできるっていうのが、結果的に最高の仕事になるんじゃないかと思うんですよね。だから社員にはそういう機会があったら、積極的に参加してほしいし、会社もそれをサポートしているんです。
――吉川さんのお話には「優秀な人」がよく出てきます。どのように優秀な人を見極めるか、というのは多くのベンチャー経営者が悩んでいるところだと思うのですが。
吉川:そうですね。エンジニア的なスキルに関しては開発部長が評価しているので、僕は主に人間的な評価ですね。
当社は面接っていう面接はやらないんですよ。飲みに行くんですね(笑)。そこで、一般の面接では聞かないような質問をするんです。例えば、「2020年の東京オリンピックのときに、インターネットの世界はどうなってると思う?」とか。
そのような質問を通して、そこでの反応を見たり、「世の中をどうしたいんだ」っていう熱意ややる気を聞きます。事業をしていると、必ずカベがどんどん出てくるので、そういったカベにぶち当たったときの反応を見たいんですよね。なので、すぐ「わかりません」っていう人はちょっと(笑)。
カベにぶち当たっても何とか答えを出そうとし、仮説を立てて、それを積み重ねて、なんとか解決を模索しようとする。仮にいま経験が足りなくて答えが出なくても、考えようとする熱意がある人がいいですね。意外といないんですよ、答えを「ひねり出そう」とする人って。
仮説を立てて、ちょっとしたことを積み重ねられるかどうかって、できる人になるかどうかに大きく影響するじゃないですか。そういう「芽」があるかどうかで、「優秀」かどうかを見てますね。
――そういう優秀な人から、日本人の働き方は変わっていくのでしょうか?
吉川:変わっていくと思いますよ。例えば、英語ができれば、日本人のエンジニアには優秀な人が多いんで、シリコンバレーとかどこでも働くようになると思いますけどね。
あと働き方でいえば、これは自己管理できる人に限ると思いますけど、どこで働くとか関係なくなっていくと思いますね。コミュニケーションさえ取れれば、どこでも仕事できますし。
受託系の会社はなかなかそういう働き方は難しいかもしれません。でも、自社のWebサービスをやっている企業だったらできる。当社みたいな小さい会社から、そうなっていくんじゃないかなと。
細かいコミュニケーションを取って、会社の方向性を理解してもらう。そしてそういうのが好きな人たちが集まれば、あとは成果を信用していくことで十分ランニングできます。
会社は会社のために、社員の能力をうまく引き出す。それが結果として、会社の成長にもつながっていくんじゃないかと思います。
――そうした新しい働き方が広がれば、生産性も上がりそうですよね。
吉川:そう思います。主婦の人や、色々な事情で8時間働けない、という人がいますよね。人間、生きていれば人生が急に変わってしまう場面ってあるじゃないですか。在宅で働けないとか、パートタイムは無理とか。旧来型の「ルール」や「枠」のせいで、せっかく積んできたスキルが使えなくなってしまうって、本当にもったいないと思うんです。
経営者やマネジャーが部下の成果を正しく評価して、働き方を信用する流れが広がっていけば、いままでの枠にとらわれない仕事の仕方ができるようになると思いますけどね。
――最後に、spice lifeがこれからどんな会社になっていくのか、そのビジョンについて聞かせてください。
吉川:「人生にスパイスを。」というのが、社名に込めた意味です。例えばいまのメインであるオリジナルTシャツ事業は、世界で唯一のモノを作って、仲間と着て楽しむサービスです。
一緒にオリジナルのTシャツを着てチームでイベントに出るとか、プレゼントで贈るとか色々あると思うんですけど、それを友達や家族、仲間で共有する経験って、かけがえのない良い時間なんじゃないかと思っていて。
いままではイラストレーターの入稿データがないと、Tシャツって作りにくかったんです。でもウェブで簡単にデザインできます、誰でも使えますよ、というサービスがあれば「かけがえのない時間を同じTシャツを着て共有したいな」というきっかけがあったときに、それが実現しやすくなりますよね。
人々が大切な人や仲間ともっと楽しい時間を過ごせるような機会を、ITで「生み出しやすくする」「起こりやすい世界にする」というのが、spice lifeのテーマです。ホットな体験や経験を生み出せるサービスを、もっともっと世に出していきたいですね。
- グーグル、アップル、フェイスブックなどが実践する── 世界でいちばん自由な働き方
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- 発売元: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/05/24