ウソで人を集める「ブラック求人」を排除せよ! ハロワでは「求人を下回る労働条件」を禁じる取り組みも
宮城県の男性(20代)は、とある求人広告に目を奪われた。勤務地は自宅のある大崎市内、仕事は自動車整備全般・タイヤ販売、待遇は正社員というものだった。
地元で好きな車関係の仕事ができると考え、応募したところ即採用。「まだ子どもが小さかったので、すぐ帰れる場所がいいと思って。そのときはずっと一生(この会社で)やっていこうと思いました」と喜んだ。
しかし入社後に言い渡された勤務地は、車で1時間半かかる仙台。仕事は派遣社員の管理と営業だった。自動車とは無関係の業務。疑問に思って先輩に尋ねたところ「何を言ってるんですか。人材派遣だよ、うちの会社は」と言われたという。
「話が違うじゃないか、とはなったが、それでも子どもが生まれたばかりでお金もない。とにかく稼がなきゃいけなくて、辞められなかった」
勤務は早朝から深夜に及ぶこともあったが、残業代は出ず。男性の妻は「何時に帰ってくるか聞いても『上司が帰らせてくれないから分からない』と言われて」と振り返る。遅い日には深夜2時頃まで仕事をし「体力的にも精神的にも結構疲れていた」と証言した。
「みなし残業代」で給与を水増しする手法が横行
入社後半年を過ぎたころ、男性は退職を決意。今年4月、「虚偽の広告で入社することになった」として、慰謝料などを求めて裁判を起こした。会社は「勤務地と業務内容は入社前に説明している」とする書面を提出し、訴えを退けるよう求めている。
労働問題に取り組むNPO法人POSSE(東京・世田谷区)には、ここ2年でこうした相談が転職・新卒を問わず急増しているという。特に目立つのは、みなし残業代で基本給を水増しし、あたかも給与が高いかのように見せかけるケースだ。
「他の内定を辞退したり、元いた会社に退職届を出してしまえば、(入った会社を)簡単に辞められない。1、2か月で辞めてしまうと(職務)経歴書に傷がついてしまい、次の転職も難しい。我慢して働き続けている方がたくさんいるのが実態です」(POSSE代表・今野晴貴さん)
こうした問題が、なぜ起きてしまうのか。労働問題に詳しい法政大学の上西充子教授は「求人広告の内容には明確な基準がなく、企業側が自由に書けてしまう」と指摘する。求人と実際の労働条件は別のものという言い訳ができるようになっているのだ。
あいまいな表記やウソがあっても、「それを取り締まるしくみが整備されていないのが問題」とした上で、今後厚生労働省の会議で、求人段階での統一した基準や、虚偽の情報提示には罰則を設けることが検討されていく見込みだという。
「労働条件を書面で受け取り確認」などの自衛策も
ハローワークでも、すでに対策が講じられ始めている。全国一取り扱い求人数が多いハローワーク品川(東京・港区)では、新規で求人する全ての企業に、求人票を下回る条件での採用をしないよう求めている。
求人を下回る条件で採用する場合には、いったん不採用とし、ハローワークと相談した上で改めて労働条件を提示、応募者と話し合うこととする。これを守らずトラブルに発展した場合には、その会社の求人を行わないと受付時に確認する徹底ぶりだ。水野治雇用開発部長は、こうコメントする。
「私どもがお預かりした求人でそういう問題がおきたということがあれば、それは本当に悔しいですし、企業に反省や今後の改善の取り組みなどはしっかり形をつくってもらう。(そうして)求職者の期待に応える必要があると思う」
求職者にとっては当たり前のことだが、ようやくこのような策を講じてくれるところが出てきたことは歓迎したい。さらに個人ですべき対策について、上西教授は「求人内容をよく読み、確認し、保存しておくこと」「労働条件を書面で受け取り確認」「おかしいと感じたら専門機関などに相談」とアドバイスしている。
ひとつ気になったのは、「いったん入った会社を簡単に辞められない」と我慢して働いている人がいることだ。「ウソをつくひどい会社に引っかかってしまって」と理由を説明されたとき、次の会社の人たちはきちんと理解してあげて欲しいものだ。
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